kitagawa-20121007-02


あの奇跡の代打サヨナラ満塁優勝決定(つり銭なし)本塁打が、スクリーンに映された。打球は北川のバットにはじかれた後に、グンと加速したように見えた。センターに突き刺さると、金髪の中村紀洋やタフィ・ローズが飛び出した。
もう11年も前のことなのだ。私はテレビでこの試合を見ていたが、野球のことが少しわかり始めた倅が、4回に近鉄が逆転されると、突然床に突っ伏して泣き始めた。子どもが初めて見せた激しい感情表現にたじろいでいるさ中に、北川の奇跡の一発が飛び出たのだ。あれ以来、多くの人々にとって北川は特別の選手になったことだろう。

kitagawa-20121007




数字を見れば、「二流のスラッガー」という表現がピッタリである。捕手上がりで鈍足、打率も上がるほうではないし、数字も大したことはないが、勝負強いし、存在感もある。5番に置くには最適だと思われた。
北川がこんなに打つ選手だという印象は、阪神時代にはほとんどなかった。体は大きかったが、鈍重な印象で、肩も弱く、控え捕手がせいぜいだと思われた。
しかし、近鉄に移籍して一塁に転向し、代打として数字を残し始めて北川は徐々に頭角を現し始めた。2001年の奇跡の一発は、勝負師北川の名を世間に知らしめたのだ。
3割も1度記録しているが、成績としてはそれほどすごい数字は残していない。オールスターにも選ばれていない。しかしローカルでは人気のあった選手だ。

昨年は6/26にアキレスけん断裂の大けがをして以後のシーズンを棒に振った。ただしそれまでの数字を見ても、長打力の衰えは顕著だった。統一球の影響があったのかもしれない。引退してもおかしくないと思われたが、今季も代打、指名打者で使われていた。

kitagawa-20121007-01


この日、北川は、昨年の6月26日以来、つまり大けがをした試合以来一塁を守った。最初から少し泣き顔だった(もともと泣き顔ではあるが)。
そして4度の打席は精一杯振り回していた。北川が打席に立つたびに、(約24274人、三塁側1階席はほぼ満席)の客席からは、拍手が潮騒のように起こった。球場で一番聞きたい音はこれだ。太鼓やラッパの音ではない。北川も感無量だっただろう。

そして代打サヨナラ満塁優勝決定本塁打の映像が流れ、まだ少しほっそりしていた北川がナインにもみくちゃになるシーンになると、観客席からは大きなため息が沸いた。映像に移っているのは、オリックス・バファローズではなく、今はなき近鉄バファローズなのだ。そのドラマチックなシーンを見て、人々は「近鉄」というチームがあったことを改めて思ったのだと思う。

思えば、北川は幸せな選手だった。しかし、彼がこんな幸せなラストシーンを迎えることができたのは、いつも真摯に野球に向き合ってきたからだろう(この日ともに引退する控え捕手の鈴木郁洋が試合に登場しなかったのは残念だが)。

北川は長く記憶に残る選手になるだろう。



10月14日(日)「東京野球ブックフェア」で会いましょう!
TokyoYakyuBookfair2012-2


私のサイトにお越しいただき、ありがとうございます。ぜひ、コメントもお寄せください!