掛布雅之が阪神のGM付育成&打撃コーディネーター(DC)として、引退以来25年ぶりに現場復帰したことが話題になっている。
和田豊は、掛布とは現役が3年重なっているが、和田監督にとって掛布は見上げるような大先輩だろう。
成績を比べてみて、二人の数字が意外に近いことを発見した。

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しかし、掛布は和田にはなかった「長打力」で阪神のみならず、プロ野球界を魅了した。盛りは短かったが、一世を風靡した大打者だ。

この大先輩が、GM付DCというよくわからない役職で復帰し、監督を上回る注目を集めているのは、和田にとっては迷惑な話だろう。



デビット・ハルバースタムの『さらばヤンキース 運命のワールドシリーズ』には、ジャッキー・ロビンソンをMLBにデビューさせるなど偉大な指導者、フロントだったブランチ・リッキーが、セントルイスにオーナー付のアドバイザーとして現場復帰し、監督のジョニー・キーンやGMのディバインと対立する話が出てくる。
オーナーは、リッキーと対立したGMを切ったが監督は残した。セントルイスはこの年ワールド・チャンピオンになるが、ジョニー・キーン監督も、優勝後にオーナーに対して辞任を申し入れ、ライバルのヤンキースに移籍している。
これは、こうした「屋上屋を重ねる」人事が、組織には決して良い影響をもたらさないという好例だ。



ブランチ・リッキーは指導者として十分な実績を持っていたが、掛布雅之は、引退以来ずっと解説者畑を歩いていた。指導者としては全く未知数だ。
球団側は、この未知数の掛布に次の采配をゆだねようとしているかのようである。
中村勝広GMも掛布にとっては元の同僚。年齢は中村の方が6歳上だが、現役の実績では圧倒的に掛布の方が上である。掛布を呼ぶにあたっては「三顧の礼」で迎えたはずだ。

阪神タイガースというチームは、草創期からお家騒動を繰り返してきた。
早くも創設2年目の1937年、初代監督の森茂雄を解任したが、この人事に反発した同じ松山出身の外野手小島利男が後輩の景浦將らを伴って、二代目監督石本秀一の排斥運動を起こしている。球団は小島をイーグルスに移籍させて騒ぎを収めたが、この時以来、阪神の内紛劇の火種は、ほとんど「監督」なのだ。

阪神という球団は、現場トップである監督を自分たちで任命しておきながら、しばらくたつとあからさまに「お前のことは信頼していない」という態度を取る、不思議な組織である。
恐らくは、成績不振や世間の不評の責任を現場におっかぶせたい、という心理が働くのだろうが、そうした小心な「打つ手」が、監督の意気を阻喪させ、さらなる成績不振を招くのは言うまでもないことだ。

また掛布にしたところで、「噛ませ犬」にように変なポジションを与えられるのは、望ましいこととは思えない。
事業の失敗、破産問題を抱える掛布にとっては、社会的信用を回復するうえで願ってもないオファーだったとは思うが、彼の存在はあまりにも大きすぎる。もはや、コーチからたたき上げるには遅すぎるし、誠に扱いにくい存在になっている。

この役職は非常勤で、シーズンが始まれば解説者としてマイクの前に立つこともできるようだが、その中途半端なステイタスも問題だ。
掛布がキャンプ中などで見聞きしたチーム事情を放送で話すとすれば、それこそ「内紛の種」になってしまう(掛布自身がそういう狷介な人物でないことは承知しているが)。


マスコミは、掛布雅之の一挙手一投足に注目している。秋季キャンプの練習試合を「初陣」などと報道するメディアもある。単なるアドバイザーのはずが、マスコミ人事ではすでに「指導者」の扱いだ。和田監督にしてみれば、面白かろうはずがない。

来季の成績にかかわらず、今オフには「掛布雅之監督」待望論が湧き上がるのではないか。
またぞろ「お家騒動」が始まりそうな気配である。マスコミは大喜びだろうが、悩ましいことではある。


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