この投手がここまで活躍すると、だれが想像しただろうか。
キャリアSTATS

Koji UeharaCS


①冒険

上原浩治は松井秀喜と同じ188cm、日本人としては見上げるような大男だが、MLBのマウンドに上がると大きくは感じない。

大男らしいゆったりとしたフォームではなく、相手に隙を見せまいとする敏捷なマウンドさばきだからだ。
そして、日本人とは比較にならない巨大なパワーを相手に、必死で立ち向かっている。そのひたむきさが、彼をむしろ小柄な選手のように見せているのだろう。
彼は39歳になるが、中年の黄昏感は全くない。
必死さ、ひたむきさが、彼を引き締まった若々しい投手に見せているのだろう。

上原のマウンド姿を見ていると「冒険」という言葉が浮かんでくる。
アメリカにわたり、徒手空拳で逆境を跳ね返し、一歩一歩地歩を固めていく。
日本人らしさを失わず、逃げず、媚びず。
日本製のサクセスストーリーを見る思いがする。応援せずにはおられない。

②記録

驚異の記録の持ち主である。
NPBでは与四球206、奪三振1376。SO/BBはNPB史上で最高の6.68。
BB9も最低の1.20。
上原は80年になろうとするNPBで最も制球力が良い投手なのだ。ごく普通に投げているように思っていたが、歴史的な投手なのだ。

1999年、巨人デビューの年は24与四球で179奪三振、SO/BBは7.46。無四球試合が4つ。松坂大輔がクローズアップされた年だが、20勝もあげ、恐るべき新人だった。

驚くべきは、その図抜けた制球力が、ボールが変わり、打者がパワーアップし、選球眼でもNPBより優れているMLBでも通用したことだ。

投球回数が少ないとはいえ、上原は2年目以降一桁の四球しか出していない。しかも敬遠が4つも含まれる。
よほどのことがないと、上原は打者を歩かせることがない。
だから打者は追い込まれないうちに打ちに行こうと思う。それが、球数を抑え、上原を効率的な投手にしている。

熱血タイプのマウンドでのパフォーマンスと、怜悧そのものの数字。このギャップも上原の魅力だ。

③「雑草魂」

上原浩治は事に当たって自分の見識で判断する、真っ当な感覚を有している。
先輩後輩関係や人脈などに左右されず、自分で正しいと思ったことを行っている。
被エリートならではのたくましさである。

そういう選手が巨人に入ったのは良かったか、悪かったか、判断が分かれるところだが、上原の「長いものには巻かれない」が、のちに巨人首脳陣との摩擦につながった。

1999年10月5日、神宮球場でのヤクルト戦、7回裏一死無走者でロベルト。ペタジーニと対戦した上原は、ベンチの指示で敬遠四球を与えた。チームメイトの松井秀喜がペタジーニと本塁打争いをしていたからだ、
しかし上原はペタジーニに絶対の自信を持っていた。それまで14打数無安打。上原はマウンドを蹴り上げ、涙を流す。アンダーシャツで何度も涙をぬぐったが、後から後から涙が零れ落ちた。
新人ではあったが、上原は勝負師の魂を持っていたのだ。
このエピソードは宇佐美徹也さんの最後の著書のタイトルになった(「上原の悔し涙に何を見た」)。

こうした反骨ぶりは、上原がエースの働きをしていたときはあまり表面化しなかったが、成績が下落するとともにチームとの軋轢となった。

アマチュア時代からMLB志向が強かった上原は、2004年にポスティングでの移籍を球団に訴えたこともある。
「お家大事」「チーム優先、選手劣後」の巨人の体質に嫌気がさした上原はMLBに移籍した。
2007年、クローザーへの突如の配置転換も、MLBへの挑戦の意志をさらに強固なものにしたことだろう。
巨人サイドは一応遺留はしたが、扱いにくい選手であり、成績も下降気味と思われたので、移籍を許した。
「どうせ落ち目だし、大したことはできないだろう」

MLBでの道は順風満帆からは程遠かった。
先発失格の烙印を押され、故障も経験。35歳で救援投手に再びチャレンジ、しかしここから不屈の闘志で這い上がり、MLB屈指のクローザーの称号を得るに至ったのだ。

おとなしく人脈の中で生きていれば、エリート野球人としてぬくぬくとした後半生が送れたはずだが、上原はその好待遇を蹴って、自ら好きな道を選んだ。
その選手生活はまさに「雑草魂」。

もちろん、巨人時代にクローザーを経験したことは役だっただろうが、押し付けられてポジションを変えたことと、生き抜くために自らを変革したことは大いに意味が違ったはずだ。

上原はMLBで生まれ変わった。そして大きなステージで39歳になった今も活躍している。
これを壮挙と言わずして、何と言おうか。


Koryu0618


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