DIPSは、ボロス・マクラッケンという法律事務所の事務員が、暇にあかせて考え出した指標である。被安打、失点などは、投手の責任ではなく、「運不運の問題である」とし、投手の真の実力は、投手が自分でコントロールできる「三振、四球、被本塁打」だけで計ることができるのではないか、という考えがもとにある。マクラッケン自身も半信半疑だったが、データを集積すればするほどDIPSは正しいのではないかと思うようになった。このあたり、傑作『マネーボール』の「サブマリナー誕生」という章を読んでいただきたい。



DIPSは、失点、被安打を一切考慮に入れない。たとえば、

「10安打を打たれ5失点(自責点)ながらも無四球、10奪三振で9回完投した投手」は、 防御率=ERAは5.00だがDIPSは、0.98。

「被安打2本だが2本ともソロ本塁打。奪三振ゼロで5四球で完投した投手」は、 ERAは2.00だがDIPSは7.76になる。

釈然としない気もするが、長いシーズンを戦う中でDIPSは、精度を増して投手の実力をより正確に評価する指標となる。

初期のDIPSは、(与四球×3+被本塁打×13-奪三振×2)÷投球回+3.2という数式だった。しかし今は{(与四球-故意四球+死球)×3+被本塁打×13-奪三振×2}÷投球回+3.12を使うのが一般的。四球から敬遠を差し引き、デッドボールを加えたのだ。

NPBで規定投球回数に達した投手のDIPSを調べてみることにした。お断りしておくが、思い立って2日しかなかったために全投手をしらべることはできなかった。ERA2.5以下、またはERAベスト10に入った投手のみを調べた。あるいは、漏れがあるかもしれない。

現在使われているDIPSと、敬遠、死球を計算に入れない古いDIPS=DIPSOを併記した。NPBでは1954年までは敬遠、死球を記録していなかった。この時代の投手も比較の対象にしたいからだ。DIPS、DIPSOいずれか1つでも2.5以下を記録した投手を並べる。

驚きの事実が浮かび上がってきた。



2011年のダルビッシュ、田中将大は、DIPSが2を切るというかつてNPBが一度も記録したことのないレベルの投球をしている。四球、被本塁打が極めて少なく、三振を取りまくっている。統一球、審判団再編の恩恵はもちろんあるだろうが、偏差値でも取り上げたように、特に今年のダルビッシュの投球は、群を抜いている。

DIPSが2.5を切るためには本塁打、四球が少ないだけでなく、奪三振が多くないといけない。慎重に投げるだけでなく、攻めの姿勢が必要だ。これが難しいのだと思う。たとえば、1956年の阪神渡辺省三は、4被本塁打、30四球しかも投球回数260.1とダルビッシュを上回っていたが、奪三振数が84でDIPSは2.97(DIPSO3.10)だった。

この表にはダルビッシュが4回も出てくる。なみいる古今の大投手が、キャリアハイでやっと記録するDIPS2.5以下をダルビッシュは、日常的に記録しているのだ。

なお、1リーグ時代の投手では、調べた限りでは1940年阪急の野口二郎の2.53、続いて1937年春の巨人澤村榮治の2.54がある程度だ。この時期は被安打、被本塁打は少ないが、四球が非常に多かったのだ。

表を見ると、DIPS2.5以下を記録した投手は1950年代後半と2005年以降に偏っているのが分かる。ラビットボールによる空前の打高投低時代を経て大投手の時代を迎えた50年代の投手が多いのはわかるが、なぜ最近DIPSの良い投手が増えたのか。一つは松坂大輔以降、好投手がパリーグに集中したことがあげられよう。そしてセイバーメトリクスの考えが浸透し、「四球は罪悪」という考えが広まったのも大きいのではないか(今はテキサス・レンジャーズ=TEXにいるコルビー・ルイスが2年とも2.5以下を記録しているのは興味深い)。

稿を改めて、MLBとの比較もしてみる。

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