侍ジャパンにとって、当面、最大のイベントはWBCということになろう。WBCをめぐってもっとも不可解な行動をしているがプロ野球選手会だ。
ちょうど10年前、「球界再編」という激震がNPBを見舞ったが、プロ野球選手会はこの時に救世主的な役割を果たした。
1リーグ10球団を主唱するNPB経営者たちに対して、古田敦也選手会長を筆頭とする労働組合プロ野球選手会は、ストライキを行い、徹底抗戦した。
恐らくは渡邊恒雄氏の「たかが選手が」という一言が世間の猛反発を買ったのだろうが、世論も選手会に味方した。
ストを打つにあたって古田会長は断腸の思いを記者団に吐露し、涙を見せた。それも「判官贔屓」の日本人の琴線に触れた。

その後も選手会は積極的に発言している。選手の待遇改善、セカンドキャリア、野球の普及、被災地支援など、本来NPBが考えるべきことも含めて、選手会は建設的な提言を行い、言うだけでなく行動もしてきた。
保守的、お役所的で、事が起こらなければ何も変える気がないNPBに対して、野球と選手の未来を考える選手会は、清新なイメージで受け入れられてきたと思う。

しかしながら2006年から始まったWBCにおいては、選手会は終始「抵抗勢力」になっている。
2006年の第1回大会の際は、当初NPBもMLBの一方的なやり方、利益配分に反発して反対に意向を示したが、選手会はさらに強硬で、前年の選手総会で不参加を決議した。これに対しMLBは、「孤立するぞ」と半ば脅迫めいた言辞で翻意を迫り、9月には決議を撤回し、傘下の意向を示すに至った。

2009年の第2回大会の際も、選手会は当初、難色を示したが、最終的には折れた。

記憶に新しいのは2013年の第3回大会だ。選手会は2011年7月には不参加を表明。選手会の姿勢は強硬だったが、2012年9月、予選が始まる直前になって代表チームの常設化、事業化を条件に参加の意向を示した。

選手会のこの動きは、興行サイドに大打撃をもたらした。
3大会とも電通=讀賣新聞社が取り仕切っていたが、日本の参加がなかなか決まらなかったために、スポンサードや放映権の交渉、事前PRなどが非常に難しくなったのだ。



選手会はWBCの何を問題視していたのか、公式サイトにはこう書かれている。

WBCでは、出場する参加国に当然に認められている、代表チームのスポンサー権、代表グッズのライセンシング権(商品化権)が認められていない。本来、日本に帰属すべき代表チームのスポンサー権、代表グッズのライセンシング権(商品化権)が、アメリカに帰属してしまう。
MLBは大会の収支リスクをなくすために日本マネーを先に確保した。

しかもWBCにはアメリカは必ずしも多くのトッププロが参加しない。
また、WBCは日本の大きな企業がスポンサーになり大会を支えているが、アメリカは大会のスポンサーは多くは獲得していない。

にもかかわらず、大会利益の分配は、アメリカのMLBとMLB選手会が大会収益の66%を独占する形となっている。

本気で参加して価値を提供している日本代表の価値を本気で参加していないMLBに利益として差し出している大会とみることすらできる。


この話は一見妥当性があるように思える。
しかしながら、根本的なところで大きな問題がある。
プロ野球選手会は、WBCの当事者ではないのだ。当事者はMLB、NPBなど各国のリーグ統括組織と、日本の場合、イベントの興行権を持つ電通、讀賣新聞社である。
選手会は、加盟する選手を送り出す立場にはあるが、選手の帰属権もNPBの各球団にある。

こうした不合理を談判するのであれば、まずNPBと交渉するのが筋であるはずだ。
しかるに、選手会は、あたかもNPBの頭越しにMLB、WBC主催者と交渉している様な印象を世間に与えた。
最初から、この話は決着するはずがないのに、選手会はいつまでもこの話を引きずり、興行的な損失を与えたのである。

この話についてはMLBにも言い分がある。WBCはこれまで行われなかったプロ選手レベルのトップ大会であり、始めた当初は成功するかどうか不明だった。
そこでMLB側は、大会に関するすべての経費を持ち、各国代表を招待した。
興行的に失敗して赤字が出た場合は、MLB側がすべて被ることとした。

いわばWBCはMLBの「単独興行」であり、他の国は「客演」に過ぎないのである。
もちろん、ビジネス感覚に長けたMLBがそんな失敗をするとは思えないが、MLB側の理屈も筋が通っているのだ。

選手会が本当に権利を主張し、興行的なリターンを要求するのであれば、NPBと交渉して、WBCをMLB+NPBの共同開催にさせるとともに、選手会側もこれに参画すべきである。そうでなければ、選手会は「嫌がらせ」をしているようにしか見えない。

さらに言えば、選手会はWBCなどレギュラーシーズン外の試合に対して常に「怪我、故障」のリスクへの懸念を表明する。オールスター戦も短縮するように要求している。
それも真っ当なもののように思えるが、NPBの経済基盤は、そうしたレギュラーシーズン外の試合で成り立っているのだ。その基盤が脆弱だったためにプロ野球選手の年金は破たんしたのだ。
選手会が、NPBの基盤の強化に非協力的なのは、エゴイズムとしか思えない。
一方でMLB選手並みの待遇を要求しながら、他方でMLBよりも18試合も少ないゆったりしたスケジュールで野球をし、なおかつ「スケジュール、試合数の緩和」を求めるのは虫が良すぎるのではないかと思う。

各選手はレギュラーシーズン144試合に加え、最大18試合までは求められれば出場しなければならない、という規約を労使間で結ぶべきではないだろうか。

選手会にとって「侍ジャパン」は、新たなスキーム構築へ向けた重要な事業である。「希望」だと言っても良い。
足を引っ張ったり、牽制するのではなく、積極的に参画してほしいと思う。

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