ソーメンをすすりながらテレビで甲子園の八幡商、帝京戦を見ていた。
帝京の3-0で9回に。帝京先発2年生の渡邉隆太郎は、大柄な左腕で球威があり、8回までほぼ完ぺきに抑えていた。9回表1失点して1死満塁の走者を背負っても、まだ笑顔がこぼれていた。

八幡商の選手は帝京の選手より小柄で華奢な選手が多く、どうみても格下だった。八幡の五番遠藤和哉はホームベースにかぶさるようなクローズドスタンス。渡邉は低めに球を集めていたが、徐々にタイミングが合ってくる。フルカウントになって速球に鋭いファウル。ここでカチッと音がして力関係が逆転。外角高め、見逃せばボールという速球に遠藤は食らいつき、振りぬいた。このスタンスではここしか本塁打にできないというコース。打球は切れるかと思ったが、ぎりぎりに右翼フェンスを越えていった。金属バットの恐ろしさを思い知らされるような一打だった。

この一打で、劇的に試合が動く。九分九厘勝つと思っていた帝京には、精神的に立ち直る余地がなかった。
9回裏の八幡商のマウンドは甲子園で登板経験のない眞野聖也、捕手も控えの吉田大輝に代わっていたが、この吉田のリードが抜群だった。眞野は130キロ前後の速球と95キロ前後の緩いカーブが持ち球だが、それ以上に「未知数」という武器があった。

吉田は緩いカーブを2球投げさせてから、速球を見せて8番石川を2飛、このあとは緩いカーブが来るぞ、と思わせながら速球で9番石倉を左飛、1番水上を歩かせたが、2番阿部は釣り球で捕邪飛に打ち取った。股を広げてミットを低く構え、少しずつ、少しずつ精神的優位に持ち込んでいく、捕手吉田は帝京打者を手玉に取った。

このところ滋賀県に行くことが多いのだが、JR近江八幡の駅舎には「八商甲子園へ!」の速報が貼ってあった。この日の近江八幡市は、他の都市よりもさらに暑かったことだろう。

アメリカの野球選手は、こうした経験をすることはまずないと思う。まるで、ひと夏で死んでいくセミのように、命がけで野球にしがみつく。限界を超えた無理、無茶、恐ろしい集中力、胃が痛くなるような心理戦、そして暑苦しいまでの連帯感。
ワールドシリーズなどの短期決戦でMLB選手も盛り上がるが、それはあくまで選手ひとりひとりの集中力の成果であって、個々の力を超えた連帯などは感じない。

同じ道具を使って、同じルールで行われるが、釜の底で炒られるようにして作られるドラマを経て、日米で違うスポーツが完成するのだ。日本の選手がWBCでやたら強くて、MLBで苦労する原因、あるいは原点はここにあるのだ、と思った。




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