イチローと松井秀喜はどちらが上か、という議論は、当サイト以外で結構喧しく議論されているようだ。
当サイトにもそういう議論を持ち込んでいる人がいる。
イチローは成績でもWARでもイチローより上、殿堂入りは確実視されているが、松井秀喜はその可能性はない。
イチローは、松井より格上、そもそも比較することさえ間違っている。

他のサイトでは、
MLB評論家の中には、松井秀喜贔屓のあまりイチローを貶している人がいる、と決めつける人がいる。そういう評論家は知識もないのに専門家面をしてイチローを悪しざまに言っている、という非難も見かける。

最多安打記録や200安打以上のシーズン記録、最多安打王の回数など、イチローは「安打」に関する様々なMLB記録を打ち立ててきた。安打数も3000本に迫り、通算打率も.310を優に超えている。MVPも受賞した。オールスターには10回選出された。ゴールドグラブも10回受賞。
確かにこの輝かしい成績は、野球殿堂入りにふさわしい。
私たちは彼の成績を誇らしく思っている。

それに比べれば松井秀喜は、MLBではタイトルらしいタイトルを受賞したわけではない。オールスター出場は2回に過ぎない。

この点だけを比較すれば、松井はイチローの足元にも及ばないと言えるかもしれない。
MLBの歴史的な評価でいえば、イチローと松井には大きな差が開いているのは事実だ。

しかし、松井は最強チームニューヨーク・ヤンキースで4番を張った初めての日本人である。30本塁打を打った唯一の日本人打者でもある。100打点以上を4回も記録、OPSも8割を超え、出塁率も.360。

チームへの貢献度と言う点で見ても、イチローが松井よりも上と言い切ることができるだろうか。
ヤンキースは、強打者を補強する必要があるとき、全盛期の松井よりも全盛期のイチローを選ぶだろうか。

NPBの成績で見ても、イチローは史上初の200本安打を記録、7年連続首位打者など圧倒的な記録を保持している。
しかし松井秀喜も日本人打者として最後の50本塁打を記録している。90年代に入って球場のサイズが両翼100mにまで広がる中で、松井は日本にも本格的なスラッガーがいることを証明した。

NPBの歴史で考えるときに、イチローと同様松井秀喜も圧倒的な数字を残した打者といってよいだろう。

さらに言えば、ファンの記憶に残る選手の印象は実に様々なはずだ。

2009年のワールドシリーズを見た人は、松井秀喜の驚異的な勝負強さに驚嘆したはずだ。大投手ペドロ・マルチネスを粉砕した松井は、まさにそのシリーズの最強打者だった。

2007年のオールスターゲームを見た人は、イチローのランニングホームランに狂喜したはずだ。のちにチームメイトとなるケン・グリフィJr.があたふたとボールを追いかける中、イチローはあっという間にホームに帰ってきた。彼の異能ぶりはこのとき、全米の人が知るに至った。

MLBの歴史的評価で見ればイチローは松井より上だが、全盛期のチームへの貢献度では松井の方が上、そして自分自身が見たプレーのインパクトでは?

視点を変えれば、基準となる物差しを変えれば、選手の評価は変わる。
いつ、どこでその選手と出会ったか、どんな観点でその選手を見たか、によって選手の評価は全く違ったものになる。
その「変化の妙」こそ「野球の記録で話す」楽しさだといっても良い。
記録や歴史的な評価は一面的なものでしかない。

野球と言うのは複雑な競技である。多様な見方ができ、切り口次第では全く違った選手の魅力があぶりだされてくるものなのだ。

私の野球談議の仲間には、とんでもなく地味で成績も冴えない選手を「私のベスト二塁手」と言うような人がたくさんいる。そういう人は、記録への造詣も深いが、それ以上に野球の見方が深く知識も見識もある。何より野球が心底好きだ。

そういう人に比べ一面的な数字を振り回して大声で主張する人は「まだまだ」だと思う。

野球談議が楽しいのは、一人一人の「野球の価値観」があって、それがみんな違っているからなのだ。
野球で議論をするときに必要なのは、多様な「野球の見方」を尊重することだ。

「あの成績では殿堂入りは無理」とか、「あの投手よりこの投手の方が上」というのはその人の自由だが、他の見方を小馬鹿にしたり、格下とみなした選手を軽んじたりする言論は、自身のモノの見方の浅さ、人間としての未熟さを露呈していると心得るべきだ。

何と言ってもプロ野球選手は、我々がどんなに頑張っても到達できない高みで、命を張った勝負をしているのだ。彼らに対するリスペクトが前提にないのなら、こういう議論はやめておいた方が良いだろう。

バカな人がくだらないコメントをし始めたので、コメント閉鎖します。


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