“投手バブル”というべきだろうか。投手が軒並みすばらしいSTATSを残している今年のNPBにあって、一人成績を落としている感があるのが前田健太だ。
限られた公式発表の数字だけではあるが、STATSに今季と昨季の違いがあるかどうか見てみた。ちなみにWHIPは、その投手が1イニングに出す走者数(安打+四球)の平均。DIPSは、投手のみに責任がある要素だけで見た投手の評価。奪三振、与四球、被本塁打だけで算出する。私は初期の公式(与四球×3+被本塁打×13-奪三振×2)÷投球回+3.2)を用いている。





昨年のマエケンは防御率ERAよりもDIPSがかなり悪い。これは、2010年の成績がやや「できすぎ」だったことを示している。そして今年は逆にERAよりもDIPSが良い。DIPSだけで見れば、むしろ今年の方が少し向上している。DIPSは異論の多い分析ではあるが、マエケンの投手としての力は本質的に変わっていないと言えるのではないか。

では、なぜ今年は成績が悪いのか。1つはWHIP、つまり1回あたりに出す走者数が増えていることにある。昨年はセリーグ唯一WHIPが1点以下の0.98と抜群の成績を残したが、今季は1.22。例年ならばこの数字も素晴らしいものだが、今年はリーグ平均に近い数値。WHIPが悪いのは、四球が増えたのではなく、被安打数が増えたのだ。H/9は、9回投げたとして打たれる安打数。2010年は6.9だったのが、2011年は8.8に増えている。ほとんど毎回安打を打たれている計算だ。

一般的に投手が安打を打たれる原因として、球威やキレが衰えるか、打ちやすいコースに投げ込んでいるか、の2つが考えられる。マエケンの場合どちらなのか?

それはSO/9つまり、9回投げたとして奪う三振の数を見ればわかる。2010年は7.3だったのが、2011年は8.0と上がっている。これはマエケンの球威、キレが衰えるどころか向上していることを現している。しかし三振を取ろうと思えば、勝負球をストライクゾーンに投げ込まざるを得ない。その結果が安打に結び付きやすくなる。

三振を取る投球は、効率は良くない。球数が増えるし、被安打も増える傾向にある。打たせて取る投球の方が、数字が上向くことが多いのだ。まして、今年は統一球元年。打たせて取る投球がさらに効果的なのだ。

こうした微妙な差が積み重なって不振を生みだしている。不運も重なっている。防御率3.52は、打たれた安打がタイムリーだったケースが多いことを意味している。



昨年までセリーグは4点をめぐる攻防だった。だからERA2点台のマエケンは抜群の存在だった。しかし今年、3点をめぐる攻防にシフトするなかでERAを大きく落としたマエケンは、3勝6敗という不成績につながっている。

「ちょっとした不振と不運」が、激変したNPBの野球環境の中では、天国から地獄への転落を招いたのだ。

マエケンは、弱体打線を背景に、自分がやらなければ、というエースの使命感に燃えていると思う。それが奪三振の増加につながっているのではないか。しかし、星数を上げることを考えれば、肩の力を抜いて「打たせて取る」ことが重要だと思う。


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