NPBの経営環境に関する話題を出すと、必ずいろいろな反論をいただく。中には「お前は讀賣が嫌いなんだろう」みたいなレベルの低い意見もある。
昔から読んでいただいている方には、聞き飽きた話かもしれないが、NPBはどうあるべきかについて、改めてきっちりと話をまとめておきたい。
1.リーグか?チームか?

アメリカでは野球は職域、地域のクラブチームから発展した。プロリーグは、こうしたクラブチームから生まれた。その時点で多くのノンプロ、セミプロチームがいた。

しかし日本では、野球伝来以来30数年がたち、学生野球が確固たる地位を築き、独自の価値観を有していた。
1920年に日本初のプロ球団である日本運動協会が発足した時点で、経営者が最も苦慮したのは「相手がいない」ということだった。学生野球はプロに走った選手を「破門」にするなど、プロとの交流を峻拒していた。
日本運動協会は、奇術師の松旭斎天勝がポケットマネーで作った「天勝球団」や、大阪毎日新聞社の大毎野球団などと試合興行を行ったが、経営は弱体で、関東大震災が起こると経営が破たん、その後、阪急が引き取って宝塚野球協会となったが、結局、消滅した。
相手がいないために、定期的なリーグ戦が組めず、安定した観客動員ができなかったのだ。

1934年、ベーブルースらの大リーグ選抜の来日を機に結成された職業野球リーグを運営するにあたって、正力松太郎らファウンダーが最も苦心したのは「しっかりしたリーグを構築する」ということだった。
日本運動協会の轍を踏まず、リーグ戦を組んで顧客を安定的に獲得するためにも、経営的にしっかりしたチームを複数創設することが必要だった。
警察官僚上がりの正力は政官財の人脈を動かして7球団を設立、リーグ戦がスタートしたのだ。

プロ野球の父、正力松太郎は讀賣新聞の中興の祖であり、巨人の創設者でもあるが、常にリーグの維持、発展を第一に考えた経営者だと言えよう。
正力は「相手がいなければプロ野球はできない」ことを痛感していたのだ。
南海ホークスの年史を見ていると、選手を強引に獲得しようとして「正力松太郎さんに叱られた」という記述が出てくる。少なくとも正力は、後年の巨人の経営者とは違う考えを持っていたのだろう。

戦後、セパ2リーグへの分立を企画したのも正力だった。正力はプロ野球発足以前から強豪チームを持っていた毎日新聞社に呼びかけて、讀賣、毎日の二大新聞社が核になって2つのリーグを運営しようとした。
このとき既存の球団からは「市場を奪われる」「既得権を損なう」と反対が出た。
正力のおひざ元である讀賣新聞社、巨人も強硬に反対した。
当時、正力は公職追放により讀賣の経営には直接タッチしていなかった。戦後起こった讀賣争議によって、正力に敵対する経営者が実権を握っていたのだ。正力の意図を理解しない経営者は2リーグ制導入に反対した。

パリーグに加入すると見られた阪神がセリーグに加入するなど多くの混乱を経て、結局、NPBは2リーグに分立した。そして大いに発展した。

正力松太郎は、清廉潔白な経営者ではない。権謀術数に長けていたし、日本の右傾化を推進したフィクサーでもあった。
しかしながら、正力は、自分の懐が潤うことだけを考えるようなスケールの小さい人物ではなかった。民放創設時には日本テレビだけでなく、他の民放の設立も後押ししたし、プロ野球でもリーグの拡張を推進したのだ。
彼にマーケティングの観点があったかどうかは知らないが、競合関係がある方が市場は活性化し成長すると言うことを知っていたのだろう。

しかし以後のNPBの経営者で「リーグ全体の繁栄」を考える人物は皆無だった。目先の権益の保護に固執し、自分たちのステイタスの保持に汲々とする、小さな経営者ばかりだった。



経済環境が冷え込む中、2004年には「球界再編」が起こる。西武の堤義明や讀賣の渡邊恒雄らは、経営不振のチームを合併し、1リーグ10球団への再編を画策した。
「リーグのことを考えず、自分のことだけ考える」暗愚な経営者が自分たちの無能を棚に上げて生き残りを画策したのだ。

このときは野球ファンが大反対をし、選手会もストライキを打つなど実力行使に出て「球界再編」は回避された。

もし、これが実現していれば、NPBはファン離れが加速し、縮小均衡のあげく負のスパイラルに落ち込んでいたことだろう。

NPBの改革を考える上での大前提は「リーグの発展なくしてチームの発展はありえない」という自明の理を理解することだ。

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