松井秀喜の記録を追いかけてきたが、今回は本塁打の飛距離についてみることにしよう。
『ON記録の世界』は、野球史上に残る著作だと思う。王貞治、長嶋茂雄という不世出の大打者を数字で徹底的に語りつくしている。宇佐美徹也氏の数多い出版物の中でも、これほどの密度の本は稀だ。巻末で宇佐美氏は、当サイトでもおなじみの報知新聞蛭間豊章記者ら、編集を手伝った後輩への謝辞も記している。

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ON記録の世界 (1983年)

さて、ここに王貞治868本、長嶋茂雄444本の全飛距離をまとめたものが掲載されている。
これと、松井秀喜の本塁打332本の全飛距離を比較してみようと思う。飛距離の数字は「00m台」を示している。

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ちょっとショッキングな記録である。

ONの時代の球場はほとんどが両翼90m、一番深いところは120m前後だが、左中間右中間は110m程度だった。両翼際の最前列に飛び込む本塁打は100mを割ることもあった。また130m以上飛んだ当たりの大半は場外本塁打になったため、計測不能だった。
王貞治の本塁打の79%、長嶋茂雄の本塁打の84%は、120m以下だった。
これに対し、松井の時代、球場の両翼は100m、センターは120mだが、左中間、右中間はふくらみがあった。100m未満の本塁打は地方球場を除いてはありえなかった。
松井秀喜の本塁打の内、120m以下の当たりは40%に過ぎない。

仮に今の標準サイズの球場でONがプレーをしたとする。119m以下の本塁打は50%、109m以下の本塁打は70%、99m以下の本塁打は90%がなくなると想定すれば、王貞治は431本、長嶋茂雄はジャスト200本に減ってしまう。
反対に松井が昔の球場でプレーをしたとすれば、498本に増える計算になる。

王貞治が引退したのは1980年、松井秀喜がプロデビューしたのは1993年、この間、88年に東京ドームが開場しているが、わずか十数年の間に日本プロ野球の「スケール」は大きく変化しているのだ。



残念ながらMLBでの松井の本塁打の飛距離は最近の3シーズンを除いてわからない。しかし、MLBの球場のサイズを考えればフェンウェイパークの左翼などを除いて100m以下の本塁打はありえない。

ほとんどが120mクラスだったと想定される。
最近のNPBの球場のサイズは、MLBとそん色がないものになりつつある。投手力の差を抜きにすれば、NPBでの本塁打も、かつてのように「チープホームラン」と呼ばれるようなものではなくなっている。

2012年、松井秀喜の最後の年の2本の本塁打はいずれもタンパベイ・レイズの本拠地トロピカーナ・フィールドでのものだ。いずれもたっぷりと飛距離があった。優に140mはあったのではないか。

野球という競技は日々成長している。ONの記録も「歴史の1ページ」になったという感を強くする。

※後楽園と東京ドームの比較をYAKYUJO.COMさんがしてくださった。非常に興味深い
こちら→



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