いろいろな考え方があるのは承知している。それは尊重したいと思うが、私のサイトなので、私の鬱壊を述べておく。イチロー4000本安打からバレンティン本塁打騒動に至る一連の動きに対してである。
「王貞治の本塁打記録が、日本人ではなく外国人に破られるのは情けない。日本人の恥だ」という考え方について、再度論じる。
そもそもバレンティンが外国人であるのは最初から分かっていたことだし、彼に力があることも以前からわかっていた。抜かれるのが嫌なら最初から呼ばなければよいのだ。
「勝敗は時の常」という。勝者が生まれれば敗者も自動的にできる。敗者になることが「恥」だとか、あってはならないだとか言う感覚がわからない。
日本人投手がバレンティンに堂々と勝負を挑んで、敗れれば、我々は勝者に拍手を送ればよいのだ。そこに日本人も外国人もない。一切文句を言うべきではない。繰り言を言ったり、敗者を責めたり、勝者に難癖をつけるのはみっともない。

その背景には「日本では日本人が勝つべきだ」という偏狭な価値観がある。これを「島国根性」という。
日本人、日本のメディアは何かにつけて「日本が」「日本が」と主張したがる。自意識過剰というか、自信がないというか、その感覚が情けない。

イチローの日米4000本安打に関する報道もその裏返しだ。
どう考えたってイチローはMLBで2700本余りしか安打を打っていないのに、下駄をはかせて4000だと言い張って、それをアメリカ人にまで認めさせようとする。
「米メディアが認めたからありだ」「アメリカ人だって賞賛している」。
「インド人もびっくり」のカレーじゃあるまいし、誰が何と言ったって事実関係は揺るがない。ピート・ローズが「4000本を認めない」と発言すると「ローズ氏が抵抗」と見出しを付けたメディアがあるが、日本でしか通用しない理屈をこね上げている方こそ「事実」に抵抗している。



私が高校時代、夏休みの終わりころになると、大阪府ではある選抜チームが作られた。いわゆる在日韓国人選手による選抜チームだ。クラスメイトが選ばれていて、そのときはじめて「あいつ、在日だったんだ」と思った覚えがある。彼らは韓国で行われる高校野球大会に招待されるのだ。
全国屈指の激戦区で戦った選手が集まっている“在日大阪選抜”は強くて、準決勝くらいまでは必ず進むが、このあたりで露骨な審判の不公平判定にあって敗退するのが常だった。
「韓国の野球大会で在日のチームが優勝することはあってはならない」というバイアスがかかるからだった。
「在日」という立場の難しさ、微妙さを物語るエピソードではあるが「よそ者に勝たせるのは恥」「何としても身内に勝たせるべき」という感覚は、今のバレンティン騒動での日本の一部論調に通じるところがある。
実力行使をするか否かは別にして、我々も似たような感覚を持っていることに思い至るべきである。



日本人(だけではないようだが)は「立派な敗者」になるのが下手だ。勝敗に異常にこだわって、何としても勝利を得ようとする。そして負けてもなかなか敗北を認めない。泣いたり、わめいたり、誰かに許しを乞うたりする。要するに「敗者」という現実を受け止められないのだ。

誤解を恐れずに言うが、これは「二流国」の証だと思う。

「世界から認められていない」「尊敬されていない」という劣等感が裏返しとなって、勝負に異様にこだわり、「日本が」「日本人が」と騒ぎ立てるのだ。

そしてその思いは、一部の選手たちに過剰なプレッシャーとしてのしかかる。
日本人が国際舞台で弱いのは、こういう理不尽な圧力を双肩に受けているからだろう。

オリンピック選手もそうだが、イチローだって、ダルビッシュだって、みんな「自分の夢」を描いて海を渡っている。もちろん何がしかの「日の丸意識」は持っているだろうが、その分量は個々によって違う。
彼らに「日本のためにがんばれ」「負けるのは恥だ」などと第三者が言い、圧力をかけるのはお門違いだ。自分たちの才能と努力で培った「実力」をあたかも「日本の共有財産」のように言うのは、厚かましい。本音の部分で彼らは言うだろう「別にあなたのために頑張ったわけじゃない」。

バレンティンは今や大リーグ崩れの二流選手ではない。77年の伝統あるNPBの記録を堂々と破ろうとしている偉大な選手だ。彼もONや野村克也同様、NPBの誇らしい歴史を飾る偉大な野球人だ。我々がNPBにプライドを感じているのなら、何も言わずに彼に賞賛の拍手を送るべきだ。
その拍手は、イチローがバットを擱く日にアメリカの人々が送るであろう拍手と、全く同じ音がするはずだ。彼らはイチローがアメリカで積み上げた安打数と、そのわくわくするようなプレーに対して拍手を送ってくれるはずだ。日本だ、アメリカだ、ではなく「MLBが生んだ素晴らしい野球選手」の一人として。

イチローを認めてほしいのなら、バレンティンも黙って認める。これが正しく、美しい姿だと思う。


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