1997年の暮れだったと思う。京都で食事をしていると、遅れてやってきた知人が「今、誰と打合せしていたかわかる?」と興奮した面持ちで言った。「誰?」と問い直すと「ヨシノブ!タカハシヨシノブ!」と押し殺すような声で言った。その席にいた人間はみな「えー!」と叫んでのけぞった。女性からは「うらやましー」という声が飛んだ。
慶應大学出、三冠王など六大学での華々しい実績、その容姿。まだプロで1試合もプレーしていなかったが、高橋由伸はすでにスターだった。今年の菊池雄星のような粗削りな「素材」ではなく、完成された選手だと思われていたのだ。
逆指名で入った巨人で、高橋は1年目から結果を残した。シュアな打撃だけでなく、外野守備の確かさ=RFが高そうな守備と強肩も高い評価を受けた。新人王こそ大学時代からのライバル川上憲伸に奪われたが、その前途は洋々と思われた。
高卒の松井秀喜との対比も興味深かった。圧倒的な量感のある体幹を持ちボールを巻き込むように遠くへ飛ばす松井と、シャープなスィングで球の芯を打ちぬくような高橋は、対照的な打者だった。ONを思い出した人も多かったのではないか。
もともと、故障やけがの多い高橋だったが、松井がMLBに移籍したころから、欠場が目立つようになった。向かっていく打撃スタイルのために死球が多かったこと、無理な球でも追いかけるために守備での負傷がたびたびあったことが主な原因だ。また出場しても生彩を欠いた打席が続いた。数字でいえば.300をマークしても打点が少なく、出塁率も低かった。どこか「薄い」STATSという印象が続いた。巨人にはあとからあとから強打者が入ってくる。その中で高橋の存在感は薄れていったのだ。
2007年は、その印象を払しょくするような久々に充実したシーズンになった。OPS.980、RC114.1はリーグトップ。新加入の小笠原道大を上回った。積極的に打っていたことは、三振数が初めて100を超えたことでもうかがえる。
しかし、翌年は腰痛によって規定打席に達することができず、2009年に至っては1試合の出場にとどまった。
まだまだピークではない、そんな印象のまま高橋は今年35歳になる。このまま終わるのはあまりにも惜しい。高橋由伸は原辰徳とも比較されるが、原には入団当時から「過大評価されている。プロでは通用しないだろう」という評価があった(今になってそんな評がいくつか活字になってきている)。その中でタイトルも取り、4番としての責任を全うした原には達成感があったと思うが、高橋はそうではない。NPBで十分すぎるほどの実績を上げて、事情が許せばMLBに雄飛しても良い存在だったはずだ。
高橋由伸が休んでいる間に、巨人は若返りを図ろうとしている。松井が抜けた後の打線を支えた功労者である高橋は、その復帰が待たれているのは間違いがない。しかし、一方で高橋に頼らずとも連覇ができるよう、チームの整備が進んでいるのも事実である。
高橋は、2007年に見せた積極的な打撃で、想定外の活躍をして見せてほしい。センスの良さを若い選手に見せつけてほしい。
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