朝の続き。NPBは各球団を通して、昨年オフに引退したり、戦力外通告を受けたりした選手の進路調査の結果を発表した。対象は育成選手を含め日本選手146人。このうち76%にあたる111人が野球関係の仕事を継続していた。一般企業への就職は2人で、進路未定や不明の選手も29人いた。
野球関係では、トライアウトを受けるなどして他球団へ移籍した選手は20人。育成選手として再出発したのは、3年の契約期間が終了し再契約した選手を含め39人いた。引退してコーチに就任したのは8人で、打撃投手などの裏方や球団職員が21人。NPB以外の国内独立リーグや社会人、海外では21人がプレーを続けており、このうちBCリーグでの現役続行が9人と最多。野球解説者になったのは2人だけだった。

146人中111人が野球関係で再就職したといえば、優秀なように思えるが、このうち戦力外になって他球団や他リーグでプレーを続行したのが80人。この人たちは第2の人生をスタートしたわけではない。モラトリアムといっては酷だろうが、競技生活をあきらめきれなかったのだ。
残りの66人の内、野球界で就職したのは職員、コーチ、解説者を含め31人。残りの35人の内、29人が進路未定や不明なのだ(4人計算が合わないが、NPBの発表に従うこととする)。

夏の甲子園の予選を戦う高校は、全国で3500校もある。仮に各校で1学年に5人ずつが野球部入部するとしても、同年齢の高校球児は17500人いることになる。このうちNPBに進むのは、20人程度だ。倍率にして850倍以上。プロ野球選手は、東大生など比較にならないほどのエリートなのだ。

しかし、そんな超エリートであっても、現役を引退しても野球の仕事を続けていける人は、ほんの一握りだ。前稿でも書いたが、多くは何のコネクションもないままにキャリアをリセットされる。



日本では新卒大学生以外の就職は極めて厳しい(今は新卒大学生も厳しいが)。途中から一般社会に入れてもらうのは、本当に難しいのだ。雇用の流動性が少なく、一度会社に入った人は、なかなか辞めないし、その地位を譲らないからだ。
本来なら、彼ら野球エリートには指導者の道があってしかるべきだが、前稿でも述べたとおり、アマチュア球界にプロ出身者が進むのは、非常に難しいのだ。

MLB選手のセカンドキャリアは、MLB機構の指導者やスタッフ、アマチュア野球チームの指導者、そして一般社会の3つに分けられる。
MLBの機構は傘下に150以上ものマイナーリーグのチームを持っている。これらのチームの指導者やスタッフになる道がある。また、独立リーグの球団も6リーグで60ほどある。
そして大学、高校の指導者になる道も開けている。

さらにアメリカでは全米にリトルリーグのチームがあるが、MLB出身者がその指導者に収まっているケースも多い。通年のほかに、サマーキャンプなどパートタイム的にコーチを行うことも多い。プロアマの障壁は全くないから、アマチュア球界を渡り歩いて指導者キャリアを積むこともできる。

MLBで一定期間活躍した選手には、年金が入る。60歳から支給されるが、10年間一定以上の試合に出場した選手は、老後は終生豊かに生活できる。
これに対し、NPBの年金システムは近年破たんした。日本のプロ野球選手は、たとえどんな大選手であっても、老後の保障は一切ない。

もちろん、MLBの充実したセカンドキャリアや老後の保障は、MLBでそれなりに活躍した選手にのみ約束されている。競争に敗れてドロップアウトした選手たちにはそんなケアはない。またMLB選手になっても、大金を得て身を持ち崩す選手がいるのも事実だ。

しかし、アメリカの野球少年は、自分に才能があると確信したら、それに一生を賭ければよいのだ。選手として一定以上成功すれば、引退後の生活も保障される。

日本では、超有名選手にならない限り、選手たちの引退後には何の保障もない。あるのは「元プロ野球選手」という肩書と、過去の栄光だけである。

そもそも、アメリカは、雇用の流動性が高い。一般の人々でも何度も会社を変わるのが普通だし、そうしてキャリアを積み上げることができる。野球選手も引退してから大学に通って資格を取って専門家になるケースもふつうにみられる。

大昔の話だが、広島、南海で活躍したゲール・ホプキンスは、野球の傍ら医学を学んでいた。日本でもオフの日に医科大学に通って論文を書いていたのは有名な話だ。そういう形で、現役時代からセカンドキャリアを考えるのはごく普通のことなのだ。

人生設計のスパンで考えるならば、NPBに入るのはとても大きな「賭け」であることがわかる。同じように自分の才能を信じて生存競争に打ち勝とうとするのなら、MLBに挑戦する方が、はるかに得るものが大きい。

現状でいえば、NPBに進んだ選手たちの90%以上は、引退後、野球関係の仕事に就くことはできない。
元野球選手が犯罪を起こす確率が高いのか、低いのかはわからないが、セカンドキャリアに失敗して、困窮している元野球選手は少なくないと思う。高校球児だったころ、彼らは自分の前途がこんなに悲惨だとは思っても見なかったことだろう。

12月6日、NPB選手会定期大会が開かれ、会長が阪神の新井貴浩から楽天の嶋基宏に交代した。この定期大会の席上では、プロアマ交流が議題となった。

選手会としては、来年中にプロ選手や出身者によるアマチュア野球選手の指導を完全オープン化する方向で、アマ側に提案をするという。
これは至極まっとうな提案だ。プロ野球出身者が無条件でアマチュア野球の指導者になることができれば、プロ選手のセカンドキャリア問題は飛躍的に改善されるだろう。プロ選手をリタイアするのは毎年50~60人に過ぎない。3500校ある高校野球側がこの人材を受け入れるのは、全く問題がないはずだ

プロアマのオープン化が進めば、この障壁の間で暗躍するブローカー的な人間も駆逐されるだろう。アマチュア側も、この提案を受け入れるべきだ。

日本ハムファイターズは、2013年から元ヤクルト投手だった阿井英二郎をヘッドコーチで招聘することを決めた。阿井は、約6000人いるプロ野球選手の中で、五十音順でいの一番に来る選手だ(外国人も含めれば、クリス・アーノルドが一番。MLBではHank Aaronだ)。

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阿井はこれまで川越東高校の地理歴史の教師を務めながら野球部監督をしていた。ヤクルト時代の同僚だった栗山英樹監督がヘッドコーチに抜擢したのだ。
アマ球界は前例がないと騒いでいるが、こうした人事交流がどんどん進めばよいと思う。
午前中に紹介した罪を犯した元選手たちと、“阿井先生”との間に、キャリアの差はない。
阿井ヘッドコーチの手腕は未知数だが、結果を出すことで、後進に道を拓いてほしいと思う。

クラシックSTATS鑑賞もご覧ください。今日は新浦壽夫
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