小久保裕紀監督の解任論が渦巻いているようだ。見たくもないがネット上では、誹謗中傷が渦巻いている。
今回の采配をめぐって、資質を問う批判や責任論が噴出するのは仕方がないことだ。結果が出てしまったのだから。

しかし、ネット上での解任論は、そうした冷静な議論とは別だ。
対象となった人間を血祭りにあげないと済まないという暴徒のようなエネルギー、ネット民の力を誇示するような圧力が高まっている。
小久保監督を非難するために、過去の脱税から選手、監督時代の瑕疵まであらゆるものが並べられている。
「吊るせ!小久保を吊るせ!」
2020年オリンピックエンブレムをめぐって佐野研二郎氏が“社会的処刑”されたのと同様のムーブメントが起こっている。佐野氏のクリエイティブやコンプライアンスの問題とは別次元で、佐野氏はネット民のいけにえになったと思う。
自分たちは安全な場所にいて、誰かが苦しむこと、破滅することをあたかも「ショー」のように見物する輩が、ネット上にたむろしているのだ。これは、日本人のモラルの危機だと思う。

当サイトの読者は、たとえ小久保監督解任を主張する人でもあっても、そういう輩とは一線を画する人だと信じる。そういう動きとは無関係の人だと確信している。

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そのうえで、あえてもう一度小久保裕紀を擁護する。

まずは今回のプレミア12の位置づけについて。
きっかけはIBAF(世界野球連盟)の経済破綻だった。MLBがこれを支援し、IBAFはMLBの世界戦略にのっとって再編された。
これまでのワールドカップやその他の大会がなくなって、WBCを基軸として国際野球大会が再編される中でプレミア12は生まれた。
プレミア12は、4年に1度行われるWBCの中間の年に行われるトップチームによるプレ大会だ。
おそらくはサッカーのワールドカップの前年に行われるコンフェデレーションズカップに近い位置づけではないか。
WBCへの興味をつなぐことと、主催者側、チームが国際大会のスキルを磨くことが目的ではないかと思われる。
IBAFランキングのポイントでは、優勝すれば、プレミア12は、WBCと同じ300ポイントが加算される。
レベル、格としては世界野球最高の大会であるWBCと同じなのだ。

しかしプレミア12には予選がない。IBAFランキング12位までの国が自動的に招待される。WBCのように前年から世界各地で予選をするわけではない。
レベルは高くても、大会の規模はコンパクトであり、“予行演習”のニュアンスも大きいのだ。
だからMLBは40人枠の選手を出さなかった。
言い出しっぺではあるが、セリグコミッショナーの退任後、MLBでは“世界熱”は後退している感がある。
また11月は、数百人のMLB選手がFAになり、野球どころではない。もちろん、コンディションの管理も難しい。
MLBが選手を出さなかったので、MLBで選手が活躍している国は、それぞれ“テッペンを削られる”ことになった。

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今回、メディアはプレミア12をあたかも「世紀の一戦」のように持ち上げた。視聴率も2度目の日韓戦は25%、サッカーのワールドカップアジア予選にも勝った。
その盛り上がりのために、日本の人々はいつしかプレミア12の「格」が上がったかのように思ってしまった。

重要な大会ではあるがプレミア12は「本番」ではない。
侍ジャパンは、WBCでの優勝のために頑張っているわけであって、間の年の大会の成績はあくまで「参考」である。
もちろん、予行演習であれ、予選であれ、あまりにもふがいない戦いをすれば、指揮官の首が飛ぶこともあろう。
しかし、今回、侍ジャパンは7勝1敗、負けたのも1点差である。
いろいろ言われるが、小久保裕紀の失敗は「致命的」とは思えない。解任するほどの過失はなかったと思う。

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もう一つ、小久保裕紀監督に対する非難は、「勝って当たり前の大会で負けた」という認識から来ている部分が多いだろう。
しかし、ふたを開ければ日本は苦戦の連続だった。
私は中南米のチームの戦い方が、2013年のWBCから変化したと考えている。
彼らなりに「作戦」を立てるようになった。振り回すだけでなく、足を使ったり、バントをしたり、細かな連携をするようになった。
侍ジャパンは8試合で6つしか犠打を記録していない。炭谷のように肝心のところで失敗した選手もいる。
それに対してメキシコ、ドミニカなどの打線は、セーフティバントを駆使した。スモールボールのお株を奪うような戦い方を見せた。
また日本投手に対する攻めも厳しかった。鋭く踏み込み、きっちりと振りぬく打撃は、たびたび日本人投手を脅かした。
AAA主体のチームであっても、頭を使い、連携すれば日本と好勝負を演じることができるのだ。
ましてや韓国との実力差は、大谷翔平を差し引けば、ほとんどなかったのだ。負けても何ら不思議ではなかった。

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2006年、2009年に連覇を果たしたことで、日本の野球は世界一だと思う人が増えた。
しかし野球をよく知る人はそうは思っていないはずだ。
MLBが本気でチームを仕立てていないのだから。
MLBでのNPB出身選手の戦いぶりを見れば、日本はまだマイナーだと実感させられる。

では、日本はアメリカに次いで2位なのか?
それも私は疑問符が付くと思う。日本は、国際大会のために真剣に準備をしている。金も時間もかけて選手たちを仕上げている。士気も錬度も高い。さらに情報分析も緻密だ。
それは飛田穂州以来の伝統である「小さな体の日本人が体の大きな外国人に勝つにはどうすればいいか」を突き詰めたものだと思う。

しかしながら選手個々の能力やポテンシャルで日本は、他国に比べてとびぬけているわけではない。
今までは「真剣味」の差で勝てただけではないか。
他の国も日本同様の準備をしだせば、日本は「常勝」どころではないはずだ。
今はまさに、その「変わり目」にいるのだと思う。

いずれは“全員が大谷翔平”みたいなMLBが、真剣な面持ちで参戦するだろう。そうであってほしいと思う。
その時に向けて、侍ジャパンは成長し続けているのだと思う。

プレミア12の敗戦は、そうした位置づけで見るべきではないか。2017年のWBCまで2年、ここで新たな監督を立てるのは現実的ではない。
西武の3選手がファン感謝デーで小久保采配や侍ジャパンの不備を批判したが、彼らとて西武の田辺監督の采配ミスやマネジメントの不備を、マスコミの前で口にしたりすることはないはずだ。認識が間違っていると言わざるを得ない。
批判は、反省会など組織内のミーティングで、指導者に直接言うべきだ。歯に衣着せず言えばよい。
それをせず、憶測が飛び交うことを知りながら冗談めかして話したのは、侍ジャパンのユニフォームを着ていることの意味が理解できていないとしか思えない。

小久保監督の去就とは別に、今回の失敗をプラスにするのか、マイナスにするのか、それによって侍ジャパンの未来は変わってくるだろう。


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