2009227日「MLBをだらだら愛す」掲載過去記事】

キューバの野球シーズンは、11月から3月まで。トップリーグのセリエナシオナルベイスボルは、東西2地区16球団が90試合を戦う。さらに上位8球団によるトーナメントがある。しかし、オリンピック、WBCなどの国際大会はこれに優先する。

確認していないが、今、キューバは2008-09シーズンの終盤のはずだが、リーグ戦は中断しているのだろう。

野球はキューバの国技であり、最も人気のあるスポーツだが、経済封鎖の続くキューバでは、トップリーグであっても施設はみすぼらしい。女子の代表の話だが、国際試合で相手チームにバットやボールの借用を申し入れたというエピソードもある。

私は昔から今まで、野球のSTATSをいろいろ見てきた。その上で感覚的に思っているのだが、野球のSTATSには「進化の法則」ともいうべきものがある(大層だが)。

投手でいえば、昔の野球では防御率が低くて完投が多く、エースは先発もリリーフもする。反対に、救援専門の投手は二流の投手がするものだった。打者でいえば強打者は打率が高く、足も速く、オールラウンドプレーヤーである。

投手の防御率が低く、同時に打者の打率が高いとは矛盾しているようだが、要するに一握りの優れた選手が試合を支配する形である。50年ほど前までのMLBがちょうどそんな感じで、打率や安打に関するアンタッチャブルな記録は、この時期までに作られている。大選手の時代と言うべきか。

それが、時代を経るとともにリーグの選手全体の水準が上がり、打率や防御率の記録は低レベルになっていく。反対に奪三振と本塁打の記録が伸びていく。投打で分業が進み、投手はスターター、セットアッパー、クローザーに分かれ、打者も出塁する、つなぐ、走る、返すの機能分化が始まる。さらに捕手の多くはデフェンスの選手となり、打者としては期待されなくなる。野球はどんどん緻密になっていく。今のMLB、NPBはまさにそういう進化の先端にいる。一言でいえば、スモール・ベースボールの時代である。

さて、奇特な人がいるもので、キューバのリーグの記録が、WIKIPEDIAに載っている。また、英語版にも資料がある。あれやこれやの資料を集めて、代表選手のSTATSを作った。

長々と説明してきたのは、キューバのSTATSを打ち込んでいて、これは相当古い野球だなと思ったからだ。

投打を一度に見てみよう。2008と書いている年度は、正確には2007.11~2008.3の記録である。CUBA-P

 CUBA-F

先発投手陣は防御率が素晴らしい。Yゴンザレスなど15戦無敗である。防御率が良い割にWHIPの数字が大きいのは、四球がやたらに多いからだ。投手の分業も明確ではなく、大エースがしばしばリリーフもする。専門のリリーバーの成績はぱっとしない。

打者は、14人中9人のOPSが1点を超えている。どの打者も打率が非常に高く、打点も多い。さらに、捕手が打線の中心にいる。右打者が多い。

個々の選手については、ほとんど知らないが、この国では、相当に荒っぽい力の野球が相変わらず行われているという印象である。MLBがリードする野球とは異質だ。多くの打者が安打や四球で出塁し、次打者の豪打で帰ってくる。そんな大時代の野球である。

毎年アメリカに多くの選手が流出し、数字を残しているのを見ても、キューバ選手のポテンシャルは高いことがわかる。一発勝負には強いはずだ。また、VTRで見る限り、速球は2シームが中心。打ちにくい球を投げている。さらに、20代の選手の多くはMLB市場へ自分を売り込む好機ととらえているだろう。

しかし、チームとしての機動性や作戦能力はどうだろうか。仮に日本やUSAなどの近代野球が周到に攻めれば、十分に勝機があるのではないか。また、トップの選手と控えの差も大きいと思うのだが。

経済的に困難な状況で、さらに多くの選手が流出する中で、キューバ野球のポテンシャルは上り調子とは思えない。国家の威信がかかっているキューバだが、今回も優勝の可能性は低いのではないか。

 ■後日談:日本には通用しなかった剛速球のチャプマンが、ストーブリーグの渦中にいる。MLBで進化して、通用する可能性は大いにあるだろう。コントレラスのように完成された投手ではないので期待できる。