新ポスティングシステムは、ようやく締結された。押し詰まった時期ではあるが、日米の野球界は新しいルールを共有することになった。
NPBでもMLBでも経営者が集まってこのルールについて協議をし、最終的に合意した。
喧しい議論があっただろう。MLBでは金満球団が不満を漏らしただろうが、数で優勢なお金持ちでない球団が押し切ったのではないだろうか。
当初、ポスティングシステムは、一部の金満球団だけを相談相手として進められたようで、MLB機構側は、その他の球団から「わしらをはみ子にするな!」という抗議を受けた。その負い目があるだけに、金満球団も強く出られなかったのではないか。
NPBのオーナー会議では、楽天だけが締結に難色を示したが、11球団が賛同した。
ポスティングシステムをめぐる問題は、今年に関して言えば、たった一人の選手のためだけにある。
楽天の田中将大という好投手がアメリカに行くことができるのか、できないのか、それだけである。
田中本人は、ここに至るまで一語も「MLB挑戦」について明言しなかった。昨年「将来的にメジャーでやりたい」という意思表示はしていたが「今年移籍したい」とは一言も言わなかった。
しかし、新システム締結直後の17日に田中は記者会見をして「大リーグに挑戦したい」と明確に述べた。
これは大きな意味がある。今年の活躍ぶりを見れば、彼が大きな決意を秘めていたのは間違いないところだが、これまではあくまで憶測にすぎなかった。しかし、彼が自身の口で「来年、メジャーに行く」といったことで、事態ははっきりと固まった。
田中は、今季を「NPBでの集大成の年」と定め、例年以上に頑張ったのである。その結果、球史に残る成績を収め、球団も初優勝した。それもこれも、すべては「今年が最後の年」だったからだ。
ファンの多くはこのストーリーを認識していたから、楽天、田中を応援した。星野仙一監督の無理な起用も、「今年が最後だから」という認識があったからだ。
しかしここへきて、楽天球団は田中の米移籍に難色を示した。
田中がMLB移籍の意思表示をしなければ、形式的にせよ「田中と話をして、移籍は時期尚早ということになった」と言う理屈をこしらえることもできただろうが、田中が意思表示をしたことで、楽天は単に「貰える金が少なくなったから」反対していることが露呈してしまった。
身もふたもない話である。
楽天の三木谷浩志オーナーは、新自由主義の旗手と言われている。新自由主義とは有体に言えば「儲けることが善」であり「何でも金に置き換える」考え方である。
その三木谷氏からすれば「貰える金が少なくなる」ことは「悪」以外のなにものでもないから、当然のごとく反対しているのかもしれない。
しかし、そこに人に共感させる「情理」が不在なのは明らかだ。
楽天市場はイーグルスの優勝に際して「77%オフ」という派手な優勝セールを行った。しかしそれに参加した中には、
京都「茶游堂」の抹茶シュークリーム(10個入り)を、 「通常販売価格1万2000円」「77%オフで2600円」
など、むちゃくちゃな不正表示をする店舗もあった。
これは店舗のモラルの問題ではあるが、市場を運営する楽天の意識も、従来の「商売人」とは違っていたと思われても仕方がない。
楽天は私も大いに利用しているが、ECにはそういう一面があることを認識している。
今回の事件で、世間の多くは
「楽天市場であこぎな商売をする楽天だから、金に汚いのは仕方がない」
と認識するようになったはずだ。
そもそもポスティングシステムで球団に入る金の正当性には疑問がある。
松坂大輔やダルビッシュの際に5000万ドル以上の金額になったのは、入札によって競争が生じたからだ。たまたま金満球団の財布にその金があったからで、数字にさしたる根拠があったわけではない。
NPB球団は選手の育成には「元手がかかっている」と言うかも知れないが、選手はその金額に見合う活躍をした。だから評価が高まったのだ。
ポスティングによって球団へ入る金は「少し早く手放すことになる球団への落とし前」に過ぎない。
昔、女郎を年季があける前に自分のものにするためには、「落籍料」というまとまった金を女郎屋に払う必要があったが、ほぼそれと同じようなものである。
ポスティング費用は「正当な対価」というよりは「みかじめ料」に近いものだ。あまり胸を張って主張できる金ではない。
ある経済学者によれば、人は「才能や努力に対して支払われる対価」は概ね好意をもって受け止めるが、「幸運や利権によって懐に入る金」には否定的だと言う。
ビッグマネーを手にするスポーツ選手が、大企業の経営者などより人気が高いのは、まさにこうした理由に拠るのだろう。
楽天が手にする「ポスティングシステムによる応札金」は、後者のお金だ。「50億」の皮算用が「20億」になったからといって、世間は同情しない。
楽天は景気の良い会社だと言われている。
けちけちしないでポスティングで入ってくる金額をどーんと「東北復興」に全額寄付してはどうだろうか。
「あぶく銭」を「活き金」に変えることで、得る物は非常に大きいはずだ。
たかが「30億」の「はした金」で(私にとってじゃないですよ)、女々しい態度をとることで失うものは、予想外に大きいことを認識すべきだ。
私のサイトにお越しいただき、ありがとうございます。ぜひ、コメントもお寄せください!
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当初、ポスティングシステムは、一部の金満球団だけを相談相手として進められたようで、MLB機構側は、その他の球団から「わしらをはみ子にするな!」という抗議を受けた。その負い目があるだけに、金満球団も強く出られなかったのではないか。
NPBのオーナー会議では、楽天だけが締結に難色を示したが、11球団が賛同した。
ポスティングシステムをめぐる問題は、今年に関して言えば、たった一人の選手のためだけにある。
楽天の田中将大という好投手がアメリカに行くことができるのか、できないのか、それだけである。
田中本人は、ここに至るまで一語も「MLB挑戦」について明言しなかった。昨年「将来的にメジャーでやりたい」という意思表示はしていたが「今年移籍したい」とは一言も言わなかった。
しかし、新システム締結直後の17日に田中は記者会見をして「大リーグに挑戦したい」と明確に述べた。
これは大きな意味がある。今年の活躍ぶりを見れば、彼が大きな決意を秘めていたのは間違いないところだが、これまではあくまで憶測にすぎなかった。しかし、彼が自身の口で「来年、メジャーに行く」といったことで、事態ははっきりと固まった。
田中は、今季を「NPBでの集大成の年」と定め、例年以上に頑張ったのである。その結果、球史に残る成績を収め、球団も初優勝した。それもこれも、すべては「今年が最後の年」だったからだ。
ファンの多くはこのストーリーを認識していたから、楽天、田中を応援した。星野仙一監督の無理な起用も、「今年が最後だから」という認識があったからだ。
しかしここへきて、楽天球団は田中の米移籍に難色を示した。
田中がMLB移籍の意思表示をしなければ、形式的にせよ「田中と話をして、移籍は時期尚早ということになった」と言う理屈をこしらえることもできただろうが、田中が意思表示をしたことで、楽天は単に「貰える金が少なくなったから」反対していることが露呈してしまった。
身もふたもない話である。
楽天の三木谷浩志オーナーは、新自由主義の旗手と言われている。新自由主義とは有体に言えば「儲けることが善」であり「何でも金に置き換える」考え方である。
その三木谷氏からすれば「貰える金が少なくなる」ことは「悪」以外のなにものでもないから、当然のごとく反対しているのかもしれない。
しかし、そこに人に共感させる「情理」が不在なのは明らかだ。
楽天市場はイーグルスの優勝に際して「77%オフ」という派手な優勝セールを行った。しかしそれに参加した中には、
京都「茶游堂」の抹茶シュークリーム(10個入り)を、 「通常販売価格1万2000円」「77%オフで2600円」
など、むちゃくちゃな不正表示をする店舗もあった。
これは店舗のモラルの問題ではあるが、市場を運営する楽天の意識も、従来の「商売人」とは違っていたと思われても仕方がない。
楽天は私も大いに利用しているが、ECにはそういう一面があることを認識している。
今回の事件で、世間の多くは
「楽天市場であこぎな商売をする楽天だから、金に汚いのは仕方がない」
と認識するようになったはずだ。
そもそもポスティングシステムで球団に入る金の正当性には疑問がある。
松坂大輔やダルビッシュの際に5000万ドル以上の金額になったのは、入札によって競争が生じたからだ。たまたま金満球団の財布にその金があったからで、数字にさしたる根拠があったわけではない。
NPB球団は選手の育成には「元手がかかっている」と言うかも知れないが、選手はその金額に見合う活躍をした。だから評価が高まったのだ。
ポスティングによって球団へ入る金は「少し早く手放すことになる球団への落とし前」に過ぎない。
昔、女郎を年季があける前に自分のものにするためには、「落籍料」というまとまった金を女郎屋に払う必要があったが、ほぼそれと同じようなものである。
ポスティング費用は「正当な対価」というよりは「みかじめ料」に近いものだ。あまり胸を張って主張できる金ではない。
ある経済学者によれば、人は「才能や努力に対して支払われる対価」は概ね好意をもって受け止めるが、「幸運や利権によって懐に入る金」には否定的だと言う。
ビッグマネーを手にするスポーツ選手が、大企業の経営者などより人気が高いのは、まさにこうした理由に拠るのだろう。
楽天が手にする「ポスティングシステムによる応札金」は、後者のお金だ。「50億」の皮算用が「20億」になったからといって、世間は同情しない。
楽天は景気の良い会社だと言われている。
けちけちしないでポスティングで入ってくる金額をどーんと「東北復興」に全額寄付してはどうだろうか。
「あぶく銭」を「活き金」に変えることで、得る物は非常に大きいはずだ。
たかが「30億」の「はした金」で(私にとってじゃないですよ)、女々しい態度をとることで失うものは、予想外に大きいことを認識すべきだ。
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