2009417日「MLBをだらだら愛す」掲載過去記事】

鋭く振ったバットから、糸を引くような当たりがライト前に抜けていった。イチロー、今季3本目の安打である。

ここで「日本記録3086安打」の電光表示がされ、試合は中断された。観客はおずおずとスタンディングオべーションである。「どういう意味だ?」と思った人が多かっただろうが、良いお客さんだ。

STATSマニアとして、この3086本には全く食指が動かない。試合数も、投手も、リーグも全く異なる(つまり連続性が全くない)二つのカテゴリーでの記録を合計することに何の意味も見出せない。せいぜいトリビア、「へえー」で終わらせる程度のもの。イチロー個人が安打を打つ目安にするのはわかるが、それ以上のものではない。

2003年、韓国ではイ・スンヨプが“世界最年少”の300本塁打につづいて、シーズン56本塁打を放ち、国中が「王貞治のアジア記録を抜いた」と大騒ぎをした。この騒ぎは日本ではほとんど黙殺された。当然のことである。二つのカテゴリーには、何の連続性もないからだ。

今の日本は同じような騒ぎをわざわざ米国に行ってやらかしているのである。みっともないことだ。アメリカの人々が比較的寛大なのは、これが「日本記録」だからだ。あと数年たって、イチローの日米通算安打数がタイ・カッブやピート・ローズの安打数に迫ったときに、日本のマスコミが同じように騒ぎたてれば、手ひどいしっぺ返しを食らうだろう。

WBCでの優勝がMLB何するものぞ、という風潮を醸成している。その高揚感がこの騒ぎを裏打ちしているのかもしれない。しかし、MLBとNPBは組織、マネージメントから選手の待遇、そして本当の意味での実力において、大きな差があるのだ。

それよりも、イチローが好調なのがうれしい。次の打席は惜しくも内野安打にならなかったが、打席で様々なアイディアが浮かぶのだろう。楽しげに見える。

ここ数年、春先の不審が長々と尾を引く傾向にあったが、今年は軽々とグランドに立っている。グリフィJr.や若い野手たちがいるのも新鮮だ。この調子でことしは「当たり年」にしてほしい。

■後日談:日米通算記録は、参考記録としては意味があるが、「記録」ではない。マスコミがわざと取り違えたふりをして騒いでいるのが鬱陶しい。