田中将大より先にMLBに渡ったが、NPBが送り出す「最終兵器」という感がある。
① 河内の子
ダルビッシュは日本で見ているときはエキゾチックな風貌だと思えたが、アメリカで見ると「日本人」だと感じる。
マウンドで何を考えているかが読めるのだ。
ダルの母は日本人、父はイラン人だが、育ちは大阪の河内である。
河内は河内源氏の発祥の地であり、荒ぶるもののふの地、気性が荒く直截的な行動をする男が多い。
「若気の至り」。
この地に生まれた男の子は若いころから喧嘩に明け暮れる。そして若くして父親になり、早々に離婚をし二十代にして子持ちの独身男になるのがコースだと言われた(あくまで噂レベルとして)。
驚くべきことに、ダルビッシュもまさにこの道をトレースしている。野球さえしなければ、河内のヤンキーから河内のおっさんへとまっしぐらの人生を歩んだかもしれない。
そのずば抜けた体躯と風貌にもかかわらず、ダルビッシュはそういう関西人にはわかりやすいメンタリティの持ち主である。
そのことがまず、私には懐かしく、面白い。
② 進化
日本ハムに入団した当初、ダルビッシュはつまらない事件を起こした。まだ才能だけで野球をしている感があり、社会人としての基本から学ばなければならないように思えた。
しかし、それから数年で、ダルビッシュはNPBの選手のレベルをはるかに超える高い技術、見識を持つにいたる。
どんな出会いがあったのかわからないが、二十代前半のダルビッシュは、学びと気づきと、発見と飛躍の歳月を過ごしたのだろう。
投手としてのフィジカルなトレーニングから、メンタル面での練磨、さらには球種の磨きこみ、打者との駆け引き。
いつの間にか、ダルビッシュはNPBでは好敵手のいない図抜けた存在になっていた。
NPBでは、試合前に相手打者が「お手柔らかに」みたいな挨拶をよこしてくるようになった。
真っ向勝負を仕掛けてくる打者は皆無になった。
「こんな境遇で野球をやっても仕方がない」
もともとダルビッシュは「MLBには興味がない、NPB、北海道で選手生活を終える」と言っていた。
しかし彼のポテンシャル、急激な成長曲線が、心ならずも日本という枠を突き破らせたのだ。
MLBに渡って、1年目はマウンドやボールに対する戸惑いも見せ、意のままにならない登板にいらだちも見せた。
しかしダルは、新鮮な「やりがい」も感じたはずである。
ダルビッシュはNPBよりもはるかにしたたかで手ごわい打者を相手にして、震えるような喜びを感じたのではないか。
ミゲル・カブレラに対する尊敬と、感嘆と、憧憬の入り混じったコメントを聞いていると、ダルビッシュはMLBに行って本当に良かったなと思う。
NPBではいなくなった好敵手と巡り合ったのだ。
③ 再進化
ダルビッシュは2年目、3年目と変化し、進化を続けている。
2年目には制球力を取り戻し、攻撃的なマウンドも見せるようになった。
ダルビッシュは7種類ものボールを操る。4シーム、2シーム、カッター、スプリッター、スライダー、カーブ、チェンジアップ。
どのボールでも三振、空振りが奪える。すべてが一級品。
こんな投手は、MLBでも稀有である(田中将大が2人目になっているが)。
そしてダルビッシュは三振王のタイトルを獲得し、サイ・ヤング賞投票でも2位になった。
今年、ダルビッシュは「効率的な投球」をテーマに掲げ、試合前半は速球主体で攻めている。
打ちこまれることもあるが、自分のスタイルを変えていない。
今、ダルビッシュは、「打ち取ることではなく、どう打ち取るかにこだわる」と言われている。
すでに「通用する」レベルを乗り越えて「凌駕する」ステップに入ったようだ。
オークランド・アスレチックスという重苦しい仇敵が現れたが、ダルビッシュは心の底ではこれを喜んでいるのではないかと思える。
難敵が現れれば、ダルビッシュはそれを超克するために進化を開始する。高い壁があればあるほど伸びていくことができる。
ダルビッシュにとって「敵」とは「成長の糧」に他ならないのだ。
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そんな私生活はさておき、見てて飽きない投手だなと思います。150キロ超の厳しいアウトローを投げたと思えば、打者をおちょくるような内角いっぱいの100キロ未満のスローカーブ。さらに投げ始めはど真ん中に見える球が、キャッチャーミットに到着するころには右打者のアウトコースに外れるスライダー。調子の良いときのダルほど見てて面白い投手はなかなかいないように思います。今後も応援し続けます。