出ていることは知っていた。家の近くの本屋で見かけて買ったのだが、そのまま読み始めて帰宅が遅くなってしまった。
「読む野球」。まさにそのものずばりのタイトルだ。第1号は「三振」について、1回から9回まで9つの読み物をつないでいる。

1回が沁みる。
野茂英雄の「三振」について、阿波野秀幸、立花龍司、吉井理人、光山英和、鈴木啓示、藤江均という6人の人々に聞いているのだ。
一見すれば、口が重いことで知られる野茂英雄本人に聞くのをさけて、周囲の人に聞いたように思えるかもしれない。
しかし書き手の長谷川晶一さんは、そんな消極的な理由でこの手法を取ったのではないと思う。野茂英雄と言う傑出した才能をより立体的に、多方面から描きたいと言う意欲がそうさせたのだと思う。

その試みは見事に成功している。

とりわけ素晴らしかったのが鈴木啓示だ。
阿波野、立花、吉井、光山。野茂と「空気を共有している」連中とは異なり、鈴木は野茂の考え方、生き方が理解できず、苦労をする。
大エースとして近鉄に君臨し、監督としても役に立ちたいと勇む鈴木啓示と野茂英夫の気持ちのギャップは大きなものだった。時間が経ったからではあろうが、鈴木は当時の困惑を実に率直に語っている。

先日、鈴木はNHKの解説をしていて「背番号1」の選手が話題に上ったときに、
「いろいろな名選手がいましたが、私の家に飾ってある背番号1のユニフォームにはSUZUKIとかいてありますけどね」と言ってのけた。
その自負心の強さは見事だと思ったが、そのプライドと、自らに正直であれと思う誠実さが入り混じったコメントに感動した。
幅広い肩をゆすって投げる鈴木のマウンドは何度も見ているが、その姿が久々に目に浮かんだ。

NPBの投手記録には大きな断層が存在する。昭和40年代までの「大投手の時代」と、それ以後では、同じ競技の記録とは思えないほど、記録のスケールが違う。この間に、投手の思想は大きく変わったのだ。
鈴木の考え方と野茂の考え方の違いは、実は、新旧の投手の断層そのものだったのではないかと思う。



昔、夜店で「型抜き」という駄菓子を売っていた。
針先で型をなぞって削り、動物やキャラクターの形を抜き出すと言う遊びだ。
不器用な私は殆ど成功したことがないが、このインタビューは、周囲から丹念に語っていくことで、見事に野茂英雄像の型抜きに成功している。

2回が江夏豊、3回が上原浩治、4回が伊藤智仁、さらに視点を変えて5回が土井正博、6回金森栄治、7回若菜喜晴、さらにさらに8回松井裕樹、9回木谷寿巳。
少しずつ楽しみに読み進めたい。
ひょっとすると、同じMOOKの感想文をもう何回か書くかもしれません。

みなさん、異常な高温の続く夜に、袂に涼風を送りながら読むのは、こういう本ですぜ。


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