親しくしていただいているあるジャーナリスト氏の意見、ぜひ紹介したいので無理を言って了承いただいた。必読。
明日の「サンデーモーニング」で自称“球界ご意見番”のH氏は、今回の黒田の選択について無限大に「天晴れ」をつけて(多分)ほめそやすことだろう。H氏がMLBやそこへ移籍する日本人選手たちを批判したり、イチローや上原、川崎らに「日本へ帰ってこい」と言うのはもちろん彼の自由だ。ただもしそう主張するのであれば、「なぜ彼らは海を渡るのか」についてきちんと分析し、日米間の待遇格差をどう埋めていくかについての具体的な提言を伴わなくてはならない。

実力のある選手になればなるほど、NPBで選手生活を全うすることはプロ野球選手になった「うまみ」がなくならないまでも、間違いなく大幅に減少するのだ。それは単に金銭面だけのことではない。
今朝の民放トーク番組に出演した松井秀喜は、2009年のワールドシリーズでMVPになったあと、NYでの扱いが「明らかに変わった」と語っていた。たとえばシリーズが終わった直後にNYのレストランに出かけると店内の客が一斉に立ち上がって拍手を送ったという。彼が引退後もNYのファンに愛され続けているかは、オールドタイマーズデイなどヤンキースタジアムでのイヴェントに彼が顔を出した時に観客席が見せる反応を見れば一目瞭然だ。

彼がYankeesで存在感を増していた頃、キャンプ地でインタヴューした私は、「毎年行なわれるオールドタイマーズデイ(OB戦)に顔を出す元選手たちは、殿堂入りとか永久欠番とかタイトルとか●●年のワールドシリーズで活躍したとか、必ず何らかの輝かしい形容詞とともに呼び込まれているけど、松井さんも引退後にああいう人たちの仲間入りができるといいですね」と取材後彼に言ったことがある。引退後の彼はまさにその通りになった。
巨人でももちろん応分のセレモニーはしてもらっているし、真意はどうだかわからないが次期監督候補にも名前が挙がっている。だが、松井がYankeesで球団やファンから受けているのと同様に扱われているかと聞かれれば、私は首を横に振らざるを得ない。

松井がFAでのメジャー移籍を決断した原因の一つに、2002年のシーズン途中、渡邉恒雄オーナー(当時)の独断でヴィジター用のユニフォームが「TOKYO」から「YOMIURI」に変更されたことがあったが、松井はジャイアンツの選手のなかで、唯一これに異を唱えていた。1953年に採用されて以来、川上、千葉、別所、ONといった歴代のスターたちから連綿と受け継がれ、ファンにも親しまれてきたデザインを唐突に変えていいものかという彼の疑問は当然至極なものだった。

球界再編騒動の際にナベツネが当時の古田敦也選手会長に向けて口にした「たかが選手」発言に象徴されるように、NPBの機構・球団幹部は選手に対する根本的な敬意が欠如している。要するに球場に観客を呼び込むのは誰かがわかっていない人間が多い。ホークスで工藤公康や杉内俊哉にFA移籍を決断させたフロント幹部の心無い発言や、選手の肉体に深刻なダメージを与える人工芝を使い続けている(原辰徳や松井は間違いなくそのために選手寿命を縮めた)はその象徴と言っていいだろう。

張本さん(あ、実名出しちまった=笑)、もしスター選手たちにメジャーへ行ってほしくない、あるいはイチローたちに日本へ帰ってほしいのであれば、まずは機構や球団の幹部たちに、選手に敬意を払うよう説教したらいかがでしょうか?