次の東京オリンピックで、日本は世界3位のメダル数を目指すそうだ。まだそんなこと言ってるのか、という気がする。相変わらずスポーツ界は、脳味噌筋肉な人々に仕切られているのだと思う。
スポーツを国威発揚の具にしようとするのは、近代以来の趨勢ではある。
「オラが国さが金メダル取った!」で国中が盛り上がるのは、良いことではある。右肩上がりで経済成長している時代であれば、国威発揚は、人々の繁栄に直結していたと言えよう。
しかし経済成長は遥か昔、高齢化が進み貧富の格差が広がる中で、相変わらず国威発揚、メダル何個獲得に巨額の金を使おうというのは、アナクロニズムにしか見えない。
結果的に大きな箱を幾つか作って、二流のステートアマを何人か生み出し、それでおしまいである。
国内的なスポーツイベントは、一時的な打ち上げ花火にはなるが、スポーツ人口の増大や、国民の健康増進には何ら寄与しない。
もっと長い将来を見据えた先行投資をすべきだと思うが、そういう深い知恵は今のところ発揮されそうにもない。
相変わらずのイベント+箱モノ行政の象徴としての「メダル何個」だと思う。
政治、行政の側の話はさておき、スポーツの側でいえば、体質が変わらないのは、実際の強化予算が、各ジャンルの体協に下賜されるからだ。
各体協は、エリートを選別し、彼らの促成栽培をしようとするが、裾野の拡大や本当の意味での人材育成はしない。そのジャンルだけで通用するヒエラルキーを作って、その中で物事を進めようとするのだ。
そうしたスポーツ強化の取り組みは、一般市民と何ら関係のないところで行われる。競技人口の拡大とは無関係に、一握りのエリートを作る為だけに予算が使われるのだ。
日本のスポーツ各ジャンルは、競技者たちに絶対的な服従を強いる場合が多い。
指導者の教えを絶対的なものと受け止めよ、そして四六時中その競技のことだけを考えよ。
そういう形で鋳型にはめようとする。
私は高校の部活の取材をすることがある。
有力なスポーツ部の多くは、ほぼ年中無休である。元旦だけ休み、とか定期考査前は休み、というところはあるが、土日祝日も、練習や試合をするのが当たり前。そして毎日、夜遅くまで練習するのが当たり前。
そういう話を聞くたびに、私は「どう考えてもおかしい」と思ってしまう。多感なティーンエージャーは、いろいろなものを吸収して伸びていくことができる可能性をはらんでいる。
様々な選択肢があるのに、たった1個だけを選んでひたすら掘り下げるだけで貴重な時間を使うのは、良いことだとは思えない。
野球部などはその最たるものだ。多くの有力高校では学校内に「別の王国」みたいな閉鎖的な社会を作る。まるで軍隊だ。そして一般の生徒とは全く別の生活を送ることを強いるのだ。
指導者の多くも年中無休である。異口同音に「家族の理解もあって」というが、実際のところは「家族を犠牲にして」だろう。
本当はそんなことはしたくない指導者もいるだろうが、ほぼすべての学校がそうなっているので、しかたなく合わせているのではないか。これも、まともなこととは思えない。
こうした日本的な「スポーツ強化策」は、一般社会やライトな競技者と懸絶しているという点で異常だと思うが、国際的に通用するアスリートを育成する上でも問題があると思う。
まず「そのスポーツしか知らない」ことは、経験や思考の幅を限定的にする。視野狭窄につながると言っても良いだろう。また「そのスポーツをとったら俺には何も残らない」という思いは、大きなプレッシャーになるだろう。
さらに「指導者の言うままに練習をし、プレーをする」姿勢は、主体性や思考の柔軟性を妨げると思う。
今の指導者はメンタルトレーニングを取り入れたり、主体性を尊重した指導を行っていると言うが、それよりも「他のスポーツも併せてやる」とか、「文科系の活動もする」方が、効率が良いのではないかと思う。
米大統領のオバマ家が娘たちに「2つのスポーツをやりなさい」と教えているには、まさにそういうことだろう。
動物を仕込むように、絶対服従で指導するやり方は、過去のものにすべきだ。
繰り返すが、2020年オリンピックの目標は「メダル何個」ではなく、「スポーツの競技人口を10%増やす」「国民の健康増進」「幸福度のアップ」であってほしい。
オリンピック競技に復活することが期待される野球でいうならば、代表選手の育成も重要だろうが、その予算の一部を使って町の空き地を整備し「キャッチボール人口、草野球人口」を増加させることも目標にしてほしい。
空き地に新設されたバックネットに「2020年東京オリンピック強化予算」というプレートがあるのをみつけたら、草野球をする大人や子供も、自分たちが「東京オリンピックとつながっている」ことを実感するだろう。
オリンピックを「スポーツ馬鹿」の祭典にする時代は終わったと思う。
2020年が終わったら、ぽしゃんとしぼむようなつまらない政策にしないようにしてほしい。
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