全日本野球協会、日本整形外科学会は少年野球のケガの実態を調査する全国規模のアンケートを行った。

まだアンケートはネットに公開されていない。各メディアの報道をもとに主旨をまとめてみる。ちなみに朝日新聞は報道していない。

全国の小学生の軟式、硬式合わせて539チーム、選手1万228人を対象に調査(リトルリーグの中学1年74人を含む)。

・5880人(57.5%)が肘など何らかの部位に痛みを感じたことがあると回答。そのうち調査時に痛みがあり、整形外科などに通院しているのは648人。
・投手で肩や肘の痛みを経験した選手は49%。
・捕手でも40%に上り、ほかの野手の平均より14ポイントも高くなっている。
・ポジション別では「野手」「捕手」「投手」「投手と捕手」の順に、痛みを経験した割合が多くなる。
・肘の痛みを感じた投手のうち、20%以上が休まず投球を続けていて、ケガの発見の遅れや深刻化につながる可能性があると指摘。
・1週間に100球以上投げている投手は、肩や肘の痛みを抱える割合が高まる傾向があり、指導者が投球数の制限を真剣に考える必要があるとしている。


群馬大医学部整形外科の高岸憲二教授は「投手と捕手の兼任は避けるべき」と提唱
日本整形外科学会の高岸憲二理事は「優秀な選手が中学生までにつぶれると高校の指導者からよく聞く。そういう選手を1人でも少なくして、長く野球を続けてもらいたい」。


内容自体に新味はない。そういう話は、各方面から聞こえていた。
しかし、少年野球の選手が肩、肘故障のリスクにさらされていることが、数字で表された点に意義があろう。普遍的な問題なのだ。
肩、肘に痛みを感じた選手の中には、子どもの時代にキャリアを断念した人もいるだろう。
危険な状態が野放しにされているといってよい。

一人でも多くの野球少年が、1日でも長く野球を続けることができるために、大人がしっかりしなければならないだろう。
いくつかのポイントがあると思う。

①技術、理論の体系化を

別所毅彦は、生涯「肩、肘に違和感を持ったことがなかった」そうだ。そういう投手もいれば、少し投げただけで潰れる投手もいる。「投球」は、個人差がきわめて大きい。
「あの選手は、若い頃、もっと投げていた」などという指導者は論外だ。
「何球投げれば黄信号、赤信号か」「登板間隔は」「故障に対する治療法は」
統計調査やヒヤリングなどをさらに進めて、総合的なガイドラインを、年齢別に明確にすべきだ。
また肩、肘に負担がかからない投法があるのなら、それを開示して共有すべきだ。
投球には「投げない」ことで温存される面と、「投げる」ことで進化が期待できる面がある。
それらについても理論化すべきだ。

つまり「投球」に関する様々な技術や知識を体系化すべきだ。
偏った経験論や根性論、滅私奉公的な理屈などを排除し、スポーツとしてまともなメソッドを確立すべきだ。アメリカなど他国とも連携して、最善の体系を構築すべきだ。

そしてそれをすべて理解した人に「野球指導者」のライセンスを与えるべきだ。
自分だけの経験則や精神論だけで選手を指導する指導者を排除すべきだ。

競技においては、「1チームに最低3人の投手を育成すること」を義務づけるとともに、登板間隔や投球数なども厳格に設定し、それを守らないチームは失格にすべきだ。

②勝利への偏執の排除

日本の野球は草創期から勝負に固執してきた。「体を壊してでも勝つべきだ」という風潮があった。それはスポーツではない。
少年野球でも、そうした面は多々見られる。それが選手の酷使につながった。
少なくとも小、中学校の野球の目的は「勝利」ではなく「努力」あるいは「成長」にあることを明確にすべきだ。
「勝利への偏執」は否定されるべきだ。

表彰項目の中にも、「勝利」だけでなく「努力」「フェアプレー」など他の徳目も設けるべきだ。また「個人賞」をより大きなものとし、負けたチームの選手もクローズアップされるようにすべきだ。
トーナメントではなく、リーグ戦を増やすべきだろう。

指導者は、「目先の勝利」ではなく常に「1日も長く野球を続けることができる選手」を育てることを第一の目標にすべきだ。

③選手の「自己管理意識」の涵養

子どもたちがまるで軍隊のように直立不動で指導者の話を聞く風景はよく見られるが、前時代的だと思う。
ロボットのように言うことを聞くだけの選手を育成するのは、スポーツの本旨から外れている。
トレーニングを自主的に考え、自重すべき部分は自重し、科学的に自らを成長させるような選手を涵養すべきだ。
そのために、少年野球の指導カリキュラムの中に「自己管理」に関する座学を導入すべきだ。指導者は「自己管理」に関する指導ができなければ、ライセンスが取れないことにすべきだ。

④指導システムの改正、明確化

指導者がいくら正しい指導をしようとしても、加熱した保護者がそれを許さないケースもしばしばあると言われる。
中には、我が子をばくちの種にして「一攫千金」をもくろむ親もいるようだ。
少年野球への入団に当たっては、保護者に少年野球の目的をはっきりと明示し、特別扱いや特別の指導などは行わないことを明言すべきだ。
さらに「野球の意義、目的」「指導の方向性」について、しっかり理解させるべきだ。

さたに野球指導者の料金システムについてもガイドラインを設定すべきだ。
指導者によっては「つけとどけ」を要求する人がいるようだ。昔から、日本の習い事にはそうした悪習がある。一方で有望選手は無料で指導する場合もあるという。
料金システムをクリアにし、旧来の「道場」のような私的な「師弟関係」は排除すべきだ。
率直に言って、「師匠の人柄」を信じて子どもを委ねるような「私的な指導システム」は、害の方が大きくなっていると思う。

指導システムを明確化することで、サッカー並みのクリアな「少年野球」を再構築すべき時が来ている。
子どもの過半数が野球よりもサッカーや水泳などを選ぶ時代。少年野球には警鐘が鳴っている。

最終的には甲子園を頂点とするアマチュア野球の体系を再構築しないと「子どもの健康」を第一にする野球は生まれないと思う。


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