11月11日の初戦以来10日間も帯同していれば、呉越同舟のMLBオールスターズも人間関係がこなれてくる。日米野球の最終戦は、面白い試合だった。そしてTBSの中継が良かったのだ。
沖縄セルラースタジアム那覇は、空港と那覇中心部をつなぐモノレールからも見えている。川沿いの美しいスタジアムだ。

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今日の日米野球最終戦はなぜか公式戦ではなく親善試合だったが、両軍の投打ともによく機能し、士気も高かった。

しかし、それ以上にTBSのテレビ中継が素晴らしかったのだ。
このシリーズは、知り合いの野球データアナリスト金澤慧さんがデータ分析をしているので、それを見ている。しかし今日だけはTBSの中継に聞き入った。
掛布雅之の解説が素晴らしかったのだ。

もともと、掛布の打撃論には定評がある。

「(長嶋)一茂君は肩や腰がステップの段階で開いてしまうんですね。
本当はスクエアじゃないといけないんですが。これでは重心の移動は無理ですね。だったら最初から開いて、ゆったり構えた方がいいと思います。どうせインパクトの時は左側に壁を作らないと打てるはずないんだから。バッティングっていうのは、投手に向かった側に壁をいかにつくるかなんですよ」


引退直後の三十代前半からマイクの前に座り、すでに30年弱、我々は掛布独特の打撃論や用兵論を聞いてきた。
掛布の話は具体的な上に、ほとんどがオリジナル。受け売りの解説は殆どなかった。こんな解説者はほとんどいない。

ただ若い頃の掛布は、理論が先走って、聞く者を置いてけぼりにすることがあった。視聴者がよく咀嚼できないうちに、次の話題に移ることが多かった。ついていけなかったのだ。

話術の世界では、こういうことはよくあることだ。独自の「見つけ」を話しに取り入れるなど研究熱心で、口跡も悪くない噺家が全然受けないことがある。余裕が無くて、聴衆が受けるまでの「ため」を作ることができないのだ。
そういう噺家が年を経るうちに、高座での余裕ができ、同じ噺をしているのに笑いを取るようになることがある。「円熟」である。

昨夜の掛布もまさにそんな感じだった。

「僕らの頃と一番の違いは球場の大きさですね。両翼が10mも広くなりました。だから今は、MLBのパワーは違うとは言わなくなりましたね。それに球場が大きくなったことで、日本人選手の外野守備がうまくなりました」

掛布が引退後に起こった大きな変化を、ひとことで見事に言い表している。
松田の初安打で

「逆方向に踏み込んで打ちましたね。体をねじらせて。これができないと打率は上がらない。阿部君(ゲスト解説の阿部慎之助)もこういう打ち方、うまいじゃないですか」

アルチューベが打席に立つと

「日本の選手も小柄だからと言って、いつまでもバットを短く持って、反対方向に打つだけじゃだめですね。小さくてもこの選手のようにバットを長く持って、振っていかないと」

小柄なスラッガーだった自身に重ねての言葉だろう。
相変わらずの愛想の悪さだったが、阿部慎之助も面白かった。
よく知られているように掛布と阿部慎之助の父は、習志野高校のチームメイト。そのこともあってか、阿部の口も軽かった。
阿部は今年、捕手から一塁に転向したインディアンスのカルロス・サンタナにファーストミットをもらったそうである。そして

「彼に、僕のことを覚えておいてくれよ、と言われました」

日本を代表するスター選手と、MLBとはいえ地味な選手の位置関係が窺えて興味深い。

掛布はサービス精神も見せてくれた。
中堅のデクスター・ファウラーが野手のいない一塁へ送球する失策を犯し、点が入ったときには

「日曜日にまた、張本勲さんが“喝”というんじゃないですか」

初田啓介アナが「掛布さんはどうですか」と聞くと

「僕も“喝”ですね」

変則投球のランディ・チョートが登板すると

「この投手は気持ちよくは打てない、いかに窮屈に打つかですね」

こういう興味深い言葉が続々飛び出した。実況アナは初田啓介、あくのないノーマルなしゃべり。先輩の林正浩アナは侍ジャパンのレポーターだった。林アナがしゃべっていたら、掛布がここまで良い話をしたかどうか。

そして締めの言葉が素晴らしかったのだ。

「同じボールで、同じマウンドで、同じフィールドで、メジャーに勝ち越したことに大きな意義があります。我々の時代は、MLBのボールが使えなかった。そのことを考えても意味のある試合ということができますね」

申し訳ないが、ダブル解説の槙原寛己が何を言っていたのか、ほとんど覚えていない。それほど掛布は素晴らしかった。

掛布は「阪神タイガースのCD」というモノか人かわからないような役職に就いている。不遇だと思うが、これからも注目していきたい。

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