黒田博樹がOKといったから、広島カープが黒田に出し続けたオファーは「失礼」じゃなくなった。と当サイトにコメントされる人がたくさんいるのには驚いた。
再度リンクを張っておく。
年俸14億を蹴った黒田博樹に3億円を提示する広島の神経|2013MLBポストシーズン
昨年のブログを修正すべき必要は全く感じないので、繰り返しになるが、今年のバージョンでもう一度言う。
この問題は、
年収1600万円のビジネスマンに、元の会社の上司が「400万円でどうだ」と迫った。
と言うことである。
人には地位やステイタスなど多様な評価がある。しかし、異論はあるかもしれないが最終的には年収と言うことになろう。
1600万円という年収は、彼の端的な能力、価値を表している。そしてこれまでの彼の努力の賜物でもある。
人の評価はお金だけではないと言うが、ビジネスの世界では「お金」である。他の評価は補助的なものに過ぎない。
その人間に対して「400万円で来てくれ」というのは、「お前には400万円の値打ちしかない」と言っているのと同じだ。
普通の人なら「失礼だ」と席を立つのではないだろうか。
「でも、黒田はその申し入れを受けたじゃないか、彼は失礼とは感じなかったのだ」
は後付である。
「オファーを蹴ったら失礼」「受けたら失礼ではない」という話ではない。
一般的にあり得ないオファーであり、まともな企業はそういうオファーはしないものだ。
「サラリーマンの話に置き換えるのはおかしいだろう、黒田のように何億と言う年俸をもらっている人間にとっては、16億円も4億円も同じじゃないのか」
という向きもあるだろうが、年俸が激しく下がる影響は、億万長者の方がはるかに深刻だ。
黒田の年俸と所得税の関係を見ていく
※税金の項目は、多方面からご指摘を受けた。間違っている可能性がある。確認中。
海外で事業活動を行う日本企業や日本人個人(=日本居住者)は、居住地国(=住んでいる国)である日本では、「日本はもとより海外で得た所得も含めたすべての所得」=「全世界所得」について申告・納税義務を負う。
MLBでの黒田は毎年控除額を除いた所得の40%を税金として納めてきたはずだ。
当然節税対策はしているだろうが(それは黒田が「お金じゃない」と思っていないことを意味する)、所得の中から少なからぬ額を国庫に納めてきた。
日本は累進課税の国である。1600万円の収入に対する所得税は33%だが、4000万円を超えると40%になる。巡り合せの悪いことに、来年から税率は45%に上がる。
16億円の収入に対する課税額は計算上7億円を超える。広島の年俸が4億円だとすると、黒田は貯蓄を崩してさらに3億円余を納税しなければならない。
いくら億万長者の黒田でも、それは相当痛いことだと思う。
黒田に3億、4億と言うオファーを出すのは「貯金を取り崩して、自腹を切って日本に来てくれ」というのと同然なのだ。
確かにプロ野球選手は大幅減俸を甘受すべき職業ではある。税金が払えなくて分割払いにしてもらう選手や、引退後差し押さえを喰らう選手もいる。実力の世界ならではの厳しさではある。
しかし黒田は立派な成績を上げている。来年、そんな目に遭う筋合いはない。
広島東洋カープと言う球団は、親会社の無い独立採算制の企業である。
だから赤字が出せない。
選手の年俸が高騰したら、引き止めることなくFAで送り出す。
そして若手を育ててチームを再構築する。
しかしながら、広島は最大限の経営努力をしてきたかと言えば、そうではない。行政に税金で新しい球場を建ててもらって、その指定管理者となり、収益は増えたにもかかわらず、それをチームの強化に使ってこなかった。
この本に明らかである。
つまり、「金がない」という看板を掲げて商売をすることで世間に「弱くても仕方がない」と思わせ、せこく経営してきたと言うことだ。
もちろん、現場は弱小球団ならではの努力をしてきた。新人発掘の能力は、他球団よりも優れている。2013年に22年ぶりにポストシーズンに進出できたのは「素材発掘、育成能力」の賜物ではあろう。
しかし、1991年を最後に21年間も優勝から縁がなかったのは、リスクを取って、本腰を入れてチームを強化してこなかったからだ。
黒田に対するオファーも「この金で黒田を雇うことができればもうけもの」とダメもとだったはずだ。
人一倍球団に対するロイヤリティが強い黒田博樹の篤実な性格につけこんで、失礼なオファーをしてきたと言うことだ。
今年になって黒田の心境に変化があり、「広島で身じまいをしたい」という思いが強くなった。大幅な収入のダウン、巨額の納税を甘受してでも「帰ろう」と思うようになった。それが今回の契約の背景だ。広島の誠意が通じたわけではない(そもそも誠意ではないが)。
黒田にしてみれば、本当であれば広島にも相応な年俸を提示してほしかったに違いない。そうであれば、悩むことなく帰ることができただろう。
しかし、ずっと前から広島は「これだけしか出せない」と言ってきていた。まさに広島の作戦勝ちではある。
黒田に「広島愛」があるとすれば、まず第一に、そういう「せこい古巣」を許したことだろう。
広島東洋カープは、これに味をしめて、来年、アメリカに渡るマエケンに3億円のオファーを出し続けるようなまねはしてほしくないと思う。
最後にkabuさんのコメントを引用させていただく。この状況をうまく説明しておられるので。
市場価格の1/4や1/5のオファーを出して、その差を「愛」「誠意」で埋めてもらおうという発想はブラックそのものであり、私にはとても許容できません。「愛社精神があれば残業代など請求できないはず」と考えるブラック企業や経営者もこういう状況で決まって使うのです、「○○愛」という言葉を。
私のサイトにお越しいただき、ありがとうございます。ぜひコメントもお寄せください!
↓
クラシックSTATS鑑賞もご覧ください。
D.ビュフォード、全本塁打一覧|本塁打大全
広尾晃、3冊目の本が出ました。
年俸14億を蹴った黒田博樹に3億円を提示する広島の神経|2013MLBポストシーズン
昨年のブログを修正すべき必要は全く感じないので、繰り返しになるが、今年のバージョンでもう一度言う。
この問題は、
年収1600万円のビジネスマンに、元の会社の上司が「400万円でどうだ」と迫った。
と言うことである。
人には地位やステイタスなど多様な評価がある。しかし、異論はあるかもしれないが最終的には年収と言うことになろう。
1600万円という年収は、彼の端的な能力、価値を表している。そしてこれまでの彼の努力の賜物でもある。
人の評価はお金だけではないと言うが、ビジネスの世界では「お金」である。他の評価は補助的なものに過ぎない。
その人間に対して「400万円で来てくれ」というのは、「お前には400万円の値打ちしかない」と言っているのと同じだ。
普通の人なら「失礼だ」と席を立つのではないだろうか。
「でも、黒田はその申し入れを受けたじゃないか、彼は失礼とは感じなかったのだ」
は後付である。
「オファーを蹴ったら失礼」「受けたら失礼ではない」という話ではない。
一般的にあり得ないオファーであり、まともな企業はそういうオファーはしないものだ。
「サラリーマンの話に置き換えるのはおかしいだろう、黒田のように何億と言う年俸をもらっている人間にとっては、16億円も4億円も同じじゃないのか」
という向きもあるだろうが、年俸が激しく下がる影響は、億万長者の方がはるかに深刻だ。
黒田の年俸と所得税の関係を見ていく
※税金の項目は、多方面からご指摘を受けた。間違っている可能性がある。確認中。
海外で事業活動を行う日本企業や日本人個人(=日本居住者)は、居住地国(=住んでいる国)である日本では、「日本はもとより海外で得た所得も含めたすべての所得」=「全世界所得」について申告・納税義務を負う。
MLBでの黒田は毎年控除額を除いた所得の40%を税金として納めてきたはずだ。
当然節税対策はしているだろうが(それは黒田が「お金じゃない」と思っていないことを意味する)、所得の中から少なからぬ額を国庫に納めてきた。
日本は累進課税の国である。1600万円の収入に対する所得税は33%だが、4000万円を超えると40%になる。巡り合せの悪いことに、来年から税率は45%に上がる。
16億円の収入に対する課税額は計算上7億円を超える。広島の年俸が4億円だとすると、黒田は貯蓄を崩してさらに3億円余を納税しなければならない。
いくら億万長者の黒田でも、それは相当痛いことだと思う。
黒田に3億、4億と言うオファーを出すのは「貯金を取り崩して、自腹を切って日本に来てくれ」というのと同然なのだ。
確かにプロ野球選手は大幅減俸を甘受すべき職業ではある。税金が払えなくて分割払いにしてもらう選手や、引退後差し押さえを喰らう選手もいる。実力の世界ならではの厳しさではある。
しかし黒田は立派な成績を上げている。来年、そんな目に遭う筋合いはない。
広島東洋カープと言う球団は、親会社の無い独立採算制の企業である。
だから赤字が出せない。
選手の年俸が高騰したら、引き止めることなくFAで送り出す。
そして若手を育ててチームを再構築する。
しかしながら、広島は最大限の経営努力をしてきたかと言えば、そうではない。行政に税金で新しい球場を建ててもらって、その指定管理者となり、収益は増えたにもかかわらず、それをチームの強化に使ってこなかった。
この本に明らかである。
つまり、「金がない」という看板を掲げて商売をすることで世間に「弱くても仕方がない」と思わせ、せこく経営してきたと言うことだ。
もちろん、現場は弱小球団ならではの努力をしてきた。新人発掘の能力は、他球団よりも優れている。2013年に22年ぶりにポストシーズンに進出できたのは「素材発掘、育成能力」の賜物ではあろう。
しかし、1991年を最後に21年間も優勝から縁がなかったのは、リスクを取って、本腰を入れてチームを強化してこなかったからだ。
黒田に対するオファーも「この金で黒田を雇うことができればもうけもの」とダメもとだったはずだ。
人一倍球団に対するロイヤリティが強い黒田博樹の篤実な性格につけこんで、失礼なオファーをしてきたと言うことだ。
今年になって黒田の心境に変化があり、「広島で身じまいをしたい」という思いが強くなった。大幅な収入のダウン、巨額の納税を甘受してでも「帰ろう」と思うようになった。それが今回の契約の背景だ。広島の誠意が通じたわけではない(そもそも誠意ではないが)。
黒田にしてみれば、本当であれば広島にも相応な年俸を提示してほしかったに違いない。そうであれば、悩むことなく帰ることができただろう。
しかし、ずっと前から広島は「これだけしか出せない」と言ってきていた。まさに広島の作戦勝ちではある。
黒田に「広島愛」があるとすれば、まず第一に、そういう「せこい古巣」を許したことだろう。
広島東洋カープは、これに味をしめて、来年、アメリカに渡るマエケンに3億円のオファーを出し続けるようなまねはしてほしくないと思う。
最後にkabuさんのコメントを引用させていただく。この状況をうまく説明しておられるので。
市場価格の1/4や1/5のオファーを出して、その差を「愛」「誠意」で埋めてもらおうという発想はブラックそのものであり、私にはとても許容できません。「愛社精神があれば残業代など請求できないはず」と考えるブラック企業や経営者もこういう状況で決まって使うのです、「○○愛」という言葉を。
私のサイトにお越しいただき、ありがとうございます。ぜひコメントもお寄せください!
↓
クラシックSTATS鑑賞もご覧ください。
D.ビュフォード、全本塁打一覧|本塁打大全
広尾晃、3冊目の本が出ました。