統一球の導入で、NPBの本塁打はほぼ半減した。各打者のパワー不足が露呈した形だが、ひとり西武の中村剛也だけが、本塁打を量産している。
中村は怖くない、という投稿をシーズン半ばに書いたが、ここまで突出しているとその見解は撤回せざるを得ない。何しろ、リーグの一割以上の本塁打を一人で打っている。今年の本塁打王は、例年とは違う価値があると思う。





なぜ、中村だけが本塁打を打ちまくっているのか。人並み以上のパワーがあるからだ、と説明する人が多いだろう。しかし中村は肥満体ではあるが(102kg)、身長は175cmしかない。NPBの基準ではむしろ小柄の部類に入る。しかし彼は飛ばないと言われる統一球を今年に入って、40回以上もスタンドに放り込んでいるのだ。

なぜそれが可能なのか?端的にいえば、彼は本塁打を打とうと思って打席に立っているのだ。より高く、より遠くへ飛ばすために、テークバックを十分に取り、踏み込んで、思い切りバットを振っている。当然、三振は多くなるが、それは本塁打に付き物の副産物だ。

今年激減した本塁打は、よく言われる言葉を使えば「ヒットの延長線上の本塁打」ではないかと思う。球の反発係数が小さくなった統一球は、カチンと合わせるだけでは遠くには飛んでいかない。球に逆らわずコンパクトに振るだけでは、最後はお辞儀をしてしまう。統一球で本塁打を打つためには、フルスイングしなければならないのだ。MLBでは荒っぽい打者だったウラジミール・バレンティンだがNPBではそれが功を奏してセリーグの本塁打王になりそうである。

NPBで活躍しているエリート選手たちは、ほぼ例外なくリトルリーグ、ボーイズリーグなどで、野球プロパーの指導を受けてきた。日本の指導者たちは、もう何十年も、打席に立ったら大振りをせず、きれいにミートすることが最上であると教えてきた。まれに長打を打つ天分に恵まれた子供もいるが、そんな子でもジャストミートすることが大切と教わってきたはずだ。しっかり脇をしめて、正しいフォームで打てば、きれいなヒットが打てる。ヒットの延長線上に本塁打も出るのだ、と。ぶりぶり振りまわす打者は、つなぐ野球の和を乱すし、三振も多くなるから、正しくない、と。

そういう指導が染みついているために、NPBの各打者は本塁打を狙うことに、軽い罪悪感を抱いているのではないかと思う。自分で返すのではなく、チームでつないで勝つ。その戦法に本塁打という言葉は含まれていないのだ。

ON時代に比べて球場は遥かに大きくなった(大阪球場の左翼などある時期まで80mなかったのだ)。その分選手の体格は飛躍的に大きくなったが、それでもNPBの打者で本塁打を狙い打つ選手は稀だった。そこへ統一球が導入されて、本塁打数は激減したのだ。

MLBでは反対に、小兵打者の本塁打が激増している。ボストン・レッドソックス=BOSのジャコビー・エルズベリー(185cm84kg)、ダスティン・ペドロイア(176cm82kg)、ニューヨーク・ヤンキースのカーティス・グランダーソン(185cm84kg)。彼らは、190cm100kgクラスが並ぶMLB選手の中では小兵の部類だが、累上に走者がいないのに当てていくような打撃はしない。思い切りバットを振っている。走者がいても、状況によってはつなぐ野球ではなく、自分で返そうとフェンス越えを狙っていく。もちろん小技を使うこともあるが、チャンスがあれば本塁打を狙っている。

こうした背景には、近年、MLBの打者の評価が変化し、OPS、RCなど、長距離打者に有利な指標が多く使われ出したことがあると思う。選手のレイティングでも、長距離打者が上位に並ぶ。小兵選手がこれまで通り、安打をコツコツ打ってつなぐ野球に徹しているだけでは、評価では長距離打者に絶対的に負けてしまう。イチローが良い例である。小さな選手も長打を狙うことで、自らの評価をあげようとし始めたのだと思う。もちろん、筋トレなどで肉体改造もしているだろうが、それ以上に「俺たちも大きいのを打つ」という意識の変化が数字に表れたと思われる。

今季の西岡剛のみじめな成績を見ていると、小さなころから教わってきた日本の打撃の考え方が、MLBでは全く通用しないことを、痛感させられる。恐らく、川崎宗則や中島裕之がMLBに挑戦しても、このままでは似たような数字に終わるのではないか。

少年野球のレベルから「本塁打を打つ」ことを意識して指導しない限り、日米のギャップは埋まらない。端的にいえば、日本の野手がMLBで通用するためには、「本塁打を打つ意志と技術」が必要なのだと思う。
MLBで通用する人材を育てるためには、パラダイムシフトが必要なのだ。


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