そもそも論になってしまうが、プロ野球のコミッショナーとは、球界全体が危難に陥ったときに、強権的な実行力でこれを根こそぎ解決するために設けられた役職だ。

1920年のブラックソックススキャンダルによって、MLBの信頼が失墜した際に、初代コミッショナーに就任した検事のケネソー・マウンテン・ランディスは、強権を発動し、調査を強行。チック・ガンディル、シューレス・ジョー・ジャクソンなど8人の選手を永久追放するとともに、オーナーの不正も糾弾した。
この処断は、のちに不公平であり、ジャクソンなどは「疑わしきを罰した」とされた。しかしながら、その果断な処置がMLBを救ったのは間違いがない。

野球のみならずすべてのスポーツにとって、最も深刻な危機は「公平な条件での真剣勝負であることに疑念が発生し、信用を失墜する」ことだ。
八百長疑惑、薬物疑惑が、窃盗や暴力沙汰など他の犯罪行為よりも重要視されるのは、まさにそういう理由だからだ。
コミッショナーが八百長疑惑を契機として設けられたのは、象徴的なことなのだ。

八百長疑惑など深刻な問題が発生した時に、コミッショナーに課せられるのは事件の「全容解明」と「問題解決」ではある。しかしそれだけではない。
コミッショナーが自ら動き、捜査を指揮し、全容解明を進める中で、自分たちの組織に「自浄能力」があることを証明しなければならないのだ。
最終的には司直の手にゆだねることになったとしても、スポーツ機構そのものが問題を解決する能力があることを示さなければ、世間の信頼回復はできない。
ランディスコミッショナーが「MLBを救った」と言われるのは、まさに自ら疑惑を解明し、処断し、自浄能力を世間に知らしめたからだ。

八百長疑惑はスポーツ界を根底から揺るがせ続けた。
1969年に勃発したNPBの「黒い霧事件」は、史上初めて発覚した八百長疑惑だった。逮捕者も出したが、信用を失ったパ・リーグは、西鉄が身売りをするなど、解体寸前に追い込まれた。
台湾プロ野球では機構側が毅然とした対応ができなかったため、八百長事件が何度も起こった。すでに台湾プロ野球は25年の歴史があるが、世間の信用がないために球団数も増えず、一流選手は台湾プロ野球に行かない風潮が続いている。
大相撲は2011年の八百長発覚によって、本場所の中止、非公開化に追い込まれている。

多くの場合、八百長事件は、選手間の賭博の常習化を温床として起こっている。スポーツ選手の賭博常習化は極めて危険な兆候なのだ。

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残念ながら、NPBは、問題が発覚した時に自浄能力を発揮したことはない。
「黒い霧事件」は読売新聞、報知新聞の報道によって発覚したが、事件の全容を明らかにしたのは週刊ポストなどの週刊誌だった。
コミッショナー(当時はコミッショナー委員)の金子鋭は、後追い的に選手や関係者を処分したが、不祥事や犯罪が後から後から発覚し、事態は混迷した。
疑心暗鬼になったNPBは、事件と無関係の選手まで処分をした。
これも、主体的に事件解明に動かなかったNPBの意識、能力の低さがもたらした災難だった。

なおこの事件は、讀賣サイドが仕掛けた「パ・リーグ解体」へ向けた工作だったのではないかという見方がある。具体名は上げられないが、そういう証言が出ているのだ。
戦後のプロ野球では、八百長は常態化していた。南海の鶴岡一人は監督就任後、八百長の首謀者だったベテラン選手を放出、その一派を一掃して「百万ドル内野陣」を作った。南海黄金時代は、まさにチームの浄化から始まっているのだ。
1970年までのプロ野球界は、暴力団との交際は当たり前のことでもあり、球界全体が「叩けば埃の出る体」だった。野球選手とやくざが義兄弟の杯を交わすことも珍しくなかった。
その体質を知る讀賣サイドは西鉄の病巣を暴くことでパ・リーグを弱体化しようとしたとの説がある。そのストーリーは、江川事件にまでつながっているともいわれる。「江川事件」当時のコミッショナーが、黒い霧事件と同じ金子鋭だったことも、信ぴょう性を高からしめている。
これは余談。

結果的に「黒い霧」事件は、野球界の体質浄化を推し進めた。しかし、野球界と裏社会はまだ通底している。危機はいつでも存在している。
選手による野球賭博は、きわめて危険な兆候だ。
その認識があれば、コミッショナーは、こうしたおざなりな調査で事足れりとはしないはずだ。


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