「大松嶋」こと歌舞伎俳優先代片岡仁左衛門は、70歳を超えてから名優の評価が高まったが、晩年は全盲となった。しかし舞台には出続けて、菅丞相などを演じた。手取り足取り、まるで操り人形のように動かされる90歳の老人に、「名人!」などと声をかけていた。いい気なものだった。

昨日のティム・ウェークフィールドの登板も、大松嶋に似ていなくもない。もはやよれよれのナックルボール投手になんとか200勝を取らせるために、周囲が手取り足取り盛りたてたのだ。

シーズン当初からウェークフィールドは、今季限りの引退を表明し、あと7勝に迫った200勝を区切りにしたいと表明していた。7月24日に6勝を挙げてもう秒読みと思われたのだが、ここから8回先発をして勝ち星なし(3敗)。ボストン・レッドソックス=BOSはひと月ほど前までニューヨーク・ヤンキース=NYYと首位争いをしていたが、3位以下とは大きくゲーム差があいていて、ポストシーズン進出は確実と思われた。しかし、この一か月間13勝15敗と負け越して、大股で追いかけてきたタンパベイ・レイズ=TBと4ゲーム差になっていた。ウェークフィールドの花道作りに協力できるゆとりはほとんどなくなっていたのだ。






この日のウェークフィールドがさして調子が良かったわけではない。相変わらず中学生が投げるようなスピードのボールがお手玉のようにミットに収まっていく。

もともと体力がいらない投法とされているが、全盛期に比べればコントロールが悪くなった。また、ボールがあまり動かなくなった。

5点を失ったが、これもふつうの数字。昨日は見方が18点を取ったので、6回96球を投げて悠々と引っ込んだ。ウェークフィールドのライフタイムSTATS。




88年のドラフトは隻腕の名投手ジム・アボット、ロビン・ベンチュラやルイス・ゴンザレスと同期。一塁手として入団し、マイナーで投手に転向。以後、90%以上ナックルを投げ続けてここまで至った。45歳。捕手がファーストミットのような特製ミットを使って、横向きでボールをつかむこと、肩に負担がかからないために先発と中継ぎをこなせることなど様々な話題を振りまきながら、19年間投げてきた。

200勝はMLBで109人目に過ぎない。殿堂入りはまず難しいが、スピードとパワーで勝負するMLBにあって、飄々と生きてきた姿が貴重だ。

MLBにはニューヨーク・メッツのR.A.ディッキーやチャーリー・ヘイガーなどがいる。しかし、ここまでの成績を上げるナックルボーラーはしばらくでないだろう。昨日はNYYのリベラが600セーブをあげているが、あえてウェークフィールドの偉業を先に讃えたい。


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