西武の中島裕之のニューヨークヤンキース=NYYへの入団交渉が決裂した。
独占交渉権を250万㌦で落札したものの、NYYはハナから中島を「控え」の扱いで、年俸も100万ドル程度の提示。NPB屈指の強打者でありゴールデングラブの遊撃手に対してこの扱い。MLB1の金満球団として知られるNYYだが、無駄な金は一銭も使わないというシビアさを見せつけている。NYYの内野陣はMLBでもトップクラスだから、控えの扱いになるのは仕方がないが、年俸が今の三分の一になるのは耐え難かったのかもしれない。

同様に移籍を目指している青木宣親の場合もシビアだ。中島同様、250万㌦で独占交渉権を落札したミルウォーキー・ブリュワーズ=MILも、入団テストのように実技を披露させたうえで交渉に入るという。外野手の青木の場合、特に打撃をチェックされるのだと思う。青木は昨日渡米したが、NPBでの実績も人気も考慮しないというMILの姿勢に冷水を浴びたような気になったのではないか。彼も今の年俸(3.3億)を下回るのは確実だろう。

さらに川崎宗則は、1月4日、シアトル・マリナーズ=SEAとマイナー契約(スプリングトレーニング招待)を結んだ。彼が「マイナーでもいい」と言ったという報を聞いた当初は、川崎はあまりにも自分を安く売りすぎると思ったが、中島や青木の評価、扱いを見ると、川崎の判断はむしろ妥当ではないかと思い直した。川崎クラスのNPB選手がスプリングトレーニングで生き残るのは、それほど難しくはない。そしてMLBのロースターに入ればオプション付きで100万ドル程度の契約を結ぶことになる。結局、中島、青木と似たような年俸に落ち着くのだ。MLB側からシビアに評価され、プライドを傷つけられるよりは川崎のように、自ら挑戦者になるほうが気持ち的には救われる。

昨日紹介したように岩隈久志もSEAとの契約寸前といわれるが、おそらく年俸は150万ドルを大きく超えないだろう。また昨年のパリーグMVPの和田毅も2年814万ドル(6.5憶円)の契約を結んだが、これは2011年の年俸(3.3億)をそのままスライドさせたにすぎない。
結局、今期NPBから移籍する選手の中で日本でもらっていたより高い年俸が取れそうなのは、ダルビッシュ有だけになりそうだ。





野茂英雄、大魔神佐々木の成功とイチローの驚異的な活躍などによって「日本には使える選手がいる」と色めきたったMLBだが、その後の移籍選手たちの多くが期待を裏切る結果になったことで、今や完全に冷静な目を取り戻している。特に打撃(長打力)と内野手の守備、そして救援投手の実力については、NPBの実績をほとんど信用しなくなっているように思える。

確かにこの期間、NPB選手の中で安易な移籍が続いたようにも思う。「だめなら日本へ帰ればいいや」という甘さを感じさせた選手もいた。江夏豊は最近、彼一流の不躾さで「メジャーでの失敗は、選手として『カス』になったということ」と言ったが、本質をついた発言だと思う。

反対にマイナー契約から這い上がったNPB選手の中には、MLBで息の長い活躍をしている選手がいる。ワールドシリーズに何度も出た田口壮がそうだし、最近では斎藤隆や高橋尚成もそうだ。基礎がしっかりしているNPB選手は、アメリカの一軍半の選手には競り勝つことが多い。そして環境に適応して「MLBの選手」として新たなスタートを切っているのだ。
いっそのこと、「NPBからMLBに移籍する選手は、スプリングトレーニングの招待選手から始める」というルールでもできればよいと思う。こうすれば安易な移籍はなくなるし、MLB側もじっくり選手を品定めすることができる。

恐ろしく古いたとえ話を引っ張り出して誠に恐縮だが、昭和初年まで相撲界には東京相撲(江戸相撲)と大坂相撲という二つの興業組織があった(厳密には明治まで京都、名古屋にもあった)。それぞれが番付を作り、本場所を開いていたが、東京相撲と大坂相撲では大きな実力差があった。ちょうどMLBとNPBのようなものだ。

明治初年、大坂相撲でトップの大関にいた梅ケ谷藤太郎(初代)は、東京相撲に身を転じた。しかし大坂相撲を軽視した東京側は、なんと彼を番付外の本中にランクした。これに発奮した梅ケ谷は連戦連勝で番付を登り、新入幕で見事優勝。ついには58連勝をする大横綱となって明治期の相撲界をけん引したのだ。
本来の「挑戦」とはこういうことだろう。実力さえあれば、待遇は後から付いてくるのだ。

既に戦力再編中の西武にしてみれば中島の残留は、ポスティングの移籍金が入らなくなるうえに、中島の年俸負担が増えるという点で大きな誤算だ。後釜のレギュラー候補だった原などの選手にとっても迷惑だ。気まずい空気が流れるのではないか。その上来季FAで再び挑戦したとしても、年俸が上がる保証はどこにもない。

率直にいえば、ポスティングでMLBに挑戦を表明した時点で、何があっても帰らない覚悟ができないのならば、最初からやめておくべきではなかったか。残念なことである。

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