今回の第三者委員会は優秀だったと思う。NPB側に提出された伏字のない報告書には、具体的な人名も含めて歯に衣着せぬ内容が記載されていたと思う。
法曹家3人からなる委員と特別アドバイザーの桑田真澄は、報告書に今後のNPBには機構改革が必要だとして、そのポイントも指摘した。
今回の事態で、法曹家たちが、もっとも異様だと思ったのは「アグリーメント違反」に関する問題だったと思われる。
この稿ではすでに何度も触れているので簡単にするが、要するに「統一球は、そのスペックを実現させた時点で自動的にアグリーメント違反になる」ように設計されたのだ。
しかしこのことに関しては、加藤コミッショナーも、NPBのスタッフも、各球団の経営者も、ほとんど無関心だった。「不正球が試合で使用される」ことが深刻な問題とはだれも思っていなかった。
下田事務局長が独断専行に走ったのは、彼がわずかにそれを理解したためだと思われる。
NPBと球団に関わる人々は、「コンプライアンス」に関する意識が欠如していたと言われても仕方がない。

さらに加藤コミッショナーとNPB機構、事務局の職員の間には、一般の組織の上司と部下のような関係は成立していなかった。事務局長以下部下は、加藤氏の顔色をうかがいはしたが、重要なことをタイミングよく報告するような信頼関係は築いていなかった。
むしろ重要なことはできるだけ加藤氏をオミットしてことを進めようとした感がある。

また、報告書を見る限りでは、セパ両リーグに対するコミュニケーションも非対称だった印象がある。断定できないが、NPBは一部の球団の意向を汲んで施策を進めていた可能性もあると思う。

いずれにせよ多くの物事はコミッショナーのあずかり知らないところで内容が決定され、コミッショナーはそれを了承するだけの存在になっていたように思われる。

『日本プロ野球改造論』の著者、並木裕太氏はプロ野球オーナー会議でNPBの改革案をプレゼンする機会があったが、加藤良三コミッショナーは何もしゃべらなかったという。

本来、日本プロ野球の最高決裁者であるはずのコミッショナーの実態は、こういうものだったのだ。

第三者委員会はNPBの組織が複雑で、指揮系統、レポートラインが不明瞭であることも指摘している。
NPBと言う組織は複雑な「二重構造」になっている。報告書にあるNPBの組織の成り立ち。

toitsukyuu-02


2007年度までは日本野球機構の事務局(コミッショナー事務局)と、日本プロフェッショナル野球組織に属するセリーグ、パリーグの事務局が鼎立していた。
そして実質的なプロ野球運営は、セパ両リーグ事務局が担い、コミッショナー事務局は選手の福利厚生とオールスターゲーム、日本シリーズの運営だけを取り仕切っていた。
しかし2008年から、セパ両リーグの事務局はコミッショナー事務局に統合され、形式上はコミッショナーがプロ野球に関わる全ての事業を統括することとなった。
また、日本野球機構(機構)と日本プロフェッショナル野球組織(組織)のトップは、コミッショナーが兼務することとなった。

機構と組織には同名あるいはよく似た名前の会議体や委員会が並立している。図にしてみる。

toitsukyuu-03



この図を見て、日本野球機構は誰が取り仕切っているか、理解できるだろうか?
同じ人間が何重にも役職を兼務し、複数の会議に出席している。
報告書にはたびたび会議での報告シーンが出てくるが、実質的な議論が行われた形跡は殆どない。それは、こうした複雑な組織、会議体に起因しているのだろう。
恐らく出席者自身もどんなステイタスで何を議論しているか、十分に理解できていないものと思われる。
(オリックスの宮内オーナーがコミッショナー代行に就くに際し、「機構」のトップたる会長は球団オーナーが兼務できないので、元オリックス会長の竹田駿輔氏が「会長代行」に就任した。現時点では「機構」と「組織」のトップ代行は別の人物が務めている)

現在のプロ野球の運営は「組織」の「オーナー会議」、「実行委員会」と実質的に存在の根拠がない「両リーグ理事会」に委ねられている。

本来の最高決定機関である「機構」の「オーナー会議」は、「組織」の決定を追認するだけの機関になっている。報告書の表現を借りるなら、年に一度の定時総会として「組織」のオーナー会議の「ついで」に行われているに過ぎない。

大づかみに言うならば、こうした複雑な組織によって、NPBは決定のプロセスも責任の所在もあいまいになっている。コミッショナーの権限も明確になっていない。
個々の会議は形骸化し、実質的に影響力の強い者、声の大きい者が、NPBを取り仕切る実態となっている。



統一球に関連する迷走は、一にコミッショナーのガバナンスの欠如によるが、同時にこの輻輳する組織にも起因している。
今回の「事務局一任」の本当の意味を知っていたのは、下田事務局長と総務部G次長ら少数であり、G次長の上司の平田総務部長や二人の事務局次長は全く知らなかった。
要するにレポートラインではなく、プライベートな「人脈」で仕事が進められていたのだ。

こんな組織でまともな仕事ができるはずがない。

報告書では「二重構造」の解消と、コミッショナーへの権限の集中(当然ながら常勤化)、組織の改革を求めている。当然の話である。

そうなるかどうかは、非常に心もとないが、今回の報告書でNPBという「伏魔殿」の内部が明らかになったのは収穫だったと言えよう。


私のサイトにお越しいただき、ありがとうございます。ぜひ、コメントもお寄せください!


「読む野球-9回勝負- NO.2」私も書いております。




広尾晃 野球記録の本、アマゾンでも販売しています。




クラシックSTATS鑑賞もご覧ください。ホークス、一塁手のランキング

Classic Stats