新年のクイズ番組で清原和博が、「左」を英語で言えなくて困っていた。よくぞMLBに挑戦しなかったものである。元木大介などもそうだが、脳味噌が筋肉に置き換わったまま世渡りをする元野球人もいまだにいる。清原は今は選手時代のリアリティを残したいい解説をしているが、このままでは次第に劣化していくだろう。
一方で、清原と同窓生の桑田真澄のように引退してから早稲田大学大学院のスポーツ科学研究科で学び、首席で卒業するような人もいる。野球を退いてから学びなおしたという点では、ビジネスの世界に進出している長谷川滋利なども同類だろう。

『週刊ベースボール』には、「全力投球仕事人ファイル」という不定期連載のコーナーがあり、プロ野球を引退して第2の人生を開拓している元野球人が紹介されている。彼らは元NPBという知名度や話題性を活かして仕事を拡げてはいるが、野球界の既得権益に依存してはいない。野球に打ち込んだ第一の人生にキッパリと見切りをつけて、世知辛い実社会で生きて行こうとしているのである。

一方で、引退後も野球界のコネクションにすがって生きようとする人々もいる。大学に入り直し、教員免許を取得して指導者になる人もいるが、ボーイズリーグや少年野球の指導者に収まる人も多い。もちろん、子供たちを立派に指導している指導者もたくさんいるだろうが、我が子をプロ野球選手にしたいという親の欲目につけ込み金品を要求したり、有望な選手を私立高校に斡旋してマージンを取ったりする連中もいる。いわゆる野球ブローカーだ。ドラフトの指名にからんで、まるで人買いのような所業をする輩もいるといわれる。

プロスポーツとアマチュアの敷居が低いアメリカでは、身体能力の高い高校生、大学生は重要なビジネスマターになる。有望な若者には十代からエージェントがつき、マネーゲームが繰り広げられる。そのえげつなさは日本の比ではない。しかしながらそれらは全てオープンにされる。若者を取り巻くエージェントたちは、世間の非難を浴びながらも堂々とビジネスを追求するのだ。
日本では、建前上アマチュアリズムは生きているから、表面上は綺麗事である。しかしその裏でアメリカと似たような青田買いの商売が展開されている。裏にこもる分だけ、話は陰湿になる。そしてその裏の世界で元プロ野球選手が暗躍しているのだ。

軍司貞則さんの『高校野球「裏」ビジネス』の最終章で、仰木彬の葬儀に参列した元プロ野球選手たちが焚き火に当たりながら、仕事がない事をかこつ場面がでてくる。現場に居合わせた少年野球の関係者は、「なんか仕事あらへんか」と言い合う彼らが、少年野球を食い物にするだろうと確信し、暗然とするのだ。






子供たちと親、そして学校、プロ球団を相手にした人身売買めいたビジネスが、日本の野球界に根を張っている。建前上は改革の必要性を誰もが口にするが、そうした裏ビジネスは一向になくならない。

NPBが完全ウェーバー制(ドラフトで下位の球団から選手を指名していくやり方。MLBが実施している)に踏み切れないのは、各球団が裏ルートで目を付けた選手に様々な名目で金銭や便宜を提供しており、ブローカーや指導者なども含めた全国的なネットワークを構築しているからだと言われる。どの球団も、これがサンクコストの呪縛になっているため、公明正大な新人選択システムに移行する気はさらさらないのである。こうした体質が高校生を巡る不祥事やあこぎなブローカーの暗躍を許している。また球界の不均衡の是正を阻害している。

さらに野球を通して、健全な青少年を育成するはずのアマチュア野球も、こうした裏ビジネスを是認することによってその本分を歪んだものにしている。また世間からは「野球界は胡散臭い人物が仕切っている」と見られてしまっている。

清原のように、馬鹿を小出しにして世間様に笑われることで、おまんまが食える幸運な野球人は一握りである。多くのプロ野球の引退者は、こうした裏ビジネスのすそ野に連なっている。昔の栄光と、馴れ合い的なネットワークの中で生きている。

これは彼らだけの責任ではなく、流動性が少ない日本の雇用システムや、経済環境の問題でもあるが、NPBが抜本的に変わるためには、何十年にもわたって根を下ろしてきた、不健全な「裏の野球」を根絶やしにして、新たな体系を作ることが必要なのだと思う。

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