私にとって門田博光は特別の選手だった。南海ホークスの最後の4番打者として、不惑を過ぎても素晴らしい活躍をして、胸のすく思いをさせてくれた。思えば、ペナントレースとともに毎日を生きたのは、あれが最後だった。

当時の職場から大阪球場のある難波まではタクシーで7分。6時にダッシュで御堂筋をかけ下りて15分には難波に着き、高島屋の地下で細巻き寿司を2本買ってすり鉢状のスタジアムの一番底に座り、ビールを半分ほど一気に飲んだ頃にプレーボール。蒸気機関車のように精悍な門田は左打席に立ち、左耳の後ろ当たりでバットをピタッと静止させて動かない。好球と見るや、まるで球の毛糸の芯の部分だけをぶち抜くかのように、強烈にボールをしばき上げるのである。一日の疲れも、ストレスも吹っ飛んだものだ。



その門田が野球殿堂入りのときに車椅子だったことには衝撃を受けた。しかし、徐々に健康を回復し、大阪ホークスドリームの総監督となり、不祥事を受けてではあるが久々に采配を振るうと聞いた。これは、大阪、住之江公園球場に行かねばならない。高校野球の予選から、何度も通った球場だ。

大阪の対戦相手はマック鈴木率いる神戸サンズ。試合前マックは白い歯を見せてキャッチボール。そこへ例のアレックス・ラミレス不肖の倅が近づいて何事かしゃべる。「今日は出してくれるのか?」と言っているのかもしれない。マックはラミレスジュニアに顔を向けることもなく「ラン!もっとラン!」と指示を出した。ジュニアは球速120 km/h程度。使い物にはならないようだ。



一塁側の大阪方、ウォームアップする選手に交じって、水色のシャツの小柄な男が熱心に話をしている。1塁の浅野公輝には打席の構えも示している。そのフォームを見間違うはずもない。門田だ。小さくなって足元はややおぼつかないが、健在だった。



一塁側では、あちこちで選手と観客がネット越しに話をしている。そこには試合前の緊張感がない。何やら運動会に来ている父兄のようでもある。北陸や四国では見られない光景だ。

試合開始前の君が代は、隣の住之江競艇のボートレースの爆音にかき消された。

そして試合開始直後に、スタンドで喧嘩が起った。観客は100人余りだから、怒声が球場に響き渡り、ダッグアウトの選手たちもその方向を向いていた。試合どころではない。警官が出張る騒ぎとなり、3人が連れて行かれた。



率直に言うが、関西独立リーグのマネージメントは最低である。プロのリーグとして最低限整備すべきスタッフや、会場の警備、セレモニーや演出なども何もない。メンバー表もない。少数のボランティアと思しき人が動いているだけ。入場料も無料だったり、千円だったり、800円だったり(この日は1000円)。私の席の前の男性は、犬連れだったが、散歩の最中に間違って入ってきたのだという。当然、無券である。
例えるならば、このリーグは新聞紙に包んでモノを売っているようなものだ。中身は大差がないかもしれないが、受け取る側は、商品とは思わないだろう。2年前の開幕戦から見ているが、ますます粗末になっている。これは、リーグ設立当初から、吉田えりの獲得など話題づくりに走って、地道に足で歩く営業をしてこなかったのが大きいのではないか。またモラルが低い人物が多く関わりすぎているように思う。

しかし、試合は7回まで緊張感のある展開となった。神戸のエンジェル・サラザーは、CCサバシアを思わせる体格。150km/hの速球は4シームのようだがコントロールが良く、このクラスでは別格の感があった。打線にはマイナーで1182試合の出場記録をもつジャクソン・メリアンもいた。マックは独立リーグを通じて選手をNPBに売り込む腹積もりなのかもしれない。



大阪の先発左腕、大瀬亮も低めにボールを集め、好投した。5回を2安打無失点。



大阪は最下位のはずだが、思ったよりも引き締まった良い試合をする、と思った矢先、後続の投手が乱れに乱れた。続く安心院が6回に2四球2安打1失点、滝口和眞は7回は0点に抑えたが8回に7四球を与え5失点、続く西村康弘は9回に4四球4安打に失策も絡んで6失点。場内からは怒声も飛んだ。



サラザーは完投したが、白けきったゲームセットだった。大阪は24日の試合も17失点、14日には22失点。これも四球によるようだ。





この球場は施設が薄っぺらい。ダッグアウトの後ろのドアを開ければそこは球場の外周路だ。帰途、一塁側の道を歩いていると

「なんべんこんな試合やったら気が済むんじゃ!お前らプロでも何でもないわ!やめてまえ!」

ラジオなどで良く耳になじんでいた門田の声の怒号が聞こえた。NPB567本塁打、1678打点の大打者の怒号に、選手たちは縮みあがったことだろう。しかし門田の怒号は、選手たちだけではなく、この関西独立リーグそのものに向けて発せられたのではないだろうか。



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