田中将大のMLB入りへ向けて、障害となっていた、MLBとNPBのポスティングシステムの交渉が前進したようだ。この話、よくわからない部分がある。
MLBとNPBのポスティングシステムとは、海外FA権を取得する以前の選手、つまり1軍登録が累計で9年に達しない選手がMLBに移籍するための制度だ。
所属球団が海外移籍を認めた場合、球団はMLBのコミッショナーにその選手が海外移籍可能であることを告知する。
コミッショナーはMLB30球団に対しその旨を連絡する。
獲得の意志のある球団は4日以内にコミッショナー事務局に金額を入札する。コミッショナーは最高金額を日本の球団に申し入れ、NPB球団が了承すれば落札となる。落札したMLB球団は、該当選手と30日間の独占交渉権がある。
入札金額は全額球団に入る。選手の年俸は、入札額とは別に契約することになる。
交渉が決裂した場合は、その選手は他の球団と交渉はできない。少なくとも翌年の11月1日まで、MLBへの移籍交渉そのものが不可能になる。

このポスティングは、NPB球団にとってはメリットが大きい。巨額の入札金が入ってくるからだ。その上、選手の移籍の決定権も、ポスティングに応じるかどうかを決める権利も、NPB球団側にある。
MLB球団にとっては、年俸に加えて巨額の入札金を支払わなければならないから、メリットは少ないように見えるが、確実に即戦力となる投手を獲得できるうえに、いわゆる「贅沢税」の対象外であることも魅力だ。金満球団にとっては、魅力的ではある。

ポスティングで移籍するNPB選手は、ほとんどが一流選手だが、2つのグループに分けることができる。

①超一流選手
NPBではすでに「やることがない」レベルに達した選手。NPB側は引き留めたいのはやまやまだが、これ以上年俸が高騰するくらいなら海外FA権を取得する前にポスティング移籍を認めて、落札金を手にする方が良いと判断するケース。
イチロー、松坂、井川慶、ダルビッシュ有などがこのケース。田中もこれに含まれる。
落札金額は、イチローの1312万ドルを皮切りにダルビッシュは5170万ドルにまで高騰した。


②一流選手
チームの主力選手だが、本人のMLBへの移籍の意志が固くて、NPB球団側が折れるケース。石井一久、中村紀洋、森慎二、岩村明憲、青木宣親、岩隈久志、中島裕之などがこのケース。
岩隈のように1910万ドルという落札額になったケースもあるが、ほとんどは1000万ドル以下(岩隈のケースも契約不成立でオークランドは入札金を支払っていない。ポスティングつぶしだと言う声も上がった)。このパターンで移籍した選手の多くはMLBで活躍していないのは興味深い。また、岩隈、中島はポスティングそのものが不成立に終わった。

②のケースは成功事例が少ない上に、NPB,MLB双方にとってあまりメリットがないので減少すると思われる。



ポスティングシステムは2012年12月に失効していた。
MLB側は入札額が高騰することに難色を示して改定を申し出た。NPB側もこれに応じ、競技の末に、一部改定されることになるようだ。
落札額は1位と2位の入札金額の中間の金額とする。MLBはこれで入札額の青天井の高騰を抑制することができる(闇カルテルの可能性は生じるが)。一方で岩隈、中島のように交渉が不成立に終わった場合には、MLB機構に罰金を支払うことにもなりそうだ(NPB球団側に入ると書いた報道があったので、そう書いたが違うようだ。修正する)。

田中将大という大物の移籍を控えてMLB側は結論を急ぎたかったようだが、ここへきてプロ野球選手会側が
「選手、NPB側にメリットがない」と再考を申し入れた。
この異議申し立てはよくわからない。
豊浦彰太郎さんが、うまく論点を整理しておられるが、ポスティングシステムの問題に関しては、選手会は利害の当事者ではないのだ。

「ポスティング新案に選手会が反対」本当の理由は?

岩隈、中島のポスティング不調については、選手会は選手の権利擁護の立場から制度の改善を訴えていたが、今回の改定は、ポスティングを破棄した球団にペナルティを科すことが定められた。そういう意味では一歩前進であり、選手会がクレームをつける必然性はないように思える。
選手会側は「複数球団との交渉を認めるべきだ」と言っている。それはわからないではないが、交渉の当事者ではないから、強硬な姿勢はとれないはずだ。

穿った見方をすれば、選手会はポスティングに際して、選手会もステークホルダーに加えよ、と主張したいのではないだろうか。選手会のメンバーたる選手の移籍に際しては、選手会も交渉相手に加えるべきだ。さらに言えば落札額の一部を選手会に分配すべきだと言いたいのではないだろうか。
だとすれば、それは十分に意義のあることだと思う。偉大な選手が生まれ育ったNPBを巣立つに際して、球団だけでなく選手会にも利得を回すことができるならば、そしてそれがセカンドキャリア対策や、指導者の教育などに使われるなら、非常に有意義なことだと思う。

昨日になって選手会側も態度を軟化させた。マスコミは「田中のために譲歩した」と書いているが、そういうことではないだろう。恐らくはNPB側と何らかの具体的な合意があったのだろう。

これを機に日米の選手の移籍について、選手会を公式の交渉相手の一員として加えることはできないだろうか。球団の損得だけでなく、選手全体の利益を考えた交渉ができれば進歩だと思う。

それにしてもマスコミの次元の低さには毎度ながらあきれてしまう。
ニッカンゲンダイは、日本シリーズで田中が敗戦投手になったことを「ポスティングシステムの交渉が不調で、落胆したからだ」と書いていた。
そこまで利害で動くことができる人間は日本にはいないと思うが、あまりにも子供じみている。もう少し真剣に報道しないと存在意義がなくなると思う。


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