9月26日、西武ドームでの優勝が決定する西武戦の9回、田中は救援登板した。これが、ポストシーズンでの田中の438球につながったと言って良いと思う。
■9月26日、4対3の9回裏、田中はマウンドへ上がった。この時点で楽天は西武に連敗。優勝までマジック1になりながら足踏みをしていた。
前日まで、救援投手の加藤大、長谷部、小山伸、青山らが打ち込まれていた。すでにクローザーのラズナーは8月に故障でリタイアしており、特定のクローザーがいなかった。
ここで田中が投げるのは、「1年間の奮闘のご褒美」という意味だけでなく、信頼する救援投手がいない中、「ここで決めたい」という指揮官の意気込みもあった。
田中は万全ではなかった。9番鬼崎に安打を打たれ、1番ヘルマンを歩かせた。片岡の送りバントで1死二、三塁。ここで田中は踏ん張って栗山、浅村を連続三振。
田中はガッツポーズをし、楽天のリーグ制覇が決まった。
この登板は、「田中のため」の登板ではあったが、同時に「チームのため」という必然性もあった。斎藤隆は9月21日以来投げていなかったから、彼でも良かったはずだが、田中を投げさせる根拠はあったと思う。
しかし、ここで「2013年は田中で決める」という認識がチームやファンなどに浸透したのは間違いがない。
■10月21日、クライマックスシリーズの最終戦。楽天は8対5とロッテに3点リードした9回表に田中をマウンドへ上げた。3点差があった。
しかしこの試合は先発辛島が4失点で4回に降板した後、レイ(H)、長谷部、斎藤(○)、則本(H)と継投していた。小山伸、長谷部は10月18日に打ち込まれていた。
田中は10月17日に完封していた。中3日での登板だったが、翌日から4日間の休養日があり、1回だけならば以後の登板に支障はないと判断することもできた。
さらに言えば、この日は10月18日に9回を投げた則本を中2日で救援登板させていた。
星野監督は則本の救援登板で「これからは先発も救援もない。投げることができる投手をどんどん使っていく」という方針をチーム内外に示した。
もちろん、9月26日の「田中で決める」と言う前例が利いていたのは間違いないが、田中を出す必然性もあったと思う。
しかし田中は8番鈴木大地を捕邪飛、代打金沢を一ゴロに打ち取ってから一番根元、二番清田の代打福浦に連打され二死一二塁、本塁打で同点になるピンチを作った。井口は三ゴロで打ち取って再び歓喜が訪れはしたが。
この2回の登板を冷静に見て、田中は救援には向かないと言う判断があってもしかるべきではなかったか。
■11月2日、日本シリーズ第6戦。7回を終えて先発田中は110球を超え9被安打4失点。
この日は回の先頭打者に3安打(安打、二塁打、本塁打)された上に、タイムリーも2本打たれていた。
ロペス、坂本、村田らは田中の配球を読んでいる気配があった。また、走者を背負っても「ギアチェンジ」できなくなっている感があった。
シーズン中、田中は中6日のローテーションをきっちり守ってきた。それを崩しての登板、ましてやプレッシャーのかかるポストシーズンの登板は、田中の肩と下半身に大きな疲労を蓄積させたはずだ。それが、日本一決定の大舞台で不本意な投球につながった。もちろん、巨人と言う老練なチームが、対戦を重ねるうちに田中攻略法を編み出したのは間違いないところだ。
普通に判断するならば、田中はここで交替させるべきだった。
巨人打線は田中をすでに攻略している。タイミングも合っているし、配球も読まれている。
しかし、田中は続投を志願した。
星野監督の頭には「則本は使えない」という考えがあったかもしれない。2日前に救援で5回を投げていたからだ。かといって長谷部や小山は投げさせられない。彼らはすべて日本シリーズで失点している。こうした救援投手の信頼は失われていた。斎藤、金刃という線があったと思うが、星野監督は田中の懇願に折れた。
結局、先発田中の救援に田中が立ったような形になったが、田中は8回も9回も二塁打を打たれ、得点圏に走者を進めた。結果的に0点に抑えたが万全とはとても言えなかった。
チームの功労者、田中に花を持たせたいという指揮官の意向は十分に理解できる。しかし、それは「勝利を優先する限りにおいて」という但し書きが付く。
日本シリーズ第6戦後半での指揮官の判断、そして田中の続投希望は「勝利第一主義」を逸脱したものだったのではないか。
160球を投げた田中の肩は心配ではあったが、そういう田中の今後の「商品価値」は度外視してもおかしな判断だったと思う。
■11月3日の決戦は、来季のことを考えても「田中抜き」で勝ち抜くべきであったと思う。それで新しいストーリーが開けたはずだ。
ベンチ入りをさせた時点で投げさせる選択肢が生じた。そして6回91球で無失点の美馬を降板させ、7回から則本を投げさせた時点で、最終回に田中が上がる可能性が生じた。
そうであっても「まさか」と思っていたが、9回に田中が上がってやはり2安打されながら抑えて歓喜の瞬間を迎えた。一発出れば同点になるリスクがあったことは明記すべきだろう。
救援投手田中は、3回で5被安打1四球、失点は0だが優秀とは言えない。「顔」で何とか抑えていたに過ぎない。
「勝利を優先したから田中に無理をさせた」というより「田中を胴上げ投手にしたかったから無理をした」と言う方が正しかったのではないだろうか。
私は斎藤隆をなぜもっと使わなかったのかと思っている。日本シリーズでも完封しているし、MLBで5度もポストシーズンで投げている。43歳ではあるが、その豊かな経験は大舞台で十分に生かされたはずだ。
田中の登板は「美談」になるだろうが、こうした風潮が広まるのは危惧すべきことだと思う。
私のサイトにお越しいただき、ありがとうございます。ぜひ、コメントもお寄せください!
↓
『「記憶」より「記録」に残る男 長嶋茂雄 』上梓しました。
「読む野球-9回勝負- NO.2」私も書いております。
広尾晃 野球記録の本、アマゾンでも販売しています。
クラシックSTATS鑑賞もご覧ください。ホークス、外国人選手のランキング
前日まで、救援投手の加藤大、長谷部、小山伸、青山らが打ち込まれていた。すでにクローザーのラズナーは8月に故障でリタイアしており、特定のクローザーがいなかった。
ここで田中が投げるのは、「1年間の奮闘のご褒美」という意味だけでなく、信頼する救援投手がいない中、「ここで決めたい」という指揮官の意気込みもあった。
田中は万全ではなかった。9番鬼崎に安打を打たれ、1番ヘルマンを歩かせた。片岡の送りバントで1死二、三塁。ここで田中は踏ん張って栗山、浅村を連続三振。
田中はガッツポーズをし、楽天のリーグ制覇が決まった。
この登板は、「田中のため」の登板ではあったが、同時に「チームのため」という必然性もあった。斎藤隆は9月21日以来投げていなかったから、彼でも良かったはずだが、田中を投げさせる根拠はあったと思う。
しかし、ここで「2013年は田中で決める」という認識がチームやファンなどに浸透したのは間違いがない。
■10月21日、クライマックスシリーズの最終戦。楽天は8対5とロッテに3点リードした9回表に田中をマウンドへ上げた。3点差があった。
しかしこの試合は先発辛島が4失点で4回に降板した後、レイ(H)、長谷部、斎藤(○)、則本(H)と継投していた。小山伸、長谷部は10月18日に打ち込まれていた。
田中は10月17日に完封していた。中3日での登板だったが、翌日から4日間の休養日があり、1回だけならば以後の登板に支障はないと判断することもできた。
さらに言えば、この日は10月18日に9回を投げた則本を中2日で救援登板させていた。
星野監督は則本の救援登板で「これからは先発も救援もない。投げることができる投手をどんどん使っていく」という方針をチーム内外に示した。
もちろん、9月26日の「田中で決める」と言う前例が利いていたのは間違いないが、田中を出す必然性もあったと思う。
しかし田中は8番鈴木大地を捕邪飛、代打金沢を一ゴロに打ち取ってから一番根元、二番清田の代打福浦に連打され二死一二塁、本塁打で同点になるピンチを作った。井口は三ゴロで打ち取って再び歓喜が訪れはしたが。
この2回の登板を冷静に見て、田中は救援には向かないと言う判断があってもしかるべきではなかったか。
■11月2日、日本シリーズ第6戦。7回を終えて先発田中は110球を超え9被安打4失点。
この日は回の先頭打者に3安打(安打、二塁打、本塁打)された上に、タイムリーも2本打たれていた。
ロペス、坂本、村田らは田中の配球を読んでいる気配があった。また、走者を背負っても「ギアチェンジ」できなくなっている感があった。
シーズン中、田中は中6日のローテーションをきっちり守ってきた。それを崩しての登板、ましてやプレッシャーのかかるポストシーズンの登板は、田中の肩と下半身に大きな疲労を蓄積させたはずだ。それが、日本一決定の大舞台で不本意な投球につながった。もちろん、巨人と言う老練なチームが、対戦を重ねるうちに田中攻略法を編み出したのは間違いないところだ。
普通に判断するならば、田中はここで交替させるべきだった。
巨人打線は田中をすでに攻略している。タイミングも合っているし、配球も読まれている。
しかし、田中は続投を志願した。
星野監督の頭には「則本は使えない」という考えがあったかもしれない。2日前に救援で5回を投げていたからだ。かといって長谷部や小山は投げさせられない。彼らはすべて日本シリーズで失点している。こうした救援投手の信頼は失われていた。斎藤、金刃という線があったと思うが、星野監督は田中の懇願に折れた。
結局、先発田中の救援に田中が立ったような形になったが、田中は8回も9回も二塁打を打たれ、得点圏に走者を進めた。結果的に0点に抑えたが万全とはとても言えなかった。
チームの功労者、田中に花を持たせたいという指揮官の意向は十分に理解できる。しかし、それは「勝利を優先する限りにおいて」という但し書きが付く。
日本シリーズ第6戦後半での指揮官の判断、そして田中の続投希望は「勝利第一主義」を逸脱したものだったのではないか。
160球を投げた田中の肩は心配ではあったが、そういう田中の今後の「商品価値」は度外視してもおかしな判断だったと思う。
■11月3日の決戦は、来季のことを考えても「田中抜き」で勝ち抜くべきであったと思う。それで新しいストーリーが開けたはずだ。
ベンチ入りをさせた時点で投げさせる選択肢が生じた。そして6回91球で無失点の美馬を降板させ、7回から則本を投げさせた時点で、最終回に田中が上がる可能性が生じた。
そうであっても「まさか」と思っていたが、9回に田中が上がってやはり2安打されながら抑えて歓喜の瞬間を迎えた。一発出れば同点になるリスクがあったことは明記すべきだろう。
救援投手田中は、3回で5被安打1四球、失点は0だが優秀とは言えない。「顔」で何とか抑えていたに過ぎない。
「勝利を優先したから田中に無理をさせた」というより「田中を胴上げ投手にしたかったから無理をした」と言う方が正しかったのではないだろうか。
私は斎藤隆をなぜもっと使わなかったのかと思っている。日本シリーズでも完封しているし、MLBで5度もポストシーズンで投げている。43歳ではあるが、その豊かな経験は大舞台で十分に生かされたはずだ。
田中の登板は「美談」になるだろうが、こうした風潮が広まるのは危惧すべきことだと思う。
私のサイトにお越しいただき、ありがとうございます。ぜひ、コメントもお寄せください!
↓
『「記憶」より「記録」に残る男 長嶋茂雄 』上梓しました。
「読む野球-9回勝負- NO.2」私も書いております。
広尾晃 野球記録の本、アマゾンでも販売しています。
クラシックSTATS鑑賞もご覧ください。ホークス、外国人選手のランキング
星野の用兵を叩いてる方は楽天の弱体救援陣の認識があまりにもなさすぎます