金子千尋を巡る話は、かつてない展開になる可能性が出てきた。
一つは、ポスティングを巡る話。
金子は事実上、今年、ポスティングでMLBに移籍する道が閉ざされた。オリックスの宮内オーナーが難色を示したからだといわれている。
昨日もふれたとおり、金子の選択肢は、

① 来季も球団に残留してポスティングでの海外移籍を目指す 
② 国内の他球団にFA移籍をして4年後の海外移籍を目指す(あるいはMLB挑戦を断念する)
③ 他球団に1年契約で翌年のポスティングを承認することを前提で移籍する、

の3つ。しかしながら③の選択肢は、ポスティングの主旨、そして球団の補強の前提からしてかなり疑問があると思われる。

ポスティング・システムは、9年相当の日数一軍に在籍していることで生まれる海外FA権の取得以前にMLBへの挑戦を熱望する選手のために設けられた。
このシステムがないころは、野茂英雄のようにNPBから事実上「破門」されてアメリカに渡ることとなった。
失敗してもNPBへの帰参が難しいし、選手は大きなリスクを背負うことになる。
チームにしても選手をむざむざ失うことになり、メリットがなかった。

そこで、MLBとの協議のうえで、ポスティング・システムが導入されたのだ。
ポスティング・システムができたことで、選手は「喧嘩別れ」でなくMLBに移籍することができる。
球団側はその補償として多額の入札金を得ることができる。かつては青天井だったが、今は2000万ドルと言う上限が設けられた。
MLB側は、ポスティングによる移籍にかかった費用はぜいたく税の対象にならない。またFA権の譲渡のようにドラフト指名権を譲る必要もない。

3者ともにそれなりの納得性のある決着となっている。

ポスティング・システムが適用される選手の多くは、キャリア8年未満だがチームで抜群の成績を残している選手だ。
例外的にそれ以外の選手がポスティングで移籍することもあるが、それはある意味の「金銭トレード」のようなものだ。

短いながらも多大な貢献をした選手に対し、球団は特段の理解を示す。その見返りとして巨額の費用も得る。
松坂大輔、ダルビッシュ有、田中将大などNPBのエースクラスはこのシステムで移籍した。
彼らは好成績を上げ続け、NPBでは「もうやることがない」状態になっていた。
球団側も財政的に「彼らを抱えることが難しい」状況になっていた。
ポスティングによる移籍は、ある意味で必然性があったのだ。

しかし金子の③の話は、少し様相が違う。
海外移籍を要望する選手と「翌年にはポスティング・システムで移籍する」前提で、1年だけ契約を結ぶというのだ。
移籍先の球団にとってのメリットは

① 実力のある選手を他球団に取られなくて済む
② 1年だけだが、チームの戦力となる
③ 最高で2000万ドルの入札金が入ってくる

の3つだが、実質的には③だろう。金子に1年でどれだけ年俸を払うかはわからないが、5億円だとしても15億円の「利益」がある。これは多くの球団の年俸総額の40%前後になる。
「美味しい商売」だといえよう。

しかし、このビジネスには「ファン」というステークホルダーのことが全く考慮されていない。
来シーズン、新しいエースがやってくる。しかし彼は1年限定。翌年にはいなくなることが決まっている。そんな投手がローテーションに割り込んでくる。
ファンは他の投手と同様、声援を送ることができるだろうか。

ポスティング・システムはこういう適用を想定していなかったと思われる。
あくまで若くて実績のある選手のスムーズな移籍を促進し、球団側にも大きな損失がないように配慮されている。
ポスティング・フィーは選手の年俸や育成にかかわる諸々のコストに対する見返りと見ることもできよう。
しかし、今回のケースではポスティング・フィーは球団の「販売益」になってしまっている。

こういうのを「モラル・ハザード」というのではないか。制度の盲点をついて、本旨とは異なる目的で制度を利用し、利得を得る。
かつての「江川事件」やドラフト制度の骨抜き化など、NPBではモラル・ハザードが結構多く見られたが、今回は新しいケースだ。
金子に対して③のオファーを出している球団は「野球興行」よりも「金儲け」を優先していると言われても仕方がないだろう。

巨人の原監督がクレームをつけていると言われる。東スポより

他球団に、メジャーまでの“腰掛け移籍”を容認した上で右腕獲得を狙う動きがあることに敏感に反応。名指しこそしなかったが「どこぞの球団はFAの大目玉をさ、1年獲って、1年でポスティングで(メジャーに)出してって、そんなことを考えている球団もいるんだな。世も末だな。それをやられたんじゃ、オリックス球団もやってられないな。節操がない」とチクリ。
 さらに「わが軍はそういうことはないだろ。節操、規律。(巨人は)プロ野球の規律は守るよ。『正々堂々、戦うことを誓います』だよ」。エース強奪へ「なんでもあり」な状況を正すべく“球界の盟主”として一言モノ申したかったようだ。


「モラルハザードの本家みたいな巨人が厚かましい」という意見もあるだろうが、原個人の意見としては真っ当だと思う。

昨日はその話に続いて、金子が遊離軟骨(ねずみ)除去の手術を受けることが明らかになった。2011年に続いて2回目。
この手術と、ポスティングによる移籍断念がどのように関係しているかわからないが、このタイミングでの発表は異例だ。
金子の「商品価値」が大きく下がる可能性もあるだろう。

アーン・テレム、団野村という代理人の思惑も働いているのだろう。

しかしながら金子の前途を考えるならば「おかしなこと」はしない方が良いだろう。
もっとも真っ当で、ファンや世間が納得する選択肢を選ぶべきだと思う。


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