古くからご愛読いただいているGファンですが さんが、友人の「週刊新潮」の記者に統一球問題について質問をした。その問答。重要だと思うので、御当人の了承を得て掲載させていただく。
統一球第三者委員会の報告をマスコミが取り上げない点について友人の週刊新潮記者に問い質してみました。彼はプロ野球や大相撲の取材経験があり、とある球団からも出入り禁止になった男ではありますが骨のあるやつです。長文ですがお時間のあるときにお読みいただければ幸いです。
Q: 今回のプロ野球統一球にかかる第三者委員会の報告について。テレビも新聞も週刊誌も話題にしないのはなぜ?大々的に取り上げると出入り禁止になるから?それとも日本シリーズ期間なので遠慮しているのか。まさか加藤コミッショナーの辞任やらで「この問題終了」って幕引き? 自分からみるとみずほ銀行の暴力団融資問題と同程度のコンプライアンス問題だと考えます。我々野球ファンは基準値を下回る統一球で質の悪い試合を見せられた商品表示違反みたいなものです。見解をお聞かせください。
A: 貴兄なら当然ご存じのことと思いますが、まずはプロ野球の仕組から考えねばなりません。プロ野球は戦前の発足当初から、球団もしくはオーナー企業がそれぞれ勝手にチームを作り、そのチームが戦い始めることでリーグ戦となって発展していきました。それは戦後も同様で、2リーグ分裂も、プロ野球全体というより、各球団(オーナー)の思惑で進められたといっていいと思います。 ですから基本的に、プロ野球はファンのためでも、もちろん選手のためのものでもなく、オーナーたちのものだということです。
近鉄とオリックスが合併する時も、楽天が参入する時も、横浜のオーナーがDeNAに変わる時も、オーナー会議で決定されなければ決まりません。コミッショナーはお飾り、お神輿であって、決定権など何もないのです。 これはJリーグと比較するとわかりやすいですね。Jは当初からリーグ戦が前提で発足していますから、最終決定権はJが持っています。チームのオーナーではありません。これは隅々にまで徹底しています。例えば試合を取材したい場合(ペン、写真にかかわらず)、Jの場合はどの試合でも一括してJが取材受付の管理をしています。
一方プロ野球の場合は、主催チームが権限を持っています。うちの雑誌の場合、巨人や阪神とは記事内容でもめ、いまだに両チームの取材はできません。写真が必要な場合はチケットを入手し、一般客として球場に行き、客席から写真を撮るという形です。もちろん選手のコメントなどとりようもありません。(今もそうかわかりませんが、日刊ゲンダイも巨人は出入り禁止のはずです) 試合の放映権もJは一括管理、プロ野球は主催チームごとの管理です。
つまり、誰がどう言おうと、プロ野球はオーナーたちのものであり、全ては彼らの一存である、ということなのです。
さらに問題をややこしくしているのは、そのオーナーの中に大メディアが含まれているということです。読売グループですね。この影響は大きい。少なくともテレビや新聞、スポーツ紙は書きにくいことだと思います。 統一球問題に関していえば、たとえばうちの雑誌は4月半ば過ぎという早い段階で『「本塁打乱発」と「連続完封」が入り交じる「統一球」大疑惑』という記事を掲載しています。が、第三者委員会報告については今のところ記事にしておりません。
一方スポーツ紙等は一応取り上げたものの、貴君がおっしゃるようなコンプライアンス問題にまで話を広げているという形跡はありません。 なぜか。新聞、スポーツ紙、テレビ・ラジオが報じないのは、先に書いたように、プロ野球のオーナーサイドに同じ釜のメシの大メディアがいるということと、オーナーサイドをつつくことによる「出入り禁止」の不利益を避けたい、ということにつきると思います。もし取材拒否されれば、「報道」という名目であっても取材不可能なわけですから、「報道機関」にとっては痛いわけです。勢い、矛先は鈍らざるをえません。
ではもっと自由な立場にいる雑誌が大きく取り上げないのはなぜか。当然出禁による不利益もありますが、もうひとつはプロ野球が「糠に釘」だということを知っているから、という要素もあると思います。 最初に説明したように、プロ野球のあらゆることはオーナー会議で決定されます。このオーナー会議を糾弾したとしても、会議の構成メンバーを変えることはできませんし、彼らの既得権益を減らすことなどできません。第三者委員会の報告と言っても、いわばある種のガス抜きのようなもので、オーナーたちが「すんません」と表面上詫びてしまえばそれですむ話。コミッショナー事務局なんてものは、言い換えればオーナー会議事務局でしかないわけです。だから加藤コミッショナーの辞任で、一連の茶番劇がすんだということなのです。
雑誌の関心はむしろ、次のコミッショナーが誰か、というところに移っています。お飾りではない、オーナー会議に対しても発言のできるコミッショナーが選ばれるかどうか。もはやそちらにしか興味がないという状況だろうと思います。
おっしゃるとおり、この問題は一般企業であればコンプライアンス問題です。ただオーナー会議にその認識がない以上、暖簾に腕押し糠に釘なのです。それがプロ野球の実態、ということです。雑誌の舌鋒が鈍いのは、そんなところに理由があるのではないかと自省しています。
今回の日本シリーズ、全戦観たわけではないですが、強く印象に残ったのは楽天・則本投手でした。近年あまりみない気迫あふれるマウンドさばきに、私たちが子供の頃熱中したプロ野球の醍醐味を思い起こすことができました。確かに今シーズンは、いやここ2、3シーズンは、商品表示違反のような試合を見せられていたのかもしれません。でもそんな中でも、腐らずにビュンビュンとイキのいいボールを投げ込む若手がいることにホッとしています。 私など力及ばずの人間ですが、少しでもおっしゃるような部分に切り込んでいけるようにしたいと思います。
私のサイトにお越しいただき、ありがとうございます。ぜひ、コメントもお寄せください!
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Q: 今回のプロ野球統一球にかかる第三者委員会の報告について。テレビも新聞も週刊誌も話題にしないのはなぜ?大々的に取り上げると出入り禁止になるから?それとも日本シリーズ期間なので遠慮しているのか。まさか加藤コミッショナーの辞任やらで「この問題終了」って幕引き? 自分からみるとみずほ銀行の暴力団融資問題と同程度のコンプライアンス問題だと考えます。我々野球ファンは基準値を下回る統一球で質の悪い試合を見せられた商品表示違反みたいなものです。見解をお聞かせください。
A: 貴兄なら当然ご存じのことと思いますが、まずはプロ野球の仕組から考えねばなりません。プロ野球は戦前の発足当初から、球団もしくはオーナー企業がそれぞれ勝手にチームを作り、そのチームが戦い始めることでリーグ戦となって発展していきました。それは戦後も同様で、2リーグ分裂も、プロ野球全体というより、各球団(オーナー)の思惑で進められたといっていいと思います。 ですから基本的に、プロ野球はファンのためでも、もちろん選手のためのものでもなく、オーナーたちのものだということです。
近鉄とオリックスが合併する時も、楽天が参入する時も、横浜のオーナーがDeNAに変わる時も、オーナー会議で決定されなければ決まりません。コミッショナーはお飾り、お神輿であって、決定権など何もないのです。 これはJリーグと比較するとわかりやすいですね。Jは当初からリーグ戦が前提で発足していますから、最終決定権はJが持っています。チームのオーナーではありません。これは隅々にまで徹底しています。例えば試合を取材したい場合(ペン、写真にかかわらず)、Jの場合はどの試合でも一括してJが取材受付の管理をしています。
一方プロ野球の場合は、主催チームが権限を持っています。うちの雑誌の場合、巨人や阪神とは記事内容でもめ、いまだに両チームの取材はできません。写真が必要な場合はチケットを入手し、一般客として球場に行き、客席から写真を撮るという形です。もちろん選手のコメントなどとりようもありません。(今もそうかわかりませんが、日刊ゲンダイも巨人は出入り禁止のはずです) 試合の放映権もJは一括管理、プロ野球は主催チームごとの管理です。
つまり、誰がどう言おうと、プロ野球はオーナーたちのものであり、全ては彼らの一存である、ということなのです。
さらに問題をややこしくしているのは、そのオーナーの中に大メディアが含まれているということです。読売グループですね。この影響は大きい。少なくともテレビや新聞、スポーツ紙は書きにくいことだと思います。 統一球問題に関していえば、たとえばうちの雑誌は4月半ば過ぎという早い段階で『「本塁打乱発」と「連続完封」が入り交じる「統一球」大疑惑』という記事を掲載しています。が、第三者委員会報告については今のところ記事にしておりません。
一方スポーツ紙等は一応取り上げたものの、貴君がおっしゃるようなコンプライアンス問題にまで話を広げているという形跡はありません。 なぜか。新聞、スポーツ紙、テレビ・ラジオが報じないのは、先に書いたように、プロ野球のオーナーサイドに同じ釜のメシの大メディアがいるということと、オーナーサイドをつつくことによる「出入り禁止」の不利益を避けたい、ということにつきると思います。もし取材拒否されれば、「報道」という名目であっても取材不可能なわけですから、「報道機関」にとっては痛いわけです。勢い、矛先は鈍らざるをえません。
ではもっと自由な立場にいる雑誌が大きく取り上げないのはなぜか。当然出禁による不利益もありますが、もうひとつはプロ野球が「糠に釘」だということを知っているから、という要素もあると思います。 最初に説明したように、プロ野球のあらゆることはオーナー会議で決定されます。このオーナー会議を糾弾したとしても、会議の構成メンバーを変えることはできませんし、彼らの既得権益を減らすことなどできません。第三者委員会の報告と言っても、いわばある種のガス抜きのようなもので、オーナーたちが「すんません」と表面上詫びてしまえばそれですむ話。コミッショナー事務局なんてものは、言い換えればオーナー会議事務局でしかないわけです。だから加藤コミッショナーの辞任で、一連の茶番劇がすんだということなのです。
雑誌の関心はむしろ、次のコミッショナーが誰か、というところに移っています。お飾りではない、オーナー会議に対しても発言のできるコミッショナーが選ばれるかどうか。もはやそちらにしか興味がないという状況だろうと思います。
おっしゃるとおり、この問題は一般企業であればコンプライアンス問題です。ただオーナー会議にその認識がない以上、暖簾に腕押し糠に釘なのです。それがプロ野球の実態、ということです。雑誌の舌鋒が鈍いのは、そんなところに理由があるのではないかと自省しています。
今回の日本シリーズ、全戦観たわけではないですが、強く印象に残ったのは楽天・則本投手でした。近年あまりみない気迫あふれるマウンドさばきに、私たちが子供の頃熱中したプロ野球の醍醐味を思い起こすことができました。確かに今シーズンは、いやここ2、3シーズンは、商品表示違反のような試合を見せられていたのかもしれません。でもそんな中でも、腐らずにビュンビュンとイキのいいボールを投げ込む若手がいることにホッとしています。 私など力及ばずの人間ですが、少しでもおっしゃるような部分に切り込んでいけるようにしたいと思います。
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これを読み思うのは、やはり現状のプロ野球は企業スポーツでしかないことが問題なんです。
だから、市民団体と地方公共団体が中心になり経営して、企業のスポンサー支援くらいの球団を作っていかないとならないかと感じました。
巨人とマスコミ関係の悪さは、最近亡くなった川上哲治監督時代の所謂「鉄のカーテン」により、なかなか直接取材が出来なくなったこと、「湯口事件」で読売と報知以外が徹底して巨人と川上に非難を浴びせたことによるものでしょう。
川上哲治の功罪のうち、後者になります。