PL学園は、生徒によるいじめ問題が発覚し、夏の甲子園に向けた前途を閉ざされることになった。
事件は陰湿である。マスコミ報道を総合する。

上級生2人が、下級生2人を寮内の部屋に呼び出し、1人に対して、目の前にいる上級生をからかうように指令。渋々従った下級生に対して、怒った上級生が殴る、蹴るの暴行を加えた。さらに上級生はこの下級生に、別の上級生のところにも行って、同じようにからかうように指令。指示に従うしかなかった下級生は、最後は鼻の上に飛び乗られるなど、1度目を上回る激しい暴行を受けた。下級生は痙攣を起こし、救急車に搬送された。

下級生を奴隷扱いする風習は、この学校に根付いている。
PL学園は桑田清原の1年後輩の時代に、死亡事故を起こしている。上級生が下級生の帽子を池に投げ、下級生に泳いで取りに行けと命令、池に入った下級生が溺死したのだ。
このときは、学園側が事故として処理し、高野連も不問に付したためペナルティはなかった。

さらに2001年にも寮内で暴力事件を起こしている。

こうした陰湿ないじめの背景には、いろいろな要因が考えられる。
PL学園は、上級生、下級生が専用の寮で一緒に生活をしている。上級生のいうことには絶対服従、下級生は奴隷。そんな状態が続いている。卑劣な人間が上級生になれば、こうした事件は常に起こりうるのだ。
また、PL学園にとって高校野球は最大の「宣伝材料」であり、甲子園出場へのプレッシャーは非常に大きかった。そのストレスが、閉鎖された寮内に充満していたであろうことも、想像に難くない。

さらに言えば、指導者の人権意識が乏しかったともいえるだろう。
有名な中村順司監督の後、河野有道、藤原弘介、河野有道(再任)と監督は代わった。河野監督は前回の暴力事件のときに引責辞任し復帰している。
彼らに求められているのは「強いチームを作る」ことであり、そのために有望な選手を多数獲得し、ふるいにかけることだった。

選手たちは「甲子園→プロ選手」を夢見てPLにやってくる。多くの選手は、ボーイズ時代に名の知れた選手たちであり、ボーイズ監督らのコネクションでPLに入る。金銭が動くこともあるといわれる。
しかし、その中でレギュラーになれるのは一握り。多くは試合に出ることもなく、3年間練習やレギュラー選手のサポートに明け暮れる。
有望選手の中には授業料免除されて小遣いまで与えられる選手もいるといわれるが、そうでない野球部員は学費や寮費を払って有望選手たちの世話に明け暮れるのだ。
まだ十代の身空で「お前の前途はない」と決めつけられることの深刻さは想像に難くない。
「野球ができなければ人ではない」という空気の中で、選手たちのストレスは大きくなっていくのだ。

中村順司元監督は「レギュラーでない選手にも気を配った」「暴力は否定した」と著書で書いているが、中村氏が在任中に、生徒の死亡事故が起こっている。きれいごとの裏で、基本的な人権がゆがめられていたのは否定できない。
「部外者にはわからない」と関係者は言うだろうが、結果がすべてである。PL学園は生徒たちの人権教育をしてこなかった。その結果、こういう事件を再度起こしたのだ。

高野連は、この事件を「PL学園のこと」「一部の馬鹿な生徒が引き起こしたこと」と矮小化してはいけない。
こうした事件が後を絶たないのは、「甲子園」の存在があまりにも大きすぎるからだ。学校も生徒も「甲子園に行きさえすれば後はなんとでもなる」と考えている。
学校はそのために何十人もの選手をかき集め、その中から有望選手をふるいにかけている。他の選手を犠牲にして、エリートチームを作っている。ときには裏の人間に人身売買まがいの金を支払っている。
生徒も、甲子園に出ることだけを考えて野球に明け暮れる。親は有望高に子供を入れることに狂奔する。指導者に金銭を渡すことさえある。
要するに、狂っているのである。「甲子園」が学校や子ども、親を狂わせているのだ。

さらにマスコミの「甲子園賛美」も、状況に拍車をかけている。甲子園で活躍する選手を手放しで褒め称え、陳腐極まりない「青春」「汗」「涙」で飾り立てる。
朝日新聞、毎日新聞など大手メディアは、大阪府立桜宮高校の事件報道と同じ熱意で、今回のPL学園の事件を報道すべきだ。その真相を世間に伝えるべきだ。

PL学園が行った「甲子園球児養成システム」は、新興の私立高校が次々と採用した。今、甲子園で活躍している強豪校は、寮をもち、越境の生徒を受け入れ、充実した施設で有望選手を特別扱いして育てるなど、PLと同じことをしている。そのためにPL学園といえども簡単に甲子園に進めなくなってきた。
こういう“ビジネスモデル”を排除しないと、事件はなくならないだろう。野球部寮の廃止、野球部員数の制限、入学特別枠の撤廃。
「甲子園に行けば儲かる」という悪弊を排除すべきだ。

エリート校が苛烈な競争をする一方で、甲子園出場校には「ふつうの高校」も一定数が含まれている。少ない部員数、部費をやりくりし、狭いグランドで練習法を工夫しながら、勝ち抜いてくる学校もなくならないまた、そうした学校から、きらりと光る選手も現れる。
高校野球のスカウトと称する人間の鑑識眼が大したことは無いことの傍証だと思うが、PL学園のような学校がある一方に、こうした学校があることに、希望を見出す。

その辺の事情、この本に詳しい。



高校野球を巡る状況は、なんら変わっていない。PL学園がまともな教育機関であるというのなら、野球部を廃部にすべきだろう。

学校、高野連、新聞社などマスコミは、「甲子園」を既得権益化してはいけない。生徒、そして日本の野球のために、勇気をもって改革すべきだ。



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