確か大豊泰昭が入団した1989年の春だったと思う。中日キャンプに押し掛けた台湾メディアの行状は、ちょっとした見ものだった。
大豊へのインタビュー。なぜか聞き手のタレントもディレクターと思しき人物も、大豊の肩に手を置いたり、なれなれしく体に触ったりしながら話すのだ。しまりのないゆるいインタビューだったが、タレントもスタッフも非常にうれしそうだった。台湾では、タレントが自分のステイタスをひけらかすために、そういうインタビューをするのだという。

李承ヨプがやってきたときの韓国メディアも大した騒ぎだった。李承ヨプは、韓国では王貞治らの55本塁打を抜いた「アジアの大砲」であり「神の領域」とまで言われていた特別の存在だった。MLBからはマイナー契約のオファーしかなかったが、日本球界で並みいる投手を蹴散らして本塁打を量産し、それを手土産にアメリカへ渡ろうという、壮途の第一歩とみなされていた。それこそ箸の上げ下げまで報道しかねない過熱ぶり。連日韓国のスポーツ紙のトップを飾った。日本のマスコミは韓国メディアのエキサイトぶりを報道したものだ。

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一昨年の金泰均、今年の李大浩の周囲にも韓国メディアは少なからずいる。自国の英雄の一挙手一投足は、毎日、本国に伝えられている。オリックスの岡田監督は、韓国メディアが立ち入り禁止区域にもどんどん入ってくること、そして報道陣用に用意した食事を全部持って行ってしまうことに怒っていた。いなごの襲来みたいだ。

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台湾や韓国のメディアの大張りきりを、日本のメディアは少し見下ろすような目線でみている。嘲笑とまではいかないが奇異の視線で眺めているように思う。

しかし日本は韓国、台湾メディアを笑えない。今、アリゾナ州サプライズでは、同じような騒ぎになっている。ダルビッシュ有のまわりには、ムービーカメラやマイクや様々な機材をかついだ扁平な顔をしたアジア人たちがひしめいている。その“フィーバーぶり”をアメリカのメディアは、日本メディアが台湾、韓国メディアを見つめたのと全く同じ眼差しで見つめている。

でも、無理もないのだ。このところMLBの日本人株は下落し続けている。栄光の巨人の4番打者松井秀喜はいまだに就職先が見つからないし、世界のイチローもたそがれつつある。巨額のポスティング費で移籍した松坂大輔はリハビリ中。日本のスター内野手もマイナー契約だし、安打製造機もレギュラーさえ覚束ない。

その中で、ダルビッシュだけは正真正銘の大物投手として、去就がMLBでも大きな話題となった。彼こそはNPBの優秀さを、かのヤンキー達に見せつけてくれるに違いない、そんな期待が異様な興奮となって、日本メディアをアメリカへと駆り立てているのだ(昨日のTEXの公式サイトでは、ダルビッシュが開幕戦に投げるべきだ、というコメンテーターがいた。やはりうれしい)。

今からちょうど40年前、アメリカ国籍の高見山大五郎が1972年7月場所で13勝2敗で優勝したときには、ニクソン大統領から祝電が届いた。アメリカはそれなりに盛り上がったようだが、彼らが大報道陣を組んで押し寄せたということはなかった。駐日メディアが報道しただけだ。

おらが国さの英雄の行動を報道するために、民族移動のような大報道陣(応援団)を組むのはアジア人の習性なのかもしれない。世間のモノ笑いの種になっているかもしれないし、選手に肩身の狭い思いをさせているかもしれないが、まあいいかとも思う。だって、日本人は、ダルビッシュの一挙手一投足を本当に知りたいのだから。





ただ、恥ずかしいのはにわか取材陣の中に、MLBや野球に関する知識が乏しい連中がいること。ロッカールームに入り込んで、ジョシュ・ハミルトンやイアン・キンズラー、マイケル・ヤングなどの錚々たる大スターに「ダルビッシュについてどう思うか」と不躾な質問をぶつけているようだ。ダルビッシュにとって一番迷惑なのはこういう輩だろう。

数年前、全盛期のタイガー・ウッズに記者会見で「石川遼をどう思うか」と聞いた馬鹿ものがいたが、同類だ。これは日本メディアだけの現象ではないか。

競技への敬意も、選手への気配りもない、こういう浅薄なマスコミが一番格好悪い。日本人全体が馬鹿だと思われるから、やめてもらえないか。

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