toitsukyu-20130616
統一球問題ではいろいろなコメントをいただいた。感謝する。
議論は多方面にわたっている。
多くの方は、これを問題視したが、中には「所詮そんなものだ」「別に公表義務はないはず」と言う意見もあった。
私は今回の事件は「NPBの信義を大きく損なった」と言う点で深刻だったと考える。改めて説明したい。
確かに過去、使用球が外部に知らされずに勝手に変更された(と思われる)事例はある。
そもそも統一球の導入以前は、反発係数などが異なる4社のボールが公認球になっていた。統一球以前のNPBは、統一性のないボールを使っていたのだ。
この時代は、試合の主催球団の都合で、反発係数の違うボールが恣意的に使用されることはあり得たわけだ。
実質的には反発係数が最も高かったミズノのボールが8~12球団で使用されてはいた。しかし、球団によっては、反発係数が低い球を選ぶケースもあった。

今回の統一球の導入は、

①反発係数などスペックが異なるボールが球団の思惑で使用されている現状を改める
②MLBなど国際基準に近いボールを導入することで、日本人選手が国際試合に臨んだ際の違和感を小さくする。

という目的で導入された。

2010年1月19日の日本プロ野球組織実行委員会で、翌年からNPBの使用球は1社の同一のボールに統一されることが発表された。
さらに、そのボールは公認野球規則で定められた(つまりアメリカの野球規則委員会のルールに準拠した)「反発係数の下限」に設定されることも発表された。
※➔この部分間違い。公認野球規則には反発係数の規定はない。

つまりNPBは、このとき
「これからはボールを1社に統一することで、いい加減だったボールの使用を厳密に規定し、世界基準にも合わせます」
と宣言したのだ。

しかるに、NPB機構は、

a.2011年、2012年、統一球の反発係数を調査し、調査した球のすべてが「反発係数の下限」を下回っていたが、これを公表しなかった。
b.aの調査にもとづき、メーカーに仕様の変更(調整)を指示したことも公表しなかった。
c.bによってできたボールを今季開幕戦から使用していたが、これも6月11日まで公表しなかった。

のである。





2010年以前にも規定違反のボールが使われていたかもしれない。メーカーがひそかにボールのスペックを変更したこともあっただろう。それをNPB機構が把握していなかったり、知っていても看過した可能性は大いにある。

しかしそれと、2011年以降の使用球の「スペックのぶれ」は事の重大さが全然違うのだ。

2011年、NPB機構は「これからはいい加減なボールは使わせません」と宣言して統一球を導入した。
NPBは、ここで一線を画したのだ。
加藤コミッショナーの名前をボールに刻印したのは、まさにその厳密さ、公正さの証だったと言っても良かろう。

だとすれば、その決意は何があっても持続されるべきだった。

あれほど意気込んで作った統一球が、実は「規定を下回る球」ばかりだった(それが許容範囲かどうかは別にして)ことで、責任問題が発生するのは必至だった。
機構側は、統一球によって、NPBの野球が激変したことで、この事実を「公表すれば大騒ぎになるし、加藤コミッショナーのメンツは丸つぶれになる」との思いで、メーカーに秘密裏に微調整をさせたのだと思う。しかし、そうしてできたボールが、再びNPBの野球を激変させたことで、一連の「秘密裏の工作」を隠し通すことができなくなり、しぶしぶ公表したのだ。

今回の問題の核心は、「統一球によって野球が何度も変化したこと」にあったわけではなく、一般社団法人日本野球機構という社会的責任のある法人組織が、自分たちで決め、発表したことを秘密裏に改変し、知らぬ顔でそのまま押し通そうとしたことにある。

いわば自動車メーカーが車の不具合を公表せず、リコールもせず、ひそかに仕様変更していたのと同様である。



ファンに実害があるかどうかではなく、天下のNPBが社会的信義を失いかねないという点で、この問題は深刻なのだと思う(「社会的信義なんてとっくに失われているよ」という見方は間違っている。実質は別にして、表面的にNPBは社会的信義を有していた)。

加藤良三コミッショナーがクビになって済む問題ではない。組織の在り方、現在の行動原理を根本から変えるべきだと思う。

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