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日本ハムが花巻東、大谷翔平に提示した資料は本文26ページ(表紙、目次含む)にも及ぶものだった。恐らくはパワーポイントでプレゼンしたのだと思われる。私にはなじみ深いスタイルの企画書だった。
■企画書はまず、大谷翔平の「夢」とは何か?を確認している。
「大谷君は、実力をつけてトップクラスの選手になりたいんだよね?別にアメリカに行きたいわけじゃないよね?」
「高校からMLBに行きたいのは、パイオニアになりたいからじゃないよね、MLBがトップクラスだから行きたいんだよね」
という形で、大谷の願望を整理している。

■次に、MLBトップになるための道のりを、NPBから入って海外FAで行くケースと、MLBに直接行くケースの2つで比較している。このフローチャートが素晴らしい。⇒P5

■ここから日本人メジャー選手のキャリアを分析している。最初に結論、まとめを掲げて、以降のページで詳細に説明している。プレゼンテーションの手法である「結論から言え」をきちっと踏襲している。わかりやすい。

結論は
・MLBで活躍している9選手は即戦力としての実力を兼ね備えていた
・即戦力はNPBで身に付ける方が可能性を高める
・30歳前後で渡米しても長く活躍できる
・早期渡米がトップレベル到達、長期活躍には今のところ結びついていない

■以下のページで、その詳細を説明している。

大谷は報道によると、韓国人選手が自国リーグを経ずに高卒でMLBに挑戦してほとんど失敗しているという事実に心を動かされたとのことだが、それは次ページ(P7)に紹介されている。

韓国では、94年以来55人が渡米したが、高卒メジャー選手は4人だけ。2005年以降は皆無だ。MLBに昇格した4人の成績も秋信守を除いて芳しいものではない。
また、大谷は高卒で初めてMLBに挑戦しようとしているが、それは
「世界(アジア)から見れば初めてのことではない」と念を押している。

■その上でP10ではNPBは「選手を引き上げる仕組み」だが、MLBは「選手を淘汰する仕組み」だと定義している。これは説得力がある。
日本人が韓国人よりもはるかに多くMLBで成功しているのは、NPBに選手を育成するシステムがあるからだ、というのだ。

■ほぼこれで言いたいことは尽くされているのだが、
P12以降では、
「中には若いうちから海外に行く方が有利なスポーツもあるんだよ」
と視野を広げさせる資料も提示している。我田引水ではないのだ。
テニス、スノーボード、スキーなどは若くから海外に拠点を置く方が良い。

■さらに競技別の海外進出の傾向をレーダーチャートを使って分析している。
その最後のページで再び野球が出てくる。日本国内と海外拠点(MLB)の比較だ。このレーダーチャートも秀逸だ。競技力ではNPBはMLBにやや劣るが、人気では互角、競技環境、生活環境ではNPBの方がかなり上、年俸はかなり下。
これがNPBが持っているMLBとの距離感なのだろう。
懇切丁寧なことに、他競技との比較を行っている。

■ここで整理
「国内で確実な力」をつける、についてサッカーの指導教本からとった定義を引いて

・日本人には世界と勝負するまでにすべき準備がある とし
・国内で実績を上げる中で、日本スタイルの、世界に通用する戦い方を身に付ける

のが必要だとしている。
殺し文句
「イチローは、18歳から渡米してもイチローになれただろうか?」

■最後に、最初に紹介した大谷翔平の「夢」について再確認している。

間然するところがない素晴らしい企画書だ。これをたった一人の18歳の少年のために作成したのである。
決して子ども扱いせず、真剣に説得しているのだ。

この企画書は、外注先に作らせたのではないと思われる。広告代理店なら、デザイナーを入れてもっと格好の良いものにするはずだ。1枚も写真を使っていないし、パワポそのままのスタイルだ。しかし、それだけに誠実さがあふれている。
ときどき鉛筆の書き込みがしてある。誰かの手元資料をそのままスキャンしたのだろう。

この資料を栗山英樹監督が直々に説明したのだととしたら、高校生にはひとたまりもなかっただろう。



末尾に、今回の資料公表に当たって、資料作成に協力してもらった人の名前を列記しているが、サッカーやテニス、柔道、卓球、そして韓国野球(室井昌也さん)の名前がある。
本気でこの資料を作成したことが分かる。

反対に言えば、サッカーなど他の競技では海外進出に関してのデータや指針をまとめた資料が整備されているが、NPBにはまだないということだ。

ここには、
「NPBをなめている」「育ててやった恩を忘れやがって」的な、野卑で不遜な姿勢は微塵も見られない。大谷の「夢」を理解して、一緒に考えようという誠実さがうかがえる。

また大谷もこの資料を理解できる聡明さがあったのだろう。数年前「Fighters」が読めない選手が入団したことがあったが、彼ならどうだったのだろう。



公開された資料とは別に、日本ハムファイターズの選手育成システムの資料も提示されたという。
日本ハムは梨田監督の時代に「教育コーチング」を導入し、選手のモチベーションを高め、成長させるための教育プログラムを実施している。教え方についても、納得性の高いものになっているのだろう。

もし、昨年、菅野智也が日本ハムのプレゼンテーションを受けていれば、球団側は適切な資料を作ったのかもしれない。
「1年浪人して巨人に行く場合と、今年日本ハムに行く場合の比較」
公開されることはなかっただろうが、ぜひ見て見たかった。

NPBにもようやくまもともな教育や、コミュニケーションができる企業が出てきたという印象だ。

この資料は、現時点でのMLBとNPBのシステムの違い、長所と短所を明記している点で、歴史的な価値があると思う。
野球ファン必読だ。

クラシックSTATS鑑賞もご覧ください。 今日は村上雅則。
Classic Stats


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