ずっと言い続けてきたことだが、新しい読者の方もいる。少し誤解をされているようなので、説明をしておきたい。
「金満」は「金持ち」とはニュアンスが異なる。「金は持っているが、その使い方が適切でない」という意味合いを含んだ言葉である。
巨人は、昭和の時代から圧倒的な経済力を誇り、他の球団とは懸絶した大型補強をしてきた。
その中ではドラフト破りや裏金などのコンプライアンス違反すれすれの行為やモラルハザードも起こしてきたが、それを「金満」と言っているわけではない。
「金満」とは効率の悪い投資、あるいは選手の可能性を減じるような投資だ。
その典型が「FA移籍」だ。
FA制度は、実質的に他球団の有名選手が巨人に移るための方法論だった。
落合博満、廣澤克己、清原和博、江藤智、小笠原道大、村田修一、杉内俊哉、大竹寛、片岡治大。彼らは巨額の複数年契約によって、移籍をした。移籍当初は働いたが、次第に成績が下落し、最後は不良資産化するのが常だった。
巨人のFAとは、一言で言えば、実力がピークの時に契約をし、キャリアの下り坂の部分を高額で買い取ることだった。他球団でもなくはなかったが、圧倒的に巨人が多かった。
これは選手を活かした補強とは言えない。
MLBでもこうした事例が多くみられるが、MLBの場合、FAで大型契約を結ぶ選手は成績が下落することまで見越していることが多い。「金融商品」を取引するようなイメージがある。
しかしNPBにはそんな“金融市場”はない。巨人の場合、マネーゲームではなく、チームの損失になるにもかかわらず有名選手を取り続ける。そして成績が落ちても優先的に使うことが多いのだ。
割を食うのは生え抜きを中心としたノンブランドの選手だ。彼らは他球団ならレギュラーになる実力があっても、二軍や一軍半で終わることが多い。
もう一つ言うなら、巨人はシーズン中に「競争」をさせる。力の似通った選手を同じポジションで起用し、調子が落ちたら他の選手と交代させることが多い。これは一見合理的に見えて、実際は選手の持ち味を殺す起用だ。
過去2年のNPBの打者の成績を打数別に出してみる。
打数が多い選手ほど打撃成績が良い。
「いい選手だからたくさん起用されるのだろう」と言われるかもしれない。
それも事実だが、それだけではない。
野手は長く起用してこそ力を発揮するものでもある。
143試合に出れば.300を打ち30本塁打、OPS.850になる実力の選手が2人いるとする。
彼らを1試合おきに使ったり、1か月おきに使ったときに、2人の成績の合計は、.300、30本塁打、OPS.850になるだろうか?
多くの場合、そうはならないのだ。野手は好不調を繰り返しながらシーズンを戦う。使い続けることで、成果を生んでいくものなのだ。
それは過去の選手たちのSTATSを見ていればすぐにわかることだ。
外国人選手の中には起用されていきなり打ちまくる選手もいる。「いいところを見せよう」とするのだ。こういう選手は終わってみれば平凡な成績になっていることも多い。今季のカラバイヨがその典型だ。
しかし、日本人選手の場合、長く起用し、経験を積ませる中でじわじわと実力を蓄えることが多いのだ。
数週間程度で調子が落ちたからと言って引っ込めたりしていると、選手の経験値が増えないし、調子に乗ることもできない。
野手は一度起用すると決めたら、よほどひどい成績でない限り1シーズンは使ってみなければ結論は出せないのだ。
多くのチームではポジション争いはキャンプ、オープン戦の間に終わる。開幕すれば、故障がない限りその選手にポジションを託すものなのだ。
巨人は、ペナントレースの最中に選手をとっかえひっかえした。他球団でもなくはなかったが、巨人の場合、それが非常に多かった。これでは、育つべき選手も育たない。
書き方が悪かったために少し誤解をされたようだが、私は今年岡本和真がレギュラーを取れたと言ったのではない。
来季、岡本を一塁、三塁などで起用し続ければ、シーズン終盤には一人前になっているのではないか、という意味だ。西武の森友哉を意識して書いた。
大田泰示なども、そうだったのではないかと思う。
しかし、今年の補強を見る限り、岡本の起用は中途半端なものに終わるだろう。
中井大介、寺内崇幸、立岡宗一郎、橋本到など、過去にレギュラーに定着しそうな選手は何人もいた。
しかし、チームはその翌年には外国人や他球団からの移籍選手でポジションを埋めてしまう。
シーズン前に監督は「新加入選手と競争してポジションを取れ」というが、そもそも大枚をはたいて選手を獲得した時点で、その選手を優先的に起用することは規定事実になっている。
若い選手を我慢して使い続ける覚悟をしない限り、若手選手が一人前になることはあり得ないのだ。
一方で力が落ちた片岡をサンクコストの呪縛で使い続け、一方で伸び盛りの若手には限定的な機会しか与えない。それが残念で仕方がなかった。
今季も巨人は内野にクルーズ、外野にギャレットというレギュラークラスの外国人を補強した。その上にFAで脇谷を入れた。
井端弘和、高橋由伸、金城龍彦が引退したためだろうが、そういうときこそ若手を抜擢すべきはずだ。
しかし、巨人はそうはせず、有名選手を取ってくるのだ。リスクを冒して新しい可能性を拓こうとはしない。
坂本勇人、長野久義を最後に、巨人は生え抜きのレギュラーを作っていないのだ。
私はこれを「金満」だと言っている。チームにあいた穴を子飼いの選手ではなく「金」で埋めようとしているのだ。
ソフトバンクは巨人を上回る金持ちだが、このチームは一つのポジションに複数の選手を使ったりすることはない。過渡的にそういう時期はあっても、レギュラーを固定しようとする。
ソフトバンクだけでなく、他の球団はおおむねそうする。コストを考えても、選手の可能性を考えてもロスが大きすぎるからだ。
巨人は昭和の時代「よそのレギュラークラスもうちにくれば、控えだよ」とうそぶいていたものだが、レギュラークラスを中途半端に使う伝統はいまだに生きているようだ。
阪神や中日でも一部そういう傾向があるが、こういう補強を常習的にするチームは巨人くらいだ。
そのために巨人の打撃はリーグ最低レベルにまで落ち込んだ。
その背景には「毎年優勝しなければならない」というプレッシャーがあるのだろう。しかしどんなチームでも「過渡期」「後退期」はある。それがあってこそ「伸長期」「全盛期」があるのだ。それをそろそろ理解すべきだろう。
「金満」とは資金と選手の可能性を無駄遣いするやり方のことなのだ。ご理解いただけるだろうか。
※投手起用の考え方は全く異なる。ここでは野手のケースのみ述べた。
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その中ではドラフト破りや裏金などのコンプライアンス違反すれすれの行為やモラルハザードも起こしてきたが、それを「金満」と言っているわけではない。
「金満」とは効率の悪い投資、あるいは選手の可能性を減じるような投資だ。
その典型が「FA移籍」だ。
FA制度は、実質的に他球団の有名選手が巨人に移るための方法論だった。
落合博満、廣澤克己、清原和博、江藤智、小笠原道大、村田修一、杉内俊哉、大竹寛、片岡治大。彼らは巨額の複数年契約によって、移籍をした。移籍当初は働いたが、次第に成績が下落し、最後は不良資産化するのが常だった。
巨人のFAとは、一言で言えば、実力がピークの時に契約をし、キャリアの下り坂の部分を高額で買い取ることだった。他球団でもなくはなかったが、圧倒的に巨人が多かった。
これは選手を活かした補強とは言えない。
MLBでもこうした事例が多くみられるが、MLBの場合、FAで大型契約を結ぶ選手は成績が下落することまで見越していることが多い。「金融商品」を取引するようなイメージがある。
しかしNPBにはそんな“金融市場”はない。巨人の場合、マネーゲームではなく、チームの損失になるにもかかわらず有名選手を取り続ける。そして成績が落ちても優先的に使うことが多いのだ。
割を食うのは生え抜きを中心としたノンブランドの選手だ。彼らは他球団ならレギュラーになる実力があっても、二軍や一軍半で終わることが多い。
もう一つ言うなら、巨人はシーズン中に「競争」をさせる。力の似通った選手を同じポジションで起用し、調子が落ちたら他の選手と交代させることが多い。これは一見合理的に見えて、実際は選手の持ち味を殺す起用だ。
過去2年のNPBの打者の成績を打数別に出してみる。
打数が多い選手ほど打撃成績が良い。
「いい選手だからたくさん起用されるのだろう」と言われるかもしれない。
それも事実だが、それだけではない。
野手は長く起用してこそ力を発揮するものでもある。
143試合に出れば.300を打ち30本塁打、OPS.850になる実力の選手が2人いるとする。
彼らを1試合おきに使ったり、1か月おきに使ったときに、2人の成績の合計は、.300、30本塁打、OPS.850になるだろうか?
多くの場合、そうはならないのだ。野手は好不調を繰り返しながらシーズンを戦う。使い続けることで、成果を生んでいくものなのだ。
それは過去の選手たちのSTATSを見ていればすぐにわかることだ。
外国人選手の中には起用されていきなり打ちまくる選手もいる。「いいところを見せよう」とするのだ。こういう選手は終わってみれば平凡な成績になっていることも多い。今季のカラバイヨがその典型だ。
しかし、日本人選手の場合、長く起用し、経験を積ませる中でじわじわと実力を蓄えることが多いのだ。
数週間程度で調子が落ちたからと言って引っ込めたりしていると、選手の経験値が増えないし、調子に乗ることもできない。
野手は一度起用すると決めたら、よほどひどい成績でない限り1シーズンは使ってみなければ結論は出せないのだ。
多くのチームではポジション争いはキャンプ、オープン戦の間に終わる。開幕すれば、故障がない限りその選手にポジションを託すものなのだ。
巨人は、ペナントレースの最中に選手をとっかえひっかえした。他球団でもなくはなかったが、巨人の場合、それが非常に多かった。これでは、育つべき選手も育たない。
書き方が悪かったために少し誤解をされたようだが、私は今年岡本和真がレギュラーを取れたと言ったのではない。
来季、岡本を一塁、三塁などで起用し続ければ、シーズン終盤には一人前になっているのではないか、という意味だ。西武の森友哉を意識して書いた。
大田泰示なども、そうだったのではないかと思う。
しかし、今年の補強を見る限り、岡本の起用は中途半端なものに終わるだろう。
中井大介、寺内崇幸、立岡宗一郎、橋本到など、過去にレギュラーに定着しそうな選手は何人もいた。
しかし、チームはその翌年には外国人や他球団からの移籍選手でポジションを埋めてしまう。
シーズン前に監督は「新加入選手と競争してポジションを取れ」というが、そもそも大枚をはたいて選手を獲得した時点で、その選手を優先的に起用することは規定事実になっている。
若い選手を我慢して使い続ける覚悟をしない限り、若手選手が一人前になることはあり得ないのだ。
一方で力が落ちた片岡をサンクコストの呪縛で使い続け、一方で伸び盛りの若手には限定的な機会しか与えない。それが残念で仕方がなかった。
今季も巨人は内野にクルーズ、外野にギャレットというレギュラークラスの外国人を補強した。その上にFAで脇谷を入れた。
井端弘和、高橋由伸、金城龍彦が引退したためだろうが、そういうときこそ若手を抜擢すべきはずだ。
しかし、巨人はそうはせず、有名選手を取ってくるのだ。リスクを冒して新しい可能性を拓こうとはしない。
坂本勇人、長野久義を最後に、巨人は生え抜きのレギュラーを作っていないのだ。
私はこれを「金満」だと言っている。チームにあいた穴を子飼いの選手ではなく「金」で埋めようとしているのだ。
ソフトバンクは巨人を上回る金持ちだが、このチームは一つのポジションに複数の選手を使ったりすることはない。過渡的にそういう時期はあっても、レギュラーを固定しようとする。
ソフトバンクだけでなく、他の球団はおおむねそうする。コストを考えても、選手の可能性を考えてもロスが大きすぎるからだ。
巨人は昭和の時代「よそのレギュラークラスもうちにくれば、控えだよ」とうそぶいていたものだが、レギュラークラスを中途半端に使う伝統はいまだに生きているようだ。
阪神や中日でも一部そういう傾向があるが、こういう補強を常習的にするチームは巨人くらいだ。
そのために巨人の打撃はリーグ最低レベルにまで落ち込んだ。
その背景には「毎年優勝しなければならない」というプレッシャーがあるのだろう。しかしどんなチームでも「過渡期」「後退期」はある。それがあってこそ「伸長期」「全盛期」があるのだ。それをそろそろ理解すべきだろう。
「金満」とは資金と選手の可能性を無駄遣いするやり方のことなのだ。ご理解いただけるだろうか。
※投手起用の考え方は全く異なる。ここでは野手のケースのみ述べた。
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