今年だけではないのかもしれないが、広島は黒田博樹に背番号「15」を開けて待っていると伝えたそうだ。年俸も提示している。
デイリースポーツより

広島がヤンキースをFAとなった黒田博樹投手(38)に対し、条件提示を行っていたことが21日、分かった。推定年俸3億円で、鈴木球団本部長が近況確認のため電話連絡を取った際「普通の会話の中」で本人に伝えた。
 広島は07年限りでメジャー移籍した元エースに毎オフ、ラブコールを送り続けてきた。背番号「15」は来季も空き番で古巣復帰を待望。黒田も日本球界に復帰する際は「カープ」と明言してきた。
 今季年俸1500万ドル(約15億円)で11勝を挙げた右腕は、来季年俸はさらなるアップが確実。金額では歯が立たないが「何があるか分からない。これからも連絡を取り続けていく」と鈴木本部長。カープの一途な思いは今年こそ実を結ぶか‐。


黒田博樹は後足で砂をかけて広島を出て行ったわけではない。海外FA権を取得して、正当な手続きを経てロサンゼルス・ドジャースに移籍したわけだ。
黒田は広島在籍中、球団やファンに迷惑をかけたわけでもない。
援護が少ないなか、NPBで103勝89敗を挙げている。勝率は.548であり、この期間の広島の勝率.455を大きく上回っている。

黒田は「恩知らず」とか「裏切り者」とか言われる筋合いは全くない。育ててもらった広島の恩義を感じるのは、日本人的には当然だが、それはごく普通の意味で、ということだ。

黒田は常々「日本球界に復帰するとすれば、広島だ」と言っているが、これもごく普通のコメントだ。来年復帰するとも、何年後に復帰するとも言っていない。
黒田が1年契約を希望するのは、翌年広島に復帰したいからではなく、A-RODをはじめ、多くのスター選手が巨大な複数年契約を結んで不良債権化するのを目の当たりにしてきたからだろう。
チームやファンに迷惑を掛けたくないと言う日本人的な倫理観もあって、単年契約を条件にしているのだろう。

黒田はヤンキースのエースである。彼がいなければ、ヤンキースのポストシーズン進出の可能性は、もっと早くに消滅していたはずだ。
その円熟した投球は、ニューヨーク、アメリカのファンだけでなく、日本のファンも喜ばせた。NPBで培った投球の技術が、MLBでも通用することを証明してくれることは、日本のファンにとって誇らしいことだった。
彼が年俸14.1億の クオリファイング・オファーを蹴って、FAになったのもMLB的には当然の話だ。彼にはその値打ちがあるからだ。

黒田に対して鈴木球団本部長が示した提示がどれほど異様なものか、は、一般社会に置き換えてみればすぐにわかる。

企業が、円満退社をして外資系企業で年収1500万円で働いている元社員に
「前のままの役職を用意するから300万円で戻ってきてほしい」

というようなことがあり得るだろうか。
鈴木本部長は「ダメもとで言っているんだ」と言うかも知れないが、それがどれほど失礼なことかが、上の例えでもわかると思う。

プロにとって年俸とは、収入である以上に「評価」である。黒田はMLBでも最も上位の評価を得ている一人だから、これだけの年俸を提示されるわけだ。イチローの倍以上の年俸をもらっているのは、今の時点でイチローより評価が高いからだ。
彼に年俸を提示するのは、「お前にうちはこういう評価をしている」と言うのと同じだ。

広島カープが経営危機に陥っているとか、広島地域が大きな自然災害に見舞われたとか、そういう事情があるなら話は別だ。
「今、これだけしか出せないけど、男気を出してくれ」
日本的な発想ではあるけれど、それはありだと思う。

しかし、広島は15億円以上の価値があるとされる人間を、ただ「元選手だ」というだけで3億円で買おうとしているのだ。
こういうのを「厚顔」という。

広島は生え抜き選手の年俸が高騰すると、FAで出ていくのを引き留めない球団である。情に厚い球団ではない。ファンよりも、選手よりも自社の経営を優先する企業なのだ。



「普通の会話の中」で本人に伝えたというが、なぜその内容を公表するのだろうか。

公表したことで、黒田がアメリカにとどまれば、「広島の精いっぱいのオファーを蹴った」と受け取る人もでてくる。
「3億だろうが、15億だろうが、我々には手の届かない金額だ、そんなにもらってまだ欲しいのか」という嫌らしい意見を吐く人もでてくる。黒田の評判に何がしかの傷がつくのだ。
例によってスポーツ紙は広島のオファーに同情的だが、そのことが黒田にプレッシャーを与えていることには気が付かない。そうした感受性がない。

黒田に本当に戻ってきてほしいのなら、 クオリファイング・オファー程度の金額を提示すべきである。その上で「広島を助けてほしい、若手を指導してほしい」と言うべきである。

日本球界の老人たちはMLBに挑戦する選手に対して、正当な移籍にもかかわらず「育ててもらった恩を忘れて」「自分のことだけ考えている」とよく言う。それはそれ以外に非難する言葉が見当たらないからだ。
広島の今回のオファーも同じ前提から出されているものだ。
「育ててもらった恩を忘れていないなら」「自分のことだけ考えていないなら」年俸3億を呑むべきだ。

日本球界に、そういう陰湿な体質があるから、聡明で優秀な選手は、みんなMLBを目指すのだ。そのことを認識すべきだと思う。

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