昨日、15人の女子柔道選手が、声明文を発表した。これは本当に「異例」だと言って良い。
選手たちは、女子柔道の園田監督を辞任させて事件の幕引きを図ろうとする全柔連、JOCに対して「待った」をかけたのだ。
園田監督の体罰やパワハラを1人の女子選手が全柔連に告発したのは、昨年秋のことだった。しかしこの抗議の声は全柔連によって握りつぶされた。
そこで新体制になった昨年秋に今度は15人の女子選手が、全柔連ではなくJOCに園田監督を告発した。JOCは、一応は受け止めたものの告発した選手への事情聴取などはせず、園田監督に謝罪をさせたにとどまった。
告発を受けたにもかかわらず、JOC、全柔連は園田監督を更迭せず、体制維持を図った。要するに「なかったこと」にしたのだ。

そこで、選手たちは今年になって、スポーツ関連の法律に精通した太陽法律事務所に連絡を取った。この事務所の代表者の辻口信良弁護士は、古田敦也の顧問弁護士だった。プロ野球選手会長だった古田が先導して選手会がストライキをしたときも、辻口弁護士が法律顧問として選手会を支えた。
辻口弁護士は、スポーツ選手の法律問題のオーソリティだ。契約問題、怪我、故障に対する補償、クラブ活動と連帯責任の問題など、アスリートが直面する法律問題について選手の立場に立って活動してきた。選手会は相談相手について、ベストな選択をしたのだ。

辻口弁護士らの働きかけがあったからかどうかはわからないが、全柔連は1月末になって、この事件を公表し、問題について陳謝し、園田隆二監督を戒告処分にしたことを発表した。
大阪府立桜宮高校バスケ部の体罰、自殺事件が起こったことも影響したのだろう。全柔連側にようやく危機意識が芽生えて、発表へとつながったのだろう。
しかし、全柔連はこの期に及んでも園田監督を守ろうとした。「戒告」で済ませようとしたのだ。
全柔連は事件の大きさ、深刻さに全く気が付いていなかったのだ。
世間の反響の大きさに驚いた全柔連は、数日後に園田監督を記者会見させ、進退伺を出させた。自ら身を引かせることで、全柔連側の任命責任をまぬかれようとしたのだ。
全柔連は、今度こそ「幕引き」できたと思ったはずだ。

しかし女子選手たちは、全柔連、JOCが全く認識を改めていないことを知っていた。
ここで幕引きされては事態は全く改善されない。世間の関心が薄れたら、恐らく全柔連側は、告発をした選手たちに報復をするに違いない。告発したのは有力な選手ではあるが、全柔連側は「恭順の意」を表すことを迫るに違いない。それを拒否したら代表を外したり、引退を迫ったり、さまざまな圧力をかけるに違いない。
これまでの体質に鑑みて、そのような動きになることが、選手たちには見えていたのだと思う。

基本的に全柔連は「自分たちに問題があった」とは全く思っていないのである。
「下手を打った」「「選手に甘い顔をし過ぎた」くらいにしか思っていない。幹部は自分たちの足元が危うくなるとも思っていない。後ろ盾にJOCがあるからだ。また、全国にある柔道の道場の支持もあるからだ。
多勢に無勢、選手たちは、事態がこのまま収まれば告発者が圧倒的に不利になることもわかっていたのだ。

昨日、代理人による記者会見で、選手たちの声明文を読み上げたのは、辻口弁護士が代表を務める太陽法律事務所の若手、岡村英祐弁護士だ。昨年夏、私は岡村弁護士にインタビューをする機会があった。⇒参考記事 
岡村氏は、小学校から野球に打ち込み、高校では京都府でも屈指の投手となった。惜しくも甲子園には出場できなかったが、京都大学に進学後も野球を続け、関西大学野球でベスト9にも選出されている。そして卒業後、弁護士となったのだ。岡村弁護士は、トップアスリートの置かれている境遇を理解出来る稀有の法律家なのだ(ちなみに岡村氏は当サイトをお読みいただいているとのこと)。

女子選手たちは、全柔連の幹部の更迭を迫っているのではない。
「民主的で風通しのいい柔道界になっていただけるようにしていただきたい。全柔連の理事で女性が1人もいない。国際基準から見ても圧倒的に変」
これまでの指導体制を見直してほしいと言っているのだ。



日本のスポーツ界は長く、指導者本意がまかり通ってきた。勝利は選手よりも指導者の功績。選手は指導者より未熟で劣っており、その訓導が無ければ成功はおぼつかない。
「武士道の国」であり、師弟関係を好もしく思う日本人にとって、それはあらまほしきストーリーではあったろうが、実際にはそんな麗しい関係だけではなかった。
既得権益に守られた指導者たちが、選手の自由を奪い、抑圧することも多かったのだ。

この旧弊な体質が、アマチュアスポーツにおいては「しごき」「いじめ」「体罰」など様々な問題を引き起こしてきたし、プロスポーツにおいても競技としての伸び悩みや、トラブルの温床となっていた。そして何より、スポーツの体質、体制改革の最大の障壁ともなってきた。

ダルビッシュ有をはじめ、トップアスリートたちはこうした日本の指導体制、練習法などの後進性、欠陥を鋭く指摘している。
桑田真澄も「スポーツ医学も、道具も、戦術も進化し、指導者だけが立ち遅れている」と言った。

下村博文文部科学大臣は今回の事態を「日本スポーツ史上最大の危機」と述べた。オリンピック問題への影響を配慮したのだろうが、その認識は正しい。

昨日の声明は、「指導者本意」から「選手本位」へ、スポーツ界があるべき姿を取り戻すための大きな転換点となるものだと受け止めたい。
野球と直接関係はないが、昨日の桑田真澄の問題とも関連して、このサイトで取り上げた次第。


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