司馬遼太郎さんによると、紀州(和歌山県)は、日本で唯一、敬語のない地方なのだという。これは、上下の身分関係が緩やかで、互いの距離が近しいということだ。親戚に和歌山の人がいるが、確かに親切で、親切が過ぎてややおせっかいである。






あるとき、和歌山駅で弁当を買ったが、店のおばさんは「ほな、この弁当にしとこか、お茶はこれでええやろ」と勝手に決めて袋に入れてしまい、唖然としたことがある。

良い意味での紀州人の親切さを発揮して、投手を伸ばしている指導者がいる。日本ハムファイターズの吉井理人コーチだ。このずんぐりした大柄な元投手は、日米で「超」の字はつかないが、一流の成績を残している。

巨体から繰り出す重い球を持っていた。また、コントロールが抜群だった。しかし決め球に欠き、被安打が多かった。近鉄時代はエースというより使い減りのしない便利屋的な投手。ロングリリーフのできる救援だったが、ヤクルトでは野村克也によって先発に固定され、盟友ともいうべき野茂英雄からフォークボールを伝授されて成績が伸びた。

野茂の後を追ってアメリカに渡り、先発投手として5年間投げた。さらにNPBに復帰して、先発にこだわって5年。力が落ちていく中で、辛い目を何度も経験しながら日米通算23年の現役生活を全うした。苦労人なのだ。吉井理人は、野茂英雄という抜群の力量を持つ投手を常に身近に見ながら生きてきた。その最大の理解者であるとともに、自分の肉体、投球と引き比べて野茂のすごさを実感してきた。吉井理人は、野茂英雄のファンだったのではないかと思う。

自ら一流の投手でありながら、他の投手のファンになれる性格、資質が、コーチになったときに生きた。ダルビッシュ有が、自由奔放に自らの投球を変化させ、ついには肉体改造までした背景には、「ええで、ええで」とダルを応援した吉井の姿があったのではないかと思う。先日、ダルビッシュがワインドアップで投げた時には「わしの夢がかなった、めっちゃかっこええ」と絶賛した。もちろん、その背景で吉井はしっかりとバックアップしているのだと思うが。



また、鳴り物入りで斎藤佑樹が入ってきたときは、「速球で勝負したい」と意気込む斎藤に、「それはもっと速い球を投げることとちゃうで」とアドバイスしている。醒めた目で投手の資質を見抜くことができるのだ。先日の登板の前に「変化球は低めに、速球は思い切って」と短くツボをついたアドバイスをしたのも見事だと思う。

吉井は、自らの考えをブログで公開している。そこには、ダル、斎藤だけでなく各投手の持ち味をいかに引き出すかに腐心する姿が見える。いわば吉井は日本ハムの投手全員のファンとなって、一番良い投球、一番「かっこええ姿」をわしに見せてくれ、とはっぱをかけているのだ。おせっかいのようで、温かく、実に親切だ。

ブログの最後は「ほな、また」と和歌山弁で締めている。このほのぼのとした雰囲気が、日本ハム投手陣全体を包んでいるのだと思う。

日本ハムは梨田体制を今季までとするとのこと。中日落合長期政権の轍を踏むことを恐れたのかもしれない。またダルが離脱することを見越して、新庄など人気者を監督に迎えて人気をあおろうとするのかもしれない。

しかし、吉井理人には、もう少し日本ハムの投手陣を見てほしいと思う。吉井コーチにおだてられて、力を伸ばす投手がこれからも出てくると思うからだ。


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