もう一つ、懸念を言うなら、マスメディアは、いろいろなことを知っていながら、何もしゃべっていないことだ。


スポーツ新聞の記者は、ほとんど毎日、野球選手に密着している。彼らにべったりと張り付いている。
オフや試合終了後の時間はともかく、試合や練習のある日に、スタジアムで賭博をしていたのなら、担当記者はほぼ間違いなくそれを見ていたはずだ。
しかし、記者から「野球選手の賭博」について報じることは一度もなかった。
彼らは球団や選手の不利益になることは、たとえ違法行為であっても絶対に書かない。球団から締め出しを食らうのが怖いからだ。
選手もそれがわかっているから、記者が見ていても大手を振っておかしなことをするのだ。
それは何十年も常態化している。今になって不正や問題行為を告発することはできない。そうすれば、メディアはこれまで、知っていながら報じてこなかったことを世間から非難されかねないからだ。
この不健全な関係がある限り、不祥事は、刑事事件になったり、告訴されない限り発覚しない。
メディアと野球界の癒着が、野球界の浄化を妨げている。

今回の事件は、稀有なことに、讀賣巨人軍が世間に発表することで明るみに出た。いわば自浄能力を示した形だ。
これは、野球賭博を犯した福田が主力ではなく末端の選手だったこと、そして事件発覚の端緒となった人物Aが、放置しておけば事件を暴露しそうな気配があったことから、巨人が先手を打ったのだろう。
同様に、コミッショナーへの報告、警察への通報も「先手を打つ」意味があったと思う。

しかしながら、調べを続ける中で野球賭博をした選手は3人に増えた。さらに賭博常習の選手も次々と名前が挙がった。外部の関係者も広がる様相を見せた。
このままでは、巨人の上層部にまで波及する事件に発展しかねない。

そこでNPB側も巻き込んで事態収拾策を考えた。
これまで名前が挙がった人物以外には犠牲者を出さないこと。部外者への調査も「限界があった」ことにすること。そして何より早急に幕引きをはかること。
NPBの人事は、実質的に讀賣側が握っている。各球団や他の会社からの出向者、プロパーの社員もいるが、事務局長にまで昇格するのは、例外を除いて讀賣グループからの出向者に限られている。
球団やNPBの関係者と話をしていると、ことあるごとに「私は讀賣系ではないので詳しいことはわからない」という言葉が出てくる。残念ながら、これは事実だ。

このストーリーにのっとって、今回の発表がなされたのだと思う。あくまで私見だが。

今後は、警察の捜査に期待したいところだが、今回の件でNPB熊崎コミッショナーは告訴しないことも明言している。
警察は提出された資料を調べて、事件性があると判断すれば捜査に乗り出すだろうが、NPB側はこれに積極的に協力するだろうか。
正力松太郎の昔から、警察、警視庁と讀賣新聞は極めて仲が良いが、讀賣の意向に逆らってまで警察が積極的に巨人の内部を取り調べるだろうか。

ただし、熊崎コミッショナーの記者会見を見る限り、この人は巨人側の言いなりになることに激しいストレスを感じているように思える。
調査を開始するときにも「不退転の決意」と語っている。
本音で言えば、自分の手で問題解決をしたいと思っていたのではないか。
熊崎氏は年末に2年の任期を終える。再任される可能性は高いが、それとは別に、NPB機構の会長任期との整合のために、コミッショナーの任期も来年11月まで延期された。
熊崎氏は残された任期内に「野球賭博の根絶」を決意した。

今回の報告書には
「選手間での金銭を伴う賭け事の禁止」が明記された。
報告書全体は、手ぬるい内容となっているが、この部分だけは評価できる。
これが実施されれば、選手間のバカラ賭博や賭けマージャン、賭けゴルフもできなくなる。
画期的なことではある。
記者はこれが施行されたら、選手の賭博を看過することなく報道してほしい。
NPBという悩ましい組織の構造は変わらないが、心ある人々によって再発防止が進めば喜ばしい。

事件に巻き込まれたコミッショナーの多くは、退任後、野球のテレビ中継を一切見なくなるという。社会的地位もあり、それなりの見識がある人物が、事件に翻弄され、謂れなき非難を受け、そして何より圧力を受けておかしな最低をせざるをえなくなることに、忸怩たる思いになるようだ。
熊崎氏も自分が引き受けた職責の悩ましさに困惑しているのではないか。

00002


最後に
「人権」という言葉に過剰に反応された人に対して。
熊崎氏は反社会的な組織の関わりが明らかにできなった点に関して「認めざるを得ない」としながらも、「厳格な事実認定がないと人権に関わる」と警察への告発を見送った。
(上)で書いたが、もっと実効性のある調査をすれば「厳格な事実認定」ができるレベルまで調査が進んだ可能性はある。そうなれば警察への告発も可能になる。
NPBがこれ以上独自に調査することそのものが「人権にかかわる」わけではない。
熊崎氏は、「人権」という言葉を出すことで、それ以上の追及を逃れたのだ。

さらに「疑わしきは罰せず」の問題。
どんな問題であっても、調査段階で「疑わしきは罰せず」をうたうことはあり得ない。「疑わしき」は「白」になるまで調査をするのが当然だ。疑念が残ったままその人物を放置すれば、禍根が残る。
私はコメントのやり取りで「疑わしきは罰する」と言った。軽率で、舌足らずではあった。厳密には「疑わしきは、そのまま放置しない。疑念が晴れるまで徹底的に調査する」である。
また「李下に冠を正さず」という言葉の通り、疑念を抱かせるような行動をとることを強く戒める必要があろう。わきの甘い選手には、注意が必要だ。

残念ながら、マスメディアの論調を見ても、この事件はコミッショナーの発表で「幕引き」だという見方が大勢のようだ。司直の動きも望み薄だ。

次に噴出するのは、週刊誌などによるか、それとも第二の清武氏による「内部告発」によるか、わからないが、大きなスキャンダルに発展する恐れがあるだろう。禍根を残した幕引きである。


私のサイトにお越しいただき、ありがとうございます。ぜひコメントもお寄せください!


2015年涌井秀章、全登板成績【5年ぶりの2ケタ勝利で最多勝獲得】
発売しました!