2009年2月4日「MLBをだらだら愛す」掲載過去記事】
松坂が、MLBでどれほど特殊な投手か、端的なSTATSを1つ上げてみよう。
これは、1回当たりに投げた投球数のワースト10である。
2008年、MLBのアリーグでは40人ほどの投手が規定投球回数に達したが、ここに並んでいる投手たちは、先発投手として最も防御率が悪い一団であり、先発投手としてチームに貢献したというよりは、迷惑をかけたグループである。ただ一人、松坂を除いては。
「あんなに球数が多くて、やつはなぜ打ち込まれないんだ」
スコアラーの間で何度もささやかれたはずだ。
NPBで投げていたとき、松坂はどんな投手だったのだろう。もちろん、私は彼にずっと注目していたが、西武の試合は中継が頻繁にあるわけでなし、記録でチェックすることのほうが多かった。その限りでは、彼はよく完投する「力投型」の投手であり、最も安打を打たれない投手だ、という程度の認識だったのだが。
プロ入りから2008年までのSTATSを並べてみてみることにした。注目したのは、投球数である。NP(Number of Pitch)は、MLBでは選手との契約が口やかましくなった80年代半ばからカウントされる様になり、今では公式のSTATSに入っているが、NPBでは新聞社などがごく一部の投手について記録しているに過ぎない。松坂はその数少ない一人なのだ。
松坂はNPBデビューから数年、1イニングで16~17球を投げる投手だった。これは、同時期の上原と比較しても相当多い。
それがMLBに移る前年には15.6まで落ちている。わずか1~2球の差だが、実はこれが大きな差なのだ。15.6は、2008年のアリーグでは3位に相当する。そこまで、球数を絞り込むことができた男が、MLBに来たとたん、再びデビュー時に等しい球数を投げるようになった。
これは、対戦経験のない打者に対して松坂が慎重になった、と捉えられるように思う。また、対戦する打者がNPBより、MLBのほうがじっくり見ているからかも知れないとも思われる。
しかし、それだけでは、2007年よりさらに0.4球も多く投げた2008年のほうが防御率がぐんと良くなった説明が付かない。いったいなぜなのか?
このSTATSを見ていて、私が思ったのは、「松坂はわざと去年より多く投げているのではないか」ということだ。少なくとも球数を節約しようとはしていない。ボールカウントは3-2まであるのだから、また例え歩かせても満塁まで点は取られないのだから、じっくり攻略しよう。
その根拠になっているのは、彼のこれまでの実績である。STATSを見ればわかるとおり、松坂は西武時代、ほとんど先発で、先発すれば120球前後を投げ、完投すれば130球を越す球数を投げてきた男である。100球に球数が制限されたからといって、球数を節約して打たせてとるような投法はできない。まして、相手は手の内がわからない打者ばかりである。じっくり勝負をしよう。そういう心の切り替えがあって、こんなSTATSが生まれたのではないか。
凡百の二流投手が無駄球を積み重ねて投球数を増やしているのとは異なり、松坂は「必要だから球数を投げている」のである。
2007年から2008年へ、フランコナーらBOS首脳陣の松坂への締め付けはますます厳しくなって、1試合あたりの球数は108.7から100.1になった。
松坂は言いたいはずである。「もう20球投げさせてくれたら、5勝はプラスできますよ」。
MLB中継で見る彼の、駄々っ子のような表情が少しわかった気がした。
今日のニュースでは、ブルペンで132球を投げたそうである。BOS首脳の渋面が目に浮かぶ。
■後日談:これから5回続けて紹介した松坂の特質が、すべて裏目に出たのが2009年だった。
松坂が、MLBでどれほど特殊な投手か、端的なSTATSを1つ上げてみよう。
これは、1回当たりに投げた投球数のワースト10である。
2008年、MLBのアリーグでは40人ほどの投手が規定投球回数に達したが、ここに並んでいる投手たちは、先発投手として最も防御率が悪い一団であり、先発投手としてチームに貢献したというよりは、迷惑をかけたグループである。ただ一人、松坂を除いては。
「あんなに球数が多くて、やつはなぜ打ち込まれないんだ」
スコアラーの間で何度もささやかれたはずだ。
NPBで投げていたとき、松坂はどんな投手だったのだろう。もちろん、私は彼にずっと注目していたが、西武の試合は中継が頻繁にあるわけでなし、記録でチェックすることのほうが多かった。その限りでは、彼はよく完投する「力投型」の投手であり、最も安打を打たれない投手だ、という程度の認識だったのだが。
プロ入りから2008年までのSTATSを並べてみてみることにした。注目したのは、投球数である。NP(Number of Pitch)は、MLBでは選手との契約が口やかましくなった80年代半ばからカウントされる様になり、今では公式のSTATSに入っているが、NPBでは新聞社などがごく一部の投手について記録しているに過ぎない。松坂はその数少ない一人なのだ。
松坂はNPBデビューから数年、1イニングで16~17球を投げる投手だった。これは、同時期の上原と比較しても相当多い。
それがMLBに移る前年には15.6まで落ちている。わずか1~2球の差だが、実はこれが大きな差なのだ。15.6は、2008年のアリーグでは3位に相当する。そこまで、球数を絞り込むことができた男が、MLBに来たとたん、再びデビュー時に等しい球数を投げるようになった。
これは、対戦経験のない打者に対して松坂が慎重になった、と捉えられるように思う。また、対戦する打者がNPBより、MLBのほうがじっくり見ているからかも知れないとも思われる。
しかし、それだけでは、2007年よりさらに0.4球も多く投げた2008年のほうが防御率がぐんと良くなった説明が付かない。いったいなぜなのか?
このSTATSを見ていて、私が思ったのは、「松坂はわざと去年より多く投げているのではないか」ということだ。少なくとも球数を節約しようとはしていない。ボールカウントは3-2まであるのだから、また例え歩かせても満塁まで点は取られないのだから、じっくり攻略しよう。
その根拠になっているのは、彼のこれまでの実績である。STATSを見ればわかるとおり、松坂は西武時代、ほとんど先発で、先発すれば120球前後を投げ、完投すれば130球を越す球数を投げてきた男である。100球に球数が制限されたからといって、球数を節約して打たせてとるような投法はできない。まして、相手は手の内がわからない打者ばかりである。じっくり勝負をしよう。そういう心の切り替えがあって、こんなSTATSが生まれたのではないか。
凡百の二流投手が無駄球を積み重ねて投球数を増やしているのとは異なり、松坂は「必要だから球数を投げている」のである。
2007年から2008年へ、フランコナーらBOS首脳陣の松坂への締め付けはますます厳しくなって、1試合あたりの球数は108.7から100.1になった。
松坂は言いたいはずである。「もう20球投げさせてくれたら、5勝はプラスできますよ」。
MLB中継で見る彼の、駄々っ子のような表情が少しわかった気がした。
今日のニュースでは、ブルペンで132球を投げたそうである。BOS首脳の渋面が目に浮かぶ。
■後日談:これから5回続けて紹介した松坂の特質が、すべて裏目に出たのが2009年だった。