江尻良文『はたしてイチローは本当に「一流」なのか』


タイトルに惹かれて読んだ。安打数にこだわるイチローは、アメリカでも評価が分かれる選手であり、出塁率、守備や走塁など総合的に見て、どんな評価がされているのか、客観的なデータでもあればいいな、と思ったのだが。

そういう話は一切出て来なかった。筆者はスポーツ新聞、夕刊紙で野球を追いかけて40年というベテラン記者だ。しかし、この人は、グランド内での選手のパフォーマンスよりは、グランド外での選手のふるまい。たとえば、報道陣への対応だとか、先輩への心配りとか、そういうことを追いかけていた記者のようだ。

この本は、先輩後輩の関係や報道陣の応対を大切にする松井秀喜と、そうではないイチローを対比させている。イチローは松井秀喜を常にライバル視して、松井から主導権を奪おうとしていたのだという。2006年のWBCに松井が出なかったのは、イチローの陰謀なのだそうだ。最近、イチローは、ビジネス上の必要性もあって、巨人主脳やONなどにも接近して人間関係を持とうとしているらしい。イチローは「ジジ殺し」だという。斎藤佑樹を自分の所属事務所に入れたのも、イチローグループを強化するためだという。

この本を書いた理由は、イチローに対して持っていた違和感を明らかにしたかったからだという。「イチローはなぜもっと素直にファンと接触できないのか」などとも書いている。

大きなお世話である。どんなにファンサービスが良くとも、指紋が擦り切れるほどマスコミにもみ手をしようとも、数字が悪ければ、パフォーマンスが良くなければ、ファンは見向きもしないのだ。イチローは、記者にとって愉快な取材対象ではないかもしれないが、それは知ったことではない。我々が知っているのは、すごい反射神経でボールを弾き返すイチローであり、レーザービームで走者を刺すイチローだ。イチローのプライベートなど知りたくもない。彼はグランドで動いている時だけ、存在しているのだ。

この本には、日米通算記録に関することも書かれているが、ピート・ローズやアメリカの人々が「日米通算」を認めないことさえ、イチローの対応が悪いからだ、と言わんばかりの書き方である。

スポーツ新聞があれだけエネルギーをかけて、つまらない記事しか書けないのは、こういう人が幹部にいるからだと思った。イチローをはじめとする有名選手の周りには、この手の鬱陶しい「取材陣」がびっしりと取り巻いているのだ、そう思うと気の毒になった。

この本の腰巻には「ヒットさえ打てればそれでいいのか?」と書いてあった。

それでいいのだ!


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