【2009年7月4日「MLBをだらだら愛す」掲載過去記事】

2005年から始まったプロ野球のアジア・シリーズは昨年限りで打ち切られ、今期は11月に日韓戦(1試合)をやる構想が持ち上がっているそうである。今月の実行委員会で決まるそうだ。

アジア・シリーズは年々衰退を重ねつつ4シーズン続けられてきた。

アジアシリーズ

もとは、読売新聞社が主催し、コナミが冠スポンサーになっていたが、ともに2007年限りで降りて、去年はNPB機構が単独で運営し、2億円の赤字を出したそうである。

今の読売新聞社は「球界の盟主」東京読売ジャイアンツを擁しながら、野球中継には消極的である。日テレG+というCSがメインとなり、地上波からは絶滅しそうな感じである。自チームの巨人戦でさえ縮小傾向なのに、NPBの他チームの試合など真剣に中継する気はないということか。ましてや2007年は仇敵中日だった。

そもそも東京ドームで行う必然性は、読売新聞主催と言うことでしかなかった。フランチャイズでない球場のために日本戦でさえ球場をいっぱいにできない試合が続き、2008年などは決勝戦以外は日本戦でも1万人に届かなかった。

コナミがスポンサーを降りたのは、やむを得ないとしても、読売新聞社はいったい何がしたかったのかと思う。

正力松太郎が覇権を握ってからの読売新聞社を伸長させたのは、読売ジャイアンツとプロレス中継だったとされる。朝日、毎日という先行するライバル紙から読者を次々と奪ったのは、TV、新聞のマルチメディアでのシャワー的なジャイアンツ報道と、試合観戦券、優待券を軸とした拡張策だったとされる。読売グループは、巨人、NPBに足を向けて寝られないはずだ。ろくに努力もせず、率が取れないからという理由で降りたのは信じられない。

WBCは、さまざまなトラブルを抱え、運営も成功とはいえなかったが、MLBは財政面では成功したといわれる。また、日本や韓国に後塵は拝したが、日韓のファンにMLBの野球を印象付けることに成功したはずである。スポンサーが降りたとたんに2億円の赤字を垂れ流したNPBとの差は歴然だ。これではNPBは、WBCを嗤うことはできない。

MLBは、オーストラリアでのプロ野球リーグの発足を発表した。中国のプロリーグには資金援助をすると共に、優秀な人材の青田狩りを始めている。日本を通り越してアジア、世界戦略の布石を固めるMLBを横目に、NPBは「赤字だから、人が集まらないから」という理由で、自分たちが始めたアジアのチャンピオンシップをやめようとしている。韓国、台湾、中国の野球人に失礼だとも思う。

代替案で出ている日韓戦は、WBCでの高視聴率にあやかろうというものだろうが、真剣勝負のモチベーションを保つことができるのか。アジア・シリーズの旗を急に下ろすのはまずいから、この試合でお茶を濁そうとしているのかもしれない。地方球場で1試合と言うせこい設定は「赤字をこれ以上出したくない」という本音からではないのか。

 

MLBとNPBで、最も大きい実力差があるのは、投手でも野手でも、監督でもなく、フロント、経営者だと思う。ありとあらゆるマーケティング手法を使って機構全体の市場を広げ、競争しつつも全体が繁栄する施策を繰り出すMLBと、功成り名遂げた70過ぎの高級官僚を頭に頂き、野球とは無縁のサラリーマン役員が任期を事なかれに過ごそうとするNPB。これでは日本側がいかに障壁を設けようとも、MLBへの人材流出を止めることは困難だろうと思う。

アジア・シリーズは小遣い稼ぎの「花相撲」」ではなく、NPBの世界戦略、アジア戦略を見据えた投資だったはずである。公式サイトにも「野球の国際化の第一歩」と明記されていた。投資と言うのは、回収までに時間がかかるものだ。MLBは、もちろん中国やオーストラリアでの単年度黒字など求めていない。そのことさえ理解せず、赤字だから撤退というのでは、もはや経営者とは言えないと思う。

■後日談:予定通り、長崎で日韓優勝チームによる1試合が行われた。来年は、台湾に舞台を移してアジア・シリーズを再開すると言う。存亡の危機にある台湾野球界の情勢を考えると、なぜそんな決定をしたのか理解に苦しむ。厄介ばらいをしたいと言うような気持が透けてみあるようだ。