NHK-BSは、明日の国民栄誉賞を控えて松井秀喜デ―になっている。2009年のワールドシリーズ中継を一部編集して放送していた。
この年の松井秀喜は、4年総額5200万ドルの契約最終年であり、勝負の年になっていた。
しかしレギュラーシーズン中は、不振の時期が長く、28本塁打90打点をマークしたものの打率はNYYにきて最低に終わった。
スラッガーとしては及第点に近い成績ではあったが、この年のNYYの打線にあっては明らかに物足りない数字だった。

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NYYは大物選手と複数年契約をすることが多かったが、契約期間が終わってからも引き続き契約できるのは生え抜き選手だけだった。
ジェイソン・ジアンビ、ゲイリー・シェフィールド、ボビー・アブレイユ、松井と打線を組んだ強打者たちも次々と球団を去って行った。
タイトルを取るような活躍をしたのならまだしも、この年限りでの退団は既定路線になっていた。
ポストシーズンの戦績

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ポストシーズンが始まっても調子は上がらなかった。地区シリーズの初戦、ツインズ戦で5回にリリアーノからソロホームランを打ったが、その後はワールドシリーズ前まで長打は二塁打が1本だけ。
ワールドシリーズのフィリーズのホームゲームでは、DHがないために松井は先発を外れることが発表された。
率直に言って、この時点で松井は終わったと思ったものだ。

しかし、松井秀喜はNYYのホームゲームの2戦目に本塁打、そして代打出場となった第3戦で代打本塁打、第5戦も代打安打を打ち、打率.615で、ホームでの第6戦を迎えたのだ。
この日の打席

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打順のめぐりも良かった。常に走者がいた。今日のビデオをみて分かったのは、松井は体が泳いでいても、差し込まれていても、常にバットの芯に当てていたということだ。それは目が常にボールをとらえていたからだ。振り切る瞬間まで、目が残っている。
球が見えているとはこういう状態だろう。

解説の伊東勤が「これで残留へ向けて評価が高まる」みたいなことを何度も言っていたが、私は、それはないと思っていた。
NPBでは昨年の巨人ジョン・ボウカーのように、ポストシーズンの活躍で残留することはあるが、MLBでは選手の評価はレギュラーシーズンでほぼ決まるからだ。

松井秀喜自身も、残留へ向けて試合をしていたわけではないと思う。

私は、そぎ落としたような怜悧さを感じるイチローの魅力にはまっているのだが、このワールドシリーズの再録を見て、イチローとは異なる松井秀喜の美しさを実感した。
それはイチローが純粋に「自分のために野球をしている」のに対し、松井が「自分以外の誰かのために野球をしている」ということだ。
松井は賞や栄誉や契約のためではなく、バットを振ったのではない。本当に「チームやファンのために」スイングをしていたのだ。だから、あんなによく球が見えていたのだろう。



二人の全くカラーの違う打者を同時代に見ることができて、本当に幸せだと思った。



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