0613

パ、勝ち越しまであと20勝。セ、引き離される。



イチローがいなければ、こんなサイトは作らなかったと思う。「イチローとともに生きている」と言う思いが、毎日記録について語る当サイトにつながった。
このシリーズでは、箇条書きで「好きなところ」を書いていく。
キャリアSTATS これ基本です。

iCHIRO-2014


①レーザービーム

野球の走攻守の中で、私が一番心ふるえるのは「守」だ。
特にイチローの肩は、何度見ても感動する。
飛球をグラブでキャッチするとその勢いのままに駆けながら、全体重を右肩に乗せるようにしてボールを「射出」する。
元気なころのイチローの送球は、山なりではなく直線。ノーバウンドで塁を守る野手に届く。
バックホームよりも距離が長い三塁送球の方が、鋭い送球が行く。およそ80mの距離を、棒のような太い軌道で145gの物体が高速で移動するのだ。
「レーザービーム」とは、この三塁送球に驚いたMLBのアナが名づけたものだ。
しかし、イチローの肩が一番すごかったのは、オリックス時代ではなかったか。
グリーンスタジアム神戸(今は「ほっともっとフィールド神戸」)で、右翼手イチローが三塁に投げたボールは、途中で一度ホップするように見えてダイレクトで馬場敏史のグラブに収まった。私は右翼席、イチローの後ろから見ていたが、その軌道が目に焼き付いた。
MLB中継でも同様の送球は何度も見たが、球の勢いはあの時が一番だったと思う。

②ウィザード

「ストライクゾーンに来た球を、水平に正しくミートして前に飛ばす」NHKの野球教室で故川上哲治さんは古武士のような表情で、打撃の基本を説いた。
しかしイチローは、どんな投球でも安打にした。すくい上げたり、叩きつけたり。
素早い反応で思いきり弾き返すかと思えば、人のいないところへ測ったようにボールを落とす。
イチローはバットで「自分に投じられたボールは、どんなコースのどんな球でも打ち返してよいのだ」と語っているかのようだった。
「ただし、ヒットに出来るのなら」。
MLBではそんなイチローの打撃を「ウィザード(魔法使い)」と言った。
2004年のイチローはまさに魔法使いのようだった。

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③しなやかさ

外野でも、打席でも、イチローは独特の動きをする。足から腰、背中までを弓なりにゆっくりと反らして、柔らかくねじる。常に体をゆっくりと動かしている。これが怪我をしない秘訣だと言う。
凄まじい打球も、スーパープレーも、みんなこのしなやかな体から生まれる。
打球を好捕したときも、安打を打って塁に達したときも、イチローは起き上がるなり、体をしなやかに動かす。「俺の体、固くなるな」と念じているようだ。

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④記録へのこだわり

イチロー自身は口にしないが、記録に対して凄まじいこだわりがあったのは間違いがない。
2004年「262安打」のときに見せた、終盤での異様なヒットストリーク、毎年の200安打への執念は、見ているものにひしひしと伝わった。
彼は、タイトルや表彰記録ではなく、自分で決めた「目標」に対して強くこだわっていたように思う。
「日米通算4000本安打」は、イチローの眼中になかった記録だろうが、珍しくそれを受け入れ、喜んだ。彼の「老い」を感じたものだ。

⑤含羞

マスコミが求めている「言葉」を易々と言わない、ファンが喜びそうな「パフォーマンス」をしない、これはMLBで成功した日本人選手に共通する部分だと思うが、イチローは特にその傾向が強い。
「俺は野球でみんなを楽しませている」という矜持がそうさせるのだろうが、同時に「受けようと思って何かをすることは、恥ずかしいことだ」というまともな神経がある。
恥を知り、はじらうことを知る人間なのだと思う。
そういうイチローが、時折見せるファンへの気遣いや、ちょっとした気配りがたまらなく格好いい。

⑥黄昏

2012年夏、イチローはヤンキースに移籍、シアトルのファンにユニフォームが変わった雄姿を見せた。笑顔はなく、悲痛な面持ちだった。
それはシアトルのファンに対する申し訳なさもあっただろうが、「こんなことになってしまった」という戸惑いが大きかったと思う。
オリックスでそうだったように、シアトルでもイチローは「もう何もやることがなくなった」という思いがあって、移籍したのだろう。その寂寥感が大きかったと思う。

今、レギュラーでなくなったイチローは、ベンチで時折寂しそうな表情を浮かべる。
「試合に出ること」が前提だった彼の野球人生で、初めて経験する辛さ、切なさだろう。
それは見るものに、もだしがたいものを感じさせるが、イチローはその境遇を黙って受け止めている。
走者がいる状況でイチローが右飛を取ると、アナウンサーは「レーザービームだ」と言うが、もはや彼の送球は山なりで、レーザービームではない。
側頭部の髪もずいぶん白くなり、体も心なしか少し小さくなったイチローは、今、精いっぱいプレーをしている。

イチローは老いも、衰えも、自らの弱い立場も、何も隠さずそのままさらけ出している。そして、懸命に生きることで、「滅びの美しさ」を体現している。

私はそんなイチローを最後まで凝視したいと思う。「イチロー・ロス」の大きさを予感しながら。


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