16日、MLBは今季からビデオ判定の適用範囲を大幅に拡大すると発表した。
昨季まで本塁打に限定されていた対象が、ストライク、ボールの判定以外のほぼすべてのプレーに広がる。監督は1試合で1度、審判員に審議を要求する「チャレンジ」の権利を与えられ、判定が覆った場合は2度目の要求ができる。1試合で最大2度まで。

また、これまで混乱を避けるために球場のスクリーンでの微妙な判定の上映は禁じられていたが、今季からはすべてのプレーを映すことができる。

これまでMLBでルールが改正されれば、1年遅れでNPBもそれに追随してきた。恐らく2015年からNPBでも同様のことになるだろう。

スポーツの世界は、間違いなく進化している。一つ一つのプレーの精度も高まっているし、より高度な専門性がなければトップ・アスリートにはなれなくなっている。

野球の世界も、確実に進化している。選手のプレーはますます精緻になり、スピード感もパワーも向上している。
例えば41年前、王貞治は51本塁打を打ったが、120mを超す大本塁打は15本に過ぎなかった。しかし12年前松井秀喜が放った50本塁打のうち120m超弾は30本に達していた。
今と昔の選手が戦えば、勝敗は明らかだろう。
しかし、今の選手たちが昔の選手をリスペクトしているのは、今の選手の「実力」が、昔の選手の築いた基本の上に成り立っていることを知っているからだ。スポーツは一瞬一瞬の力で評価すべきではなく、「歴史」の流れの中で評価すべきなのだ。

同様に審判の技術も明らかに進化しているはずだ。ジャッジはより的確になり、その判断も適切になっているはずだ。高度化するプレーに対して、より正確な判断をくだしているはずだ。
審判たちは、精細なビデオの画像を分析することで、微妙なプレーの場合、どこを見るべきか。どの位置にポジションどりをすべきかの検討をしている。
またさまざまなルールの改定や、追加、修正も頭に入れている。
恐らく、昔の審判と比べれば、今の審判の仕事量は大幅に増えているだろうが、それをきっちりと処理し、ジャッジの精度も向上しているはずだ。

しかし、審判に対する風当たりは年々強くなっている。審判への強硬な抗議は増えている。
その根拠となっているのも「ビデオ」だ。ビデオの映像には、きわどいプレーがそのまま映っている。これを見れば一目瞭然。審判の判断がビデオ映像と違っていれば、選手や監督たちは、審判に猛烈な抗議をする。

ファンも同様だ。テレビや球場のビジョンなどで再現された映像を見て「今の審判はダメだ」と言う声を上げる。
私は選手や審判は進化していると思うが、観客、ファンはどうだろうか?と思っている。ファンの中には何の根拠もないのに「俺の方がいいジャッジができる」と思っている人が結構いることだろう。



昔は1秒の何十分の1、何百分の1という瞬時の判断は「神の領域」だった。プレーを再現することも不可能だったから、そのジャッジは審判に委ねていた。間違っていることもあっただろうが、その黒白も含めて審判を「最終判断者」とすることで試合は成り立っていた。
審判は、そうした微妙な判断も含めて、すべての判定を行い、試合進行を宰領する存在だった。試合においては、審判は全権を掌握する最終判定者なのだ。

ビデオ判定の適用範囲の拡大は、審判の判定への「異議申し立て」の機会を増やす。これは審判の権威のさらなる失墜につながるだろう。
より深刻なのは、球場のスクリーンでビデオの再現映像が流されることだ。これによってファンはさらに「審判はダメだ」と思うようになる。
すでに「審判なんか必要ではない、機械で代替可能ではないか」というファンがいるが、そうした認識を持つ人はさらに増えるだろう。私は愚かな考えだと思う。

何度も言っているが、野球と言うスポーツは「リスペクト」の上に成り立っている。選手個々が敵味方を越えてリスペクトすること、そして「野球」という競技に対してリスペクトすることが何より大切だ。
試合において「野球」へのリスペクトとは、審判へのリスペクトに他ならない。それが損なわれるのは、大げさに言えば「野球の危機」だと言ってよいだろう。

誤解を恐れずに言うが、ちっぽけな「アウト、セーフ」の判断に拘泥して、「野球」という歴史あるスポーツの大局観を見誤るのは、愚かなことだと思う。
個別の「勝った負けた」よりも、野球の伝統の方が大事だと思う。

どんなにビデオカメラを設置しまくってもミスジャッジは起こるのだ。
どこかで歯止めをかけなければ、野球と言う競技は中断だらけのつまらない「ビデオ判定ゲーム」になってしまうだろう。


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